第19回「聞く」〈基本〉
「契約は大丈夫だって言ってたじゃないか!」
営業部門では昔から若手の「大丈夫そうです」という受注見込み報告は最大限に疑ってかかれという認識があります。先方との会話をよくよく再現させてみると、決して「大丈夫」と言えるような状況ではないことが多いからです。
今回のテーマは「聞く」です。私たちは人の話を聞く時に、無意識のうちに「都合よく」聞いてしまう傾向があります。顧客の発言を聞いて、営業部の若手が「大丈夫」と判断してしまいがちなのは、「売りたい」「契約したい」という思いが強すぎて、自分に都合のよい情報をつまみ食いするかのように聞き取ってしまうからです。つまみ食いだけではなく、都合よく曲解して聞き取ってしまうことも少なくありません。
- 「いい商品ですよね。(やった!)でも...(以下は聞こえない)」
- 「上司にも伝えました。(やった!)でもまだ... (以下は聞こえない)」
これらは「バイアス(偏り)」と呼ばれ、我々人間誰もが注意しなくてはいけない性質のもので、正確に情報を聞き取る上で大きな障壁になるものです。正しく聞き取ることを邪魔する「バイアス」にはどのようなものがあるかを理解し、その回避方法を身に着けて、大きなトラブルを避けていきましょう。
1.セレクティブリスニング
「セレクティブリスニング」とは、「都合のよい情報だけを選択(セレクト)してしまう」傾向です。社会心理学的には「確証バイアス」とも言われます。
「先日ご紹介させて頂いた製品Aの件ですが、いかがでしょうか?」
「先日はわざわざありがとうございました。貴重なお話を伺えましたし、よい提案を頂いたので同席した部長も喜んでいました」
「そうですか!」
「私も非常によい製品だと思います。何点か質問してもよろしいでしょうか?」
「どうぞどうぞ!」
「まずお値引きは難しいんですよね?」
「うーん。そうですね。上司に確認してみます」
「やはり導入コストが問題にはなっているんです。まあ機能がすごいですから、当然の価格といえば当然なのですが、弊社もなかなか苦しい状況なので」
「この機能はまだどこも搭載していないんです」
「導入時の使用法説明会などは開催してもらえますか? 古い製品に慣れてしまっている社員が多いので効率的に進めたいのです。開発者が説明してくれれば、すぐに慣れてくれると思います。まあこういうのは慣れてしまえば前には戻れなくなるようなものなのでしょうけどね」
「そうなんです! 慣れてしまえば、業務改善が大きく進むのは間違いないので心配しないでいいと思います」
この会話を終えて、製品を売りたい若手営業マンの頭に残っているのは
- 貴重なお話 よい提案 部長喜び
- 担当もよい製品だと言っている
- 機能がすごいと言っている
- 慣れるのは問題ない
といった自分にとって都合のよい情報です。これらを根拠にして上司には「契約は間違いない」というような報告をしてしまうものなのです。