ビジネストラブル撃退道

仕事相手の“ちゃぶ台返し”に怒るより「そうですか」で済ませる方が賢いワケ (2/2ページ)

中川淳一郎
中川淳一郎

 重要な先行投資

 正直、クライアントは我々のような下請け事業者からすると遠い存在過ぎる。「天の上の人」のような感覚のため、彼らが何かを覆したとしても「まぁ、そういうこともあるよな」ぐらいの感覚しか抱かなくなってきた。むしろ、「余計な作業をさせてしまい申し訳ありません…」とお詫びをしてくる「チームメイト(広告会社)」に対して「大丈夫です。○○さんも大変でしたね」とねぎらうことができるようになった。

 ちゃぶ台返しを通告された時に平然と「そうですか」と言っておけば、取りあえず「一つ貸しは作った」という状態になるため、その後別の仕事を振ってもらえるかもしれないし、「あの時のお詫びで」と少し報酬を上乗せしてもらえることもある。

 これはあくまでも私の営業スタイルではあるものの、「あの人は何があろうがおろおろしない」「あの人はこちらの苦労を分かってくれる」という評価を得ることは、その人と末永く付き合うにあたり、実に重要な先行投資となる。

 当連載のテーマは「ビジネストラブル」だが、トラブルは実はその後の関係性発展のために重要なチャンスでもある。人間というものは、「楽しい時間を一緒に過ごした」というよりも「辛い時間を一緒に乗り切った」方が絆が深くなるし、思い出が深くなる。20年前の仕事仲間と今会うと、しみじみとしながらこんな会話になる。

 「いやぁ~、あの時はつくづく参ったよな」

 「そうですよ! だって突然山森さん(クライアントのキーマン)がキレ始めて『明日までに全部作り直し!』とか言ってきたんですもんね」

 「しかも出張中だったもんだから、ホテルの部屋に全員集合して朝まで作業するという…」

 「いやぁ~、それにしても眠かったなぁ、ガハハハ!」

 「まぁ、なんとか乗り切ったから今、こうしてオレ達も会えているわけじゃないですか!」

 「あるよな、仕事してるとこんなことばっかだよな」

 かくして「労働者」たる我々は「戦友」「盟友」を見つけ、トラブルでさえもキラキラとした思い出に変えるスキルを身につけていくのである。その時の心構えは「はい、分かりました」であり「なんとかしてみますね」だ。文句を言っても物事は進まない。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう) ネットニュース編集者
PRプランナー
1973年東京都生まれ。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『謝罪大国ニッポン』『バカざんまい』など多数。

【ビジネストラブル撃退道】は中川淳一郎さんが、職場の人間関係や取引先、出張時などあらゆるビジネスシーンで想定される様々なトラブルの正しい解決法を、ときにユーモアを交えながら伝授するコラムです。更新は原則第4水曜日。アーカイブはこちら

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