ミラノの創作系男子たち

虐殺の地に「金色の花」2万7000本 歴史の記憶をとどめるために (1/3ページ)

安西洋之
安西洋之

 大人になったらファッションデザイナーになりたいと思っていた少年は、スケート競技に夢中だった。身体をアーティスティックに動かすことを22歳まで続け、ナショナルレベルの大会に出る実力だった。

 「目指すべきものと、自分のできることの間に距離があることは、小さい時から常に意識していた。もちろん、目標レベルに近づけば、それが更に遠のくことも学んだけどね」

 このようにペルージャ生まれのジャンニ・モレッティは語る。1978年生まれの彼には、子ども心にファッションシーンの象徴としてジョルジョ・アルマーニやロベルト・カプッチがいた。

 しかし、彼はファッションデザイナーへの道へは進まず、アーティストを目指す。ボローニャ大学で美学や美術史を勉強し、途中から絵画の実技を学ぶために美術アカデミアにも並行して通いはじめ後者を卒業。その後、ミラノでアーティストとして活動している。

 直近の展覧会で発表したのは、「サンタンナ・スタッツェーマのアンナ」に捧げる作品だ。

 サンタンナ・スタッツェーマとはイタリアの中部・トスカーナ州にある小さな村だ。1944年8月12日、ナチスの兵士たちがやってきて、560人以上の一般市民を虐殺する事件があった。多くは女性や子どもだ。第二次世界大戦時の膨大な汚点の1つである。映画にもなっている。

 アンナとは生後僅か20日の赤ん坊だ。殺された人々のなかで最年少だった。 

 ジャンニはおよそ2万7000本のキク科のカルドの花を模した、大きな釘のようなモノを用意した。花の部分が直径4センチの金色の鉄、長さ19センチの茎はアルミニウムだ。

 人が殺された場所には、人の形をした花が咲くとのドイツの古い神話に倣ったのだ。これを1人1人が手に取って、サンタンナ・スタッツェーマの地に植え込むことでモニュメントとして作品は完成する。山の小道に金色の花が風景のなかで光る。 

 「2万7000本とは、アンナが今日まで生きられなかった日数だ」とジャンニは話す。

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