伝統的なリアリズム小説とは一線を画す、鋭い寓意と過激さに満ちた自身の叙述方法を「神実主義」と呼ぶ。「早過ぎる経済成長により今の中国はどの国の人にも理解できない複雑さの中にいる。この現実を表現するためには新たな文学的様式が必要です」。改革開放政策の影に迫る長編『炸裂志(さくれつし)』(13年)に象徴的な記述がある。作中で、昇格を決めた主人公がその任命書を示した途端、目の前の女性が一糸まとわぬ姿で横たわる。枯れた枝にも満開の花がつく。そんな現実離れした描写が、中国では権力に不可能はないという理屈を超えた“真理”を強調する。早稲田大の千野拓政教授(中国近現代文学・文化)は「作品の核にあるのはおそらく彼が実際に見てきたこと。むちゃくちゃな話ばかりだが不思議と『これはあり得る』と感じさせる」と魅力を語る。
現代中国を覆う悲喜劇の実相は時を経ないと見えてこない。作家は未来に向けて、その判断材料を地道に積み上げる。(海老沢類)
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Yan Lianke 1958年、中国河南省生まれ。80年代から創作を本格化させ、92年の『夏日落』、2005年の『人民に奉仕する』は発禁処分に。05年に『愉楽』で老舎文学賞。13年と16年に国際ブッカー賞最終候補。14年にフランツ・カフカ賞を受けた。