ブランドウォッチング

「ファミマよ、お前もか」 新プライベートブランド「ファミマル」推進の既視感

秋月涼佑

 去る10月18日に発表されたファミリーマート新プライベートブランド(以下PB) 「ファミマル」が店頭に並び出しました。新PBは「業界トップ」を目指す同社の起爆剤と言う位置付けで鼻息が荒いですね。

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 従来の「ファミリーマートコレクション」と「お母さん食堂」を統合し、「ファミマル」に一本化して強化推進していくとの方針です。

 ファミリーマートが目指すPBの売上比率は35%以上ということで、気がつけばコンビニのPB比率はスゴイことになっています。業界リーダー、セブンイレブンのPB「セブンプレミアム」はすでに売上高1兆4500億円(2021年2月末)、単品で10億円を超える商品がざらにあるということですから、そんなセブンイレブンに対する根強い生活者の支持を見れば、当然競合社も意識せざるを得ません。

 出店戦略から始まり、マーチャンダイジング、マーケティングそして今や商品開発についてもコンビニブランドの旗印を掲げた戦いが繰り広げられる様は、まさに戦国時代。さらに近年ではローソンに三菱商事、ファミリーマートに伊藤忠商事と大資本が本格的に資金投入し王者セブンイレブンに挑もうというわけですから、上位三社がしのぎを削る三国志的様相は傍で観ている分には面白いのですが、当事者、関係者には苛酷そのものであるに違いありません。

 それにしても著書などでPBブランド推進について一定の慎重姿勢を見せていた前社長、澤田貴司氏が3月1日に伊藤忠商事出身の細見研介氏にその座を譲って(澤田氏は副会長に就任)間を置かずしての新PBの立ち上げは嫌が応でも、風雲急を告げる印象です。

メーカー対コンビニバイヤーせめぎ合いの歴史

 PBの拡大は、ナショナルブランドで戦ってきた歴史的なメーカーにとってはまさに死活問題です。いずれ過半の商品をPBで埋め尽くそうかという勢いのコンビニ各社のPB推進戦略に、各メーカー戦々恐々であることは間違いありません。まして、コンビニに限らず大手スーパー各社もPB開発に注力しています。かつて日本国内すべての小売をテリトリーとして販路を持ち、それゆえナショナルブランドと呼ばれてきた大量消費時代かつての王者たちも、生息領域がにわかに脅かされつつあるのです。

 自ブランドで生活者に独自のマーケティングを行い、名前を憶えてもらい購入消費してもらうことと、製造者としてのみの記載になり「指名買い」の価値を手放すことでは、事業者としてのイニシャチブ面で天国と地獄のような違いがあります。

 すでにこのメーカーとコンビニ本部とのせめぎ合いは、コンビニ業態の伸張に並行して営々と進行してきたこともまた事実です。年々、メーカーサイドは各コンビニブランド向け独自商品の開発を購買の条件として突きつけられてもきました。メーカーとしてみれば開発コストや製造コストを考えれば、全国一律商品を10年以上も定番として売ることが可能だった時代はまさに牧歌的な過去のものとなったわけです。

 ほとんどの場合結論は決まっています。コンビニの棚があるとないとで、販売額がまったく変わってくるゆえ背に腹は代えられない選択で、自社の定番ブランドに新フレーバーなどを開発し、1000本ノックのごとく各コンビニに独自商品を供給したものだけが棚を与えられる状況は、今となってはコンビニPB時代の前哨戦に過ぎなかったと言えるかもしれません。

 一方でさすがに自社ブランドに自信と思い入れがある大手メーカー各社は、コンビニPBのサプライヤーになることには大きな抵抗、戦いがあったと時折漏れ伝わってきたわけですが、もはやPBのサプライヤーとして軍門に下った事例は枚挙にいとまがない情勢です。

 と、メーカーの視点から見れば、切ない情景に違いないわけですが、それもこれもコンビニ各社に絶大な購買力=販売力あってのこと。つまり生活者の支持があるわけで、大義があることに疑いの余地はありません。実際にPB商品への熱い支持は、ネット上でも往々「コンビニPBの○○食べたら、優勝した」などとレビューネタの定番と化しているほどで、やはり売り場に近い、生活者に近いコンビニならではの生活者インサイトの発掘量や機動力で、メーカーの商品開発文法を良い意味で無視した痒いところに手が届くような商品や、美味しさの追求には高い評価があるように思います。

 また、定価販売の建前は崩してしまえば二度と後戻りできないルビコン川に違いなく、PBがバイイングパワーで得た低価格仕入れの果実を生活者に還元する装置となっていることも見逃せないところです。実際にコストパフォーマンス面の安心感がPBへの高い評価の土台となっています。つまり美点を言えば、競争と努力で、世界のコンビニ(KONBINI)という別格のレベルに成長した日本モデル一つの到達点がPBの確立と言えるかもしれないのです。

一色染めのつまらなさ

 とは言え「好事魔多し」、良い状況に落とし穴は付き物です。やはり最近のPB商品で埋め尽くされつつあるコンビニの売り場を見ていますと、やり過ぎ感、強引さの気配が感じられ始めたように思えてなりません。その印象は新PBがスタートしたファミリーマートでも同様です。

 ちょっと厳しい言い方かもしれませんが、「独善性」とか「強者・資本の理論」などというワードがどうしても頭によぎってしまうのです。圧倒的なバイイングパワーで供給者を「いつでも」「より安く」「やり自在に」選定できるコンビニ側にとっての都合の良さ。

 マーケティング面・販促面でも、コンビニブランドにすべての価値が集まるので、それぞれの製品がパッケージ開発、広告販促を行っていたことに比べて圧倒的にお手軽です。製品パッケージ開発でさえ自社PBテンプレートにあてはめるだけでいくらでも製品化できてしまいます。実際にPB商品のパッケージは印刷手法的にもかなりお手軽・汎用的が通例です。

 シンプルと言えば聞こえが良いですが、商品開発ともなればそれぞれ都度、精魂を込めた独自書体を開発し、通常の印刷で色味が出なければコストをかけてでも特色という独自色の印刷にこだわる心あるデザイナーからすれば卒倒しそうな代物だったりします。

 やはり、あまりに無機質で単調な一色染めはコンビニの棚自体、お店自体の陳腐化につながるのではないでしょうか。実際に一足先にローソンが導入した新PBにネット上で賛否がわきあがった件では、基本的な視認性や判別性の悪さなどはマイナーチェンジで改善されつつあるようですが、PB自体が内包する強者の論理が図らずも生活者に伝わった部分もあったように思います。

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今のところ、ファミリーマート新PBではローソンPBでの批判をふまえたのか、商品内容の分かりやすさ、判別しやすさなどにはそれなりの気配りがされているように見受けられます。しかしながら、盛者必衰は世の理。それは流通業界の勝者たるコンビニ各社が一番知るところに違いありません。

 例えば、最近ショッピングモールなどでは世界各国や珍しい地方産品などを扱うバラエティーショップが人気のようです。まだまだ数字的に競争するような状況ではないでしょうが、生活者は常に驚き、発見を製品・売り場に求めて飽き足らない存在であることもまた事実です。PBでそんな素朴な欲求に十分こたえられるのでしょうか。さらに言えば、今や競争相手は、ネット上にも多数存在するのです。

 ブランドを人格で評価する手法がありますが、今までのコンビニは「とにかく熱心、一番身近な街一番の働き者」という好感度があったように思います。そこにあまりにも企業的、資本的論理。強者の論理は似合いません。ぜひそんなことも意識しながら、PB開発を行っていただきたいと思うのでした。

秋月涼佑(あきづき・りょうすけ) ブランドプロデューサー
大手広告代理店で様々なクライアントを担当。商品開発(コンセプト、パッケージデザイン、ネーミング等の開発)に多く関わる。現在、独立してブランドプロデューサーとして活躍中。ライフスタイルからマーケティング、ビジネス、政治経済まで硬軟幅の広い執筆活動にも注力中。
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