リモートワークが常態となり、上司の皆さんはこれまで以上にマネジメントやコミュニケーションについてご苦労されていらっしゃるようです。先日、当社の「経営者JP総研」が行った調査では、上司の皆さんの66%が「マネジメントに苦労を感じる」、75.3%が「コミュニケーションに課題を感じる」と回答されていらっしゃいました(経営者JP総研エグゼクティブウォッチ「アフターコロナに向けて、経営者・エグゼクティブの働き方に関する調査」)。コロナ前以上に、チームの活性化に心を砕く上司の方々が増えていらっしゃいますね。
そのような折に、「活力ある組織・チームは、狙って創れる」と言ったら、驚かれるでしょうか。「えっ、嘘でしょ? そんな都合の良いこと、あるの?」と思われるかもしれません。しかし、あるのです。今回はその方程式を紹介いたします。
組織エンゲージメントを高める方程式
活力ある組織・チームは、当然のことながら活力あるメンバーたちから成り立ちます。では、活力あるメンバーとはどのようなメンバーでしょう? これは皆さんが想像される通り、個人としてのモチベーションが高く、組織エンゲージメントの高いメンバーですね。
モチベーションの方程式としては、心理学者のアトキンソンが提唱する以下の公式が有名です。
やる気の強さ = 達成動機の強さ × 主観的な成功確率による課題の魅力 × 成功報酬
これを見て「なるほど」と思われる方もいると思うのですが、我々(経営者JP)はこのアトキンソンの方程式は、ある一つのテーマ・プロジェクト単位でのモチベーションを高める公式と捉えています。皆さんの四半期や半期、年度の業績目標、あるいは重要プロジェクトの達成に該当します。MBO(Management by Objectives、目標管理制度)やOKR(Objectives and Key Results、目標と主要な結果)でテーマ設定を行い、「よし、やってやるぞ」と期間中取り組み、その達成度合いで給与UPが決まったり大きなインセンティブが出たりする。こうしたアクションにおけるモチベーションですね。
もちろん私たちは、こうした目標を連ねて仕事をしていくものですが、そもそもとしてもう少し基盤的な、中長期的な視点でのモチベーション公式があるのではないかと考え、さまざまな実例と考え方を集約し、次のような方程式に至りました。
中長期的なモチベーション = (やりがい×成長)+(承認×仲間)
いかがでしょう? 私たちはやりがいある仕事を任され、それを通じて成長を実感することができ、取り組んでいることを周囲に認められ、それを承認してくれる人たちを仲間だと思えることで、日々ともに仕事へ取り組むことができるのです。このような環境に置かれ続けている限り、その人はモチベーションが高く、組織エンゲージメントも高い状態でい続けられるでしょう。
ちなみに、ご参考までに、短期的なモチベーション(やる気)は「作業興奮」と「継続習慣」から創出されます。
短期的なモチベーション(やる気) = 「作業興奮」 + 「継続習慣」
「作業興奮」とは、何か作業を(嫌々でも)し始めると、気づかないうちにエンジンが掛かって作業が進む(楽しくなってくる)生理現象です。片付けや掃除をし始めると、事前に思っていたよりハマってしまった経験、おそらくありますよね?
「作業興奮」で着火して、「継続習慣」があると勢いにノリやすいのが、私たち人間の習性。せっかくの本能的な部分ですから、仕事にも活かさねば損です。
3つ満たせば最強? 良いコンディションを保つ方程式
さて、メンバーたちの活力ある状態は、中長期的なモチベーション方程式で創れますが、もうひとつ、メンバーたちが良いコンディション、健康的な状態で働いてもらうための法則もあるのでご紹介しておきましょう。
「首尾一貫感覚、SOC(sense of coherence)」と呼ばれる感覚があります。これは健康を増進し、ストレス対処に長けた人が抱く感覚だと言われています。それは、以下のように成り立っているそうです。
「首尾一貫感覚、SOC(sense of coherence)」 = 「有意味感(やりたいテーマ)」+「全体把握感(全体の中で自分の役割が分かる)」+「経験的処理可能感(できる気がする)」
「Coherence」には「首尾一貫」という意味と「統一性、全体感」という意味もあり、「広く俯瞰して、全体として整っている状態」を意味します。「やりたい」「どの部分を担っているか分かる」「できる気がする」という状況が揃うと、そのことについて全体感、一貫性ある取り組みができる感覚を持てるということですね。
精神的に健康な状態、ストレスに対処できる状態とは、自らコミットできてコントローラブルな状態であることだと認識し、極力この状況を獲得し保つにはどうすれば良いかを考え動くことが非常に重要です。
まとめついでに、<第15回 2019/6/10社長になる人は動機付けがうまい。社員のやる気を引き出す「5つの特性」>で紹介した、ハックマン=オルダムの職務特性モデル「モチベモチベーションが上がる仕事の5つの特性」も活用して欲しいのでおさらいしておきましょう。
「技能多様性(Skill variety)」「タスク完結性(Task identity)」「タスク重要性(Task significance)」「自律性(Autonomy)」「フィードバック(Feedback)」の5つの特性を満たすことによって「有意味感」や「責任感」などの心理状態が発生し、モチベーションがUP。それが仕事の成果につながっていくと考えられています。詳細はぜひバックナンバーをご覧ください。
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やる気、やりがい、健康的なコンディションは全て、意図して創出でき、コントロールできるのです。常時とまではいかなくとも、今回ご紹介した方程式と構成因子を頭に入れておいていただき、折々、思い返したりチェックしてみて欲しいのです。それだけで、あなた自身とチームメンバーのモチベーション、組織エンゲージメントのレベルはぐんと高まりますよ。社長を目指す上司のあなたなら、一式、身につけておきたいですね。
【社長を目指す方程式】は井上和幸さんがトップへとキャリアアップしていくために必要な仕事術を伝授する連載コラムです。更新は原則隔週月曜日。アーカイブはこちら