社長を目指す方程式

喉から手が出るほど欲しい…「チームプレー」に長けた人物の見抜き方

井上和幸

《今回の社長を目指す法則・方程式:パトリック・レンシオーニ「理想のチームプレーヤー・モデル」》

 上司の皆さんはメンバーたちに、チームプレーを求めていることでしょう。同僚や上司、あるいは社外のパートナーとも気持ちよく、うまく仕事をし、チームの活動に付加価値を与えてくれるメンバー。そのような頼もしいメンバーたちでチームを構成したいと願っているはずです。

 チームプレーに長けたメンバーを育成することも上司の重要な役割ですが、一方でコロナ禍でリモートワークが増えたことで、チームプレーの成立については、従来以上にメンバーたち個々人の資質に寄らざるを得ないのも事実。ではいったい、チームプレーに長けた資質を持つメンバーを、どう見抜けば良いのでしょう?

 優れたチームプレーヤーが必ず持つ「3つの美徳」

 皆さんは、具体的にどのようなメンバーがチームプレーヤーであると判断されていらっしゃいますか? 周囲と融和して働ける人、他のメンバーたちを巻き込みリーダーシップを発揮してくれる人、自分のエゴではなく他者への貢献を常に考え行動する人、そもそも心根の良い人…。

 優れたチーム作りで世界的ベストセラーを持つ経営コンサルタントのパトリック・レンシオーニによれば、優れたチームプレーヤーは3つの美徳を持つといいます。それは、「謙虚」「ハングリー」「スマート」です。

 優れたチームプレーヤーは、過剰なエゴや上下関係のこだわりがありません。周囲の貢献を積極的に称え、自分に注目を集めることには腰が重い。自分よりもチームを主体と捉え、成功は個人ではなく全体のものと考える。「謙虚」さはチームプレーヤーにとって最大の要素であることに、どなたも異論はないでしょう。

 「謙虚」さに欠けたメンバーとは、自分のことばかり考えている傲慢なタイプか、必要以上に自尊心の低いタイプか、いずれか2タイプだとレンシオーニは言います。どちらのタイプにも共通しているのは「不安」「自分への自信のなさ」。精神的に成熟している、安定している人が「謙虚」になれるのです。

 「ハングリー」なメンバーは、常に今以上を求めている、もっとたくさんのことをしたい、もっと学びたい、もっと責任を負いたいと思っています。自分の中に動機があり勤勉なため、上司の皆さんが「もっと働け」「もっと頑張れ」「もっと上を目指せ」と焚きつける必要がありません。彼らはそもそも、自分が怠け者だと見られることを最も嫌います。ただし、このハングリーさが自分の利益追求にしか向かない人は要注意。チームに害をもたらします。

 3つ目の「スマート」とは、常識的に人と接すること、相手に気を払い適切に振る舞えることを指しています。チーム内に生じる関係性の微妙な変化や、自分の発言と行動の影響を直感的にうまく察知し、その後の発言や行動につなげます。気をつけるべきことは、この力をいわゆる社内政治で使ったり、自分のエゴのために発揮するタイプが存在しますので、この手の人を組織に入れないこと。入れてしまうと、チームを間違った方向へと走らせてしまいます…。

 3つの美徳が一つでも欠けると…

 上記の通り、「謙虚」「ハングリー」「スマート」の3つの美徳はチームプレーヤーに欠かせない資質ですが、<使い方>を間違えると悪しき方向に行く可能性もあります。そして間違った<使い方>は、他の2つの資質が欠落しているときに起きるのです。

 「謙虚」のみなら、感じはいいものの仕事をやり切ったり仲間と積極的な関係を築こうとはしません(歩兵)。「ハングリー」のみなら、仕事の達成への貪欲さはあるものの他を顧みません(ブルドーザー)。「スマート」のみなら好感度は高いものの、チームへの興味関心や貢献はゼロ(人たらし)。

 「謙虚」で「ハングリー」だが「スマート」でないなら、頑張るものの場を俯瞰して見れないため悪気なくやらかします(うっかりトラブルメーカー)。「謙虚」で「スマート」だが「ハングリー」でないなら、せいぜい言われたことしかやりません(憎めない怠け者)。「ハングリー」で「スマート」だが「謙虚」でないなら、狡猾に自分の利益のためだけに働くでしょう(熟練の政治家)。

 「謙虚」で「ハングリー」で「スマート」な人だけが、理想のチームプレーヤーなのです。

 あなたは周囲の人たちを見渡してみて、どのタイプが当てはまりそうでしょうか?

 レンシオーニ曰く、チームが機能不全を起こすには5つの疾患があります。「信頼の欠如」「衝突への恐怖」「責任感の不足」「説明責任の回避」「結果への無関心」です。「謙虚」「ハングリー」「スマート」に欠けるメンバーが、この5つの機能不全を克服することはできません。

 チームのメンバーたちが3つの美徳を充分に持ち合わせているときに、自分の弱さをさらしてお互いの信頼関係を築き、メンバーとの気まずい衝突を避けない。最初は反対だったチームの決定があったとしても、決定されれば献身的に取り組み、目標と現状にギャップがあると思ったら指摘して責任を追及する。そして、誰もが自身の欲望よりもチームの結果を第一に考えて行動する。

 5つの機能不全を克服した、まさにこんなチームでありたいですよね。

 メンバーの見抜き方、面接時の質問の仕方

 さて、では私たち上司は、この3つの美徳を持ち合わせるメンバーを、どう見抜けば良いのでしょう。ありがたいことにレンシオーニは、メンバーが「謙虚」「ハングリー」「スマート」かを確認する質問、採用面接時に候補者がその3つに当てはまるかチェックする質問を、それぞれ提示してくれています。ご紹介しましょう。

<メンバーを評価してみる>

 これは、あなたから見てのメンバーについて回答してみていただければOKです。

それぞれ「3=いつも、2=時々、1=ほとんどない」でスコアをつけてみてください。

◆「謙虚さ」を確認する質問

 1. そのメンバーは、心からためらいなくチームメイトを褒めたり称えたりしているか?

 2. ミスをしたときに、あっさり認めているか?

 3. チームのためなら進んでレベルの低い仕事も引き受けているか?

 4. チームの達成を、自分だけでなく周りと喜んで分かち合っているか?

 5. 自分の短所をためらいなく認めているか?

 6. 深く謝罪したり、受け入れたりしているか?

合計 [    ]

◆「ハングリーさ」を確認する質問

 1. 求められたこと以上をやっているか?

 2. 会社のミッションに対して情熱を持っているか?

 3. チーム全体の成功に個人的責任を抱いているか?

 4. 時間外の仕事でも、前向きに取り組んだりしているか?

 5. 必要とあれば、厄介で面倒な作業にも進んで取り組んでいるか?

 6. 自分の担当外のことにも貢献する機会を探しているか?

合計 [    ]

 ◆「スマートさ」を確認する質問

 1. ミーティングや会話の中で、チームメートの感情を察しているように見えるか?

 2. チームの他のメンバーに思いやりを見せているか?

 3. チームメートの生活に関心を示しているか?

 4. 熱心に耳を傾けているか?

 5. 自分の言葉や行動が周りにどう影響を与えるか自覚しているか?

 6. 会話や関係に応じて、行動やスタイルを調整することに長けているか?

合計 [    ]

 合計スコアが17~18のものはその人の強みの美徳、14~16は改善すべき部分あり、13以下はその領域で改善を要する資質となります。

いかがでしたか? 自分について自己採点してみてもよいですね。

<採用面接時に、確認してみる>

◆「謙虚さ」を確認する質問の例

 ・キャリアで最も重要な達成について教えてください(「私」の達成か、「私たち」の達成話か)

 ・キャリアで最も恥ずかしかった瞬間は何ですか?最大の失敗は?その恥ずかしさや失敗にどう対処しましたか?(恥ずかしい・失敗体験を受け入れているか。それを素直に開示できるか。学びや改善実践があるか)

 ・あなたにとって大切な分野で、あなたよりも優れている人について教えてください(自分より優れた人を心から認めることができているか)

◆「ハングリーさ」を確認する質問の例

 ・人生で一番必死に取り組んだことは何ですか?(それがその人にとって喜びややりがいとなっているか)

 ・仕事をしていないとき、何をするのが好きですか?(仕事以外に時間を割くものが多すぎる人は、仕事に没入する可能性は低い)

◆「スマートさ」を確認する質問の例

 ・自分の性格をどのように表現しますか?(直ぐに具体的に話せるか。回答に悩んだり、曖昧な回答しかできない人はスマートでない可能性が高い)

 ・どんな人に一番苛立ち、そういう人にどう対処していますか?(自己認識と自己統制の確認)

 ・チームメートに思いやりを表した例を教えてください(自分がどのような共感、思いやりを大切にしているか。そうしたことが得意か不得意かの自己認識があるか否かを確認)

 どうでしょう? ぜひ控えておいて、実際の採用や異動受け入れなどの面接・面談で活用してみてください。

 ※出典『理想のチームプレイヤー』(パトリック・レンシオーニ 著/サンガ 刊)

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 謙虚でハングリーでスマートな人を見極め、採用し、育てられるリーダーは大きなアドバンテージを得ます。強固なチームを築き、社内政治や離職率を低減し、高い業績を上げることができます。あなたもチーム編成の武器として3つの美徳チェックを実施し、チームプレーヤー集団を作りましょう。

▼“社長を目指す方程式”さらに詳しい答えはこちらから

井上和幸(いのうえ・かずゆき) 株式会社経営者JP代表取締役社長・CEO
1966年群馬県生まれ。早稲田大学卒業後、株式会社リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職後、株式会社リクルート・エックス(現・リクルートエグゼクティブエージェント)のマネージングディレクターを経て、2010年に株式会社 経営者JPを設立。企業の経営人材採用支援・転職支援、経営組織コンサルティング、経営人材育成プログラムを提供。著書に『ずるいマネジメント 頑張らなくても、すごい成果がついてくる!』(SBクリエイティブ)、『社長になる人の条件』(日本実業出版社)、『ビジネスモデル×仕事術』(共著、日本実業出版社)、『5年後も会社から求められる人、捨てられる人』(遊タイム出版)、『「社長のヘッドハンター」が教える成功法則』(サンマーク出版)など。
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【社長を目指す方程式】は井上和幸さんがトップへとキャリアアップしていくために必要な仕事術を伝授する連載コラムです。更新は原則隔週月曜日。アーカイブはこちら