ポップで鮮やかな絵画。新進アーティストの作品のようだが、実は障がいがある女性が描いたものである。
鹿児島市の社会福祉法人光陽福祉会「きらら」は身体・知的障がい者をケアする福祉施設。6年前から利用者が作った絵画や工芸を作品として販売している。このアート活動を支援する生活支援員・上馬場鉄也さんに取材した。
「障がい者と聞くと、どうしてもネガティブなイメージを持たれてしまいます。しかし、私たちは誰もが個性を持っていますし、独自のこだわりもあります。障がい者も同じです。彼らの生み出す絵やオブジェは、独創性あふれるものが少なくありません。それを作品化すれば、ポジティブなイメージに転換できるのでは、と考えたのが始まりです」
作品は当初、施設内のフェスで販売していたが、もっと大勢の人に知ってほしいと商業施設や外部のマルシェなどへも進出。少しずつ社会に知れ渡っていく。冒頭で紹介した作品は「まる」というブランドで商品化され、広く販売されている。
「この利用者さんは、自分が気に入ったことを何度も繰り返すクセがありました。大量に描かれた○を見て、ユニークな集合体アートになるのでは? と思いついたのです」
こうしてできた商品は、現在ネットでも販売しており、全国から注文が相次いでいる。
「購入してくださった方は、障がいがある人がこんな素敵なものを作るなんて! と驚かれます。送付時には作品にまつわるストーリーを同封していますので、障がい者の状況をわかってくださる方が多いです」
「きらら」では以前、野菜の袋詰めなどの軽作業を行っていた。しかし、アート活動を始めてから施設の空気が変わったという。
「徘徊していた利用者が、作品づくりを始めると集中するようになりました。自分はこれがしたい、と主体的に動くようになったのです。私たち職員は、利用者一人ひとりが社会へ一歩を踏み出そうとする気持ちを大切にしています」
ちなみに「まる」ブランドのネクタイは3500円、サコッシュ(バッグ)は4000円(ともに税込)で販売されており、収益は製作者に還元されている。自分が好きなものを買ったり、次の作品づくりの資金にしたりしているそうだ。少額ではあるものの、報酬を得ることで彼らの自立促進につながっている。
「障がい者が自宅にいながら働ける」
現在、障がい者に関する法律として障害者総合支援法がある。2018年に改訂された際、新たな支援項目が追加された。それが「自立生活援助」「就労定着支援」である。障がい者が積極的に働ける環境整備を推奨し、社会で自立した存在になれるよう政府も支援している。
障がい者が自宅にいながら働ける。そんな活動を行っている施設もある。愛知県にある社会福祉法人福寿園(法人本部 田原市)「特別養護老人ホームくすのきの里」(武豊町)がそうだ。この施設では、「回想フォン」という活動に取り組んでおり、成果を上げている。回想フォンとは、高齢者と身体障がい者がオンラインを通して対話する取り組みである。高齢者が昔の思い出を話すことで、認知症の予防につながり、障がい者は傾聴カウンセラーとして報酬を得るという仕組みだ。
回想フォンを導入した生活相談員の瀧勇士さんは、こう話す。
「入居面談である方のお宅を訪問した際、ご家族からこんなことを言われたのです。『うちのおばあちゃんは施設を姥捨て山だと思っているから、施設から来たと言わないでほしい』と。当所では様々な行事やクラブ活動を行い、入居者さんに楽しんでもらっています。しかし、こんなイメージを持つ方がいることに悔しさを隠せませんでした」
この言葉を聞いて、「もう姥捨て山と呼ばせない」と決意した瀧さん。入居者のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を上げるために、何かできないかと模索していく。そこで出会ったのが、回想フォンだった。
回想フォンは、寝たきり社長として有名な佐藤仙務さんのアイデアで始まったものである。佐藤さんは、重度の障がいがありながらも事業として回想フォンの普及に取り組んでいる人だ。
「佐藤さんと連携することで、入居者のQOLを上げられると考えました。一昨年に導入し、週に1回30分のサイクルで行っています。最初の頃は、入居者さんがパソコンに慣れるのに時間がかかりましたが、回数を重ねていくうちに楽しくなっていったようで、今では生きがいだと言う方もいるほどです」
傾聴カウンセラーを務める障がい者には、1回5000円の報酬が支払われる。自宅にいながら、収入を得ることができる画期的な取り組みである。
これからの福祉現場にはICTが不可欠だという瀧さん。くすのきの里ではコロナ禍をきっかけに、LINEやZoomを使ったオンライン面会も始めている。デジタルツールを活用することで業務を効率化し、余った時間を入居者とのコミュニケーションにあてたい。そう願い、日々がんばっている。
「社会福祉の甲子園」
これら2つの活動は、「社会福祉HERO’S(ヒーローズ)」というコンテストで、決勝へと進んだものである。2018年に始まったこの大会は、新しい福祉活動に取り組む若手を表彰することを目的に開催されており、「社会福祉の甲子園」と呼ばれている。福祉の仕事がクリエイティブであることを発信する狙いで、年に1度、全国規模のコンテストを開いてきた。昨年12月に開催される予定だった2020年の全国大会が今年5月に開催。7人が決勝に残り、見事優勝したのが、障がい者アートに取り組む上馬場鉄也さんだ。
高齢化が進み、現場では人材不足が深刻化しているが、その原因の一つに福祉業界へのネガティブなイメージがある。それを知恵と工夫で変えていこうとする若き担い手たちの挑戦。これらの活動は福祉業界のみならず、社会全体にも大きな成果をもたらすのではないだろうか。(吉田由紀子/5時から作家塾(R))