社長を目指す方程式

命令もダメ出しもNG?“イマドキ若手”を上手に導く令和のトリセツ

井上和幸

《今回の社長を目指す法則・方程式:「関係性欲求、承認欲求》

 新年度がスタートし、上司の皆さんの元に新卒社員が配属されたり、若手社員が異動・中途入社してきたりなどで、その受け入れとチームマネジメントに追われていらっしゃることと思います。

 今年はコロナ下でのリモートワーク対応で若手のオンボーディングもご苦労ひとしおですし、それ以前に、そもそも「最近の若手は何を考えているかよくわからなくて」「下手にマネジメントして辞められても困るし…」と感じている上司の皆さんも多いようです。

 そこで今回は、悩み多き上司の皆さんのための<イマドキ若手社員の取り扱い方の心理学>を紹介しましょう。

 影響力の2つのタイプ

 上司の皆さんは、自らの影響力を発揮して部下たちを率いる立場でもあります。

 影響力の心理学についてはこの連載でこれまでにも何種類かご紹介してきましたが、大きく分けると「プッシュ型」の影響力と「プル型」の影響力があります。

 「プッシュ型」は、人事権や指示命令権など、上司という地位や立場を利用して部下に影響を与えるもの。ある面、強権発動的なものと言えるでしょう。上司のあなたの言うことは、会社・人事のルール上、従わなければならない。部下は従わなければ評価が下がったり、異動や左遷もやむをえない場合もあり得ると認識されています。

 一方「プル型」は、あなたの専門性や人間的な魅力などによって部下の方から信頼や好意が寄せられるものです。あなたが何かを求めているわけではなく、部下のほうが勝手に影響されてくれるものです(笑)。

 「プッシュ型」の影響力と「プル型」の影響力は、まさに北風と太陽の寓話そのものです。

 本来、新人のように業務に習熟しておらず、場数や経験値も少ない<ビギナー>に対しては、「つべこべ言わずに、やれ」というのはビジネスの土台を作るためにも大事なのですが、イマドキ若手には「プッシュ型」でいくことは面従腹背を生みやすいのも現実です。

 思うところは色々とあるかもしれませんが、上司の皆さんは「プル型」影響力の発揮を意識すべきでしょう。

 意外にも職場外での繋がりを求めている!?

 統計数理研究所の国民性調査によれば、イマドキ若手が職場に求めることは「サークル的、家庭的な雰囲気の職場」「面倒見の良い上司」「上司と仕事以外の付き合い」が、以前に比べてそれぞれグンとスコアアップしているそうです。意外な印象を持つ読者上司の方も多いのではないでしょうか。いま皆さんの近くにいる若手社員たちは、私たちが思っているよりもはるかに「関係性欲求」が強いのです。

 明治安田生命が毎年発表している「新入社員が選ぶ理想の上司」ランキング。今年(2021年)は男性の1位がウッチャン(内村光良)、女性の1位が水ト麻美アナでした。これを見ても、優しくて、暖かい、友達的なイメージの人物が好まれていることが分かりますね。

 心理学者のエドワード・デシとリチャード・ライアンが構築したモチベーション理論に、「自己決定理論(Self Determination Theory)」があります。これによると、人は「3つの基本的欲求」(=自律性欲求、有能感欲求、関係性欲求)を満たすことでモチベーションが高まるのだとされています。

 ここで定義された「関係性欲求」とは、関係を築く、絆を深めるなどの他者と関係を持ちたいという欲求や、集団に所属したい、誰かの役に立ちたいなどの社会的な欲求で、長期的にモチベーションを維持するために必要な条件とされています。他者とつながり、自分が認められているという安心感がモチベーションを長期的に安定させるのです。

 考えてみますと、いまの若手(20代)が生まれて育ってきた日本は「失われた30年」と言われた期間で、経済的な成長実感を得難く、先も見通しにくい中で、昭和のような家族的な繋がりが希薄化し続けてきた社会でした。

 だからこそ、自分が属する会社・職場に対して、上の世代以上に関係性欲求への渇望が深層心理的にあるのかもしれません。

 あらゆるコミュニケーションを対面ではなく(電話ですらなく!)LINEで済ませる世代であるがゆえに、会社や上司にベタベタされたり巻き込まれるのは嫌だ。でも、自分のことを仕事上のみならず気にかけてくれないと嫌なのです。

 過干渉にならないように気をつけたうえで、「見ているよ」「気にかけているよ」「頑張っているのを認めているよ」という情報発信を上司側がしていることが大事なのですね。

 彼らの仕事の把握、一定レベルでのプライベートな情報の把握、そしてなによりも、交流や意見交換の機会を持つことが、あなたのチームの若手が「チームの一員」となってくれるための必要条件です。

 若手にとってネガティブに働く関わりも…

 なるほど、分かった。そうか、では…と読者上司の親心に火がつき、色々と面倒を見てやろうと気合が入ったかもしれません。

 しかし、ちょっとお待ちくださいね(笑)。

 そもそも、面倒見の良い親分肌の上司の方は、部下たちを気にかけるがあまり、「ほらほら、そこはこうするんだ」「違う違う、もっとこうやってごらん」というように、上司として彼ら彼女らに色々とアドバイスをしたくなる生き物です。

 せっかくの親心を発揮した上司のあなたは、部下から「的確なアドバイスをくださってありがたい」「助けてくださって、ありがとうございます」という声を期待されるでしょう。しかしあいにくと、これをネガティブな「ダメ出し」「叱責」「自分の否定」と取る部下も多いのです。

 いまの若手は、小さい頃から今まで叱られるようなことがなく、基本的に家でも学校でも褒められて育ってきた世代です。そんな彼らは、「承認欲求」が満たされないとやる気にならなくなっています。褒められないと「承認欲求」が満たされないということもありますが、それ以上に注意や指導が「承認欲求」を損ね、やる気を失くしたり反発を産むきっかけになってしまったりするので、要注意です。

 だからと言って、アドバイスや注意、指導をしないのがよいということは絶対にありません。言い方、伝え方を工夫する必要があります。

 その方法としては「こうするとどうかな?」のように問いかけを多用してみるのも一つの手です。または「ここをもうちょっと変えられないかな?」など、改善を示唆することも効果的でしょう。あるいは、「みんな良く勘違いするんだけどね」「俺も最初は良く間違えたんだけど」とクッション枕詞を使ってみるのも良いかもしれません。

 若手メンバーが折れないような気遣いは、ひと昔前に比べてどうしても増量せざるを得ないということだけは、どうも間違いないようです。

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 イマドキ若手になんとかやる気を出して欲しい、チームに融和して働いて欲しい、ある日突然出社せずのまま退職代行を使って辞めてしまったりしないで欲しい…だからと言って、彼ら彼女らに迎合しすぎるのも禁物。

 上司としては、ご紹介したようなコミュニケーション上の工夫を心がけるとともに、そもそもは、決して偉ぶるのではなく、平素の行動の中で、経験の厚みからくる説得力や業務の専門性を発揮することで、イマドキ若手社員たちから「A課長はさすが専門性がずば抜けて高いな」「B部長の顧客対応力は凄い。今の自分には到底できない、いずれできるようになりたい」と、感服と信頼を獲得することを目指しましょう。

▼“社長を目指す方程式”さらに詳しい答えはこちらから

井上和幸(いのうえ・かずゆき) 株式会社経営者JP代表取締役社長・CEO
1966年群馬県生まれ。早稲田大学卒業後、株式会社リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職後、株式会社リクルート・エックス(現・リクルートエグゼクティブエージェント)のマネージングディレクターを経て、2010年に株式会社 経営者JPを設立。企業の経営人材採用支援・転職支援、経営組織コンサルティング、経営人材育成プログラムを提供。著書に『ずるいマネジメント 頑張らなくても、すごい成果がついてくる!』(SBクリエイティブ)、『社長になる人の条件』(日本実業出版社)、『ビジネスモデル×仕事術』(共著、日本実業出版社)、『5年後も会社から求められる人、捨てられる人』(遊タイム出版)、『「社長のヘッドハンター」が教える成功法則』(サンマーク出版)など。
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【社長を目指す方程式】は井上和幸さんがトップへとキャリアアップしていくために必要な仕事術を伝授する連載コラムです。更新は原則隔週月曜日。アーカイブはこちら