働き方ラボ

ビジネスパーソンが田中邦衛さんから学ぶべきこと 戦略的「キャラ変」のススメ

常見陽平

 俳優・田中邦衛さんが亡くなった。88歳、老衰による大往生だった。『北の国から』を全話、何度も視聴した「北ヲタ」として、「お疲れ様、ありがとう」と言いたい。合掌。

 発売されたばかりの、さだまさしセルフカバーベストアルバム「さだ丼」を聴きつつ、この原稿を書いている。サブスクでも配信されている。1曲目はあの「北の国から~遥なる大地より~」だった。『北の国から』のあの曲だ。「あ」と「ん」しかない曲だが、聴くだけで『北の国から』の名シーンや、北海道富良野市の光景が目に浮かぶ。ちなみに、このセルフカバーベスト盤、2曲目が都会に出た子供を想う「案山子」で、畳み掛けるような展開で号泣必至だ。電車の中で泣いている人がいたら、高い確率でさだまさしを聴いていることだろう。

 「北の国から」珠玉の名言

 今回は、田中邦衛さんから学ぶべきことを考えてみよう。こう聞いただけで、「ビジネスで使える『北の国から』の名セリフ」だと解釈する人もいるかもしれない。たしかに、同作品は名セリフの宝庫だ。田中邦衛さんが演じた黒板五郎のセリフだけでなく、ビジネスシーンで使えそうな珠玉の名言がたくさんある。

◆珠玉の名言

「夜になったら寝るんです」(連続ドラマ編)

 長時間労働是正、働き方改革の職場で。

「誠意って何かね?」(‘92 巣立ち)

 言い方を気をつけないとパワハラになるが、人が釈明を始めた際に。

「金なんか望むな。倖せだけを見ろ。ここには何もないが、自然だけはある」(2002 遺言)

 仕事選び、ワークライフバランスについて考えるときに。

「あやまっちゃおう」(‘92 巣立ち)

 部下と一緒に謝罪に行く際に。

 ただ、世代間ギャップもあり、伝わらないこともあるだろう。いや、仮に同世代でも必ずしも皆、『北の国から』を熱心に見ていたわけではない。

 「青大将」→「不器用な男」に転身

 我々が田中邦衛さんから学ぶべきことの一つは、「キャラ変」である。そう、『北の国から』の人間味あふれるキャラクターで知られる彼だが、以前は「若大将」加山雄三のライバル役の青大将だったし、『仁義なき戦い』ではずる賢い暴力団員役を演じた。クールな役柄から、人間味あふれるキャラに変身・転身したのだった。

 他にもキャラ変や、活躍の幅を広げることでブレイクした人はいる。ロックのカリスマ「永ちゃん」こと矢沢永吉も90年代に入ってから、サントリーの缶コーヒーBOSSのCMで力の抜けた役を演じたり、テレビドラマ『アリよさらば』で高校教員役を演じるなどして、幅を広げた。矢沢永吉の著書『アー・ユー・ハッピー?』によると、当初はファンからの戸惑いの手紙なども届いたというが、結果的に「こういう永ちゃんもありだな」と支持されたし、ファンの幅も広がったという。

 「なんてったってアイドル」の小泉今日子も、徐々にあえて主役ではなく、助演で光る存在になっていった。昨年は政治的発言が話題となるなど、ますますありのままに生きているように見える。『北の国から』にも出演したことのある内田有紀も、同じように主演よりも助演で光るようになってきた。

 一方、ずっとキャラが変わらない人というのもいる。キムタクこと、木村拓哉もそうだ。いや、熱心なファンからすると「とはいえ、多様な役を演じているのでは?」と考える人もいるだろう。もっとも、子供たちが活躍しはじめても、かっこいい男であり続けているのは変わらない。ブレない。無理しているようにも見えない。

 ビジネスパーソンも「キャラ変」できる

 さて、ビジネスパーソンはどうするか。この春、戦略的キャラ変を考えてみてはどうか。新しい期になり、組織における自分の期待される役割が変わっている人もいることだろう。年齢を重ね、今までの役割が辛くなってきている人もいる。

 ここで考えたいのは、どうすれば社会や会社に貢献できるのか、自分にとって納得感があるのか、心身ともに楽になれるのかという点だ。ここで上げたキャラ変はどちらかというと「枯れた役」「人間味あふれる役」への転身がほとんどだが、それに限らず、どういうキャラなら気持ちよく働くことができるのか、みんなのためになるのかということを考えたい。

 キャラ変するなら4月、新年度のスタートが最適だと考える人もいるだろう。もちろん、4月は妥当だ。ただ、新体制になり、新しい職場が見えるGW明けにキャラ変を敢行するという手もある。

 私自身も、この春からキャラ変を意識している。一言でいうと「枯れた」「円熟味をました」キャラになろうとしている。大学教員としても、物書きとしてもだ。教員としては、以前よりも学生を泳がせることにした。カチカチと締切を決め、やらせるのではなく、余裕をもって、自ら学ぶように仕向けるようにした。物書きとしてはより深いことや、他者とは異なる達観した視点で発言できるよう模索中である。意識高くヤフーオーサーとしてヤフトピにコメントするのも、社会に枯れた、達観した新たな視点をもたらすためである。ついでに、久々に肉体改造に取り組むことにし、食事制限と筋トレに励んでいる。

 田中邦衛さんのキャリアを振り返りつつ、キャラ変を考えてみよう。枯れること、深くなることも悪くない。

常見陽平(つねみ・ようへい) 千葉商科大学国際教養学部准教授
働き方評論家 いしかわUIターン応援団長
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。リクルート、バンダイ、クオリティ・オブ・ライフ、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部准教授。専攻は労働社会学。働き方をテーマに執筆、講演に没頭中。主な著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

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