元受付嬢CEOの視線

「実はコミュ障」なCEOが実践する、新しい職場でもしんどくならないコミュニケーション

橋本真里子

 2021年度が始まりました! 転勤や異動、または転職といった大きな環境の変化があった方も多いのではないでしょうか。環境が変わるのはワクワクすると同時にちょっと不安に感じるものだと思います。「新しい環境に馴染めるだろうか」「新たに出会う人々とうまくやっていけるだろうか」というような感情は誰しも抱きますよね。

 私も受付嬢としてこれまで4回以上の転職をしてきました。その度にワクワクと不安が常に同居しているような感情を持っていました。というのも、私はこう見えて実はコミュ障なのです(笑)

 コミュ障だと言っても信じてもらえなかったり、驚かれることが多いのですが、特に同性が一堂に会している場は今でも苦手です…。例えば女性経営者が集まる会などは、かなり気合を入れて参加しなくてはいけません(笑)女性同士だと、見た目で判断されたり、派閥をつくる傾向が強く、独特な「圧」を感じることが多いんですよね…。

 そんなわけで、「女性だけの職場」である受付には苦手意識もありましたが、転職するごとにそうした苦手な環境に飛び込み続ける中で、様々なコミュニケーション術を学んだと思います。今回は、「環境が変わった時に心がけたいコミュニケーション方法」について書いてみたいと思います。

共感と同調をわきまえ、使い分ける

 私はコミュニケーションする上で、共感はとても大切にしています。一方で、同調はしないようにしています。同調は「圧力」にもつながりやすく、圧力はコミュニケーションの上ではネガティブにしか働かないからです。

 新しい環境で、周りの人がどんな価値観を持っているのか、どんな性格なのか。それが分からないとついつい同調しがちになるのではないでしょうか。同調することってその瞬間は「楽」なんですよね。でも、同調しかしていないと自分を失いがちで、当たり障りなくは過ごせていたとしても、時間が経つにつれ、苦しくなるのです。

 共感は違います。感情が共鳴するものなので、自分を騙しません。もっというと、相手も騙しません。共感を得られると自信にもつながり、相手のことを知ることもできます。私は共感を大切にするようになってから、人とのコミュニケーションに悩んだり、困ることが少なくなったように思います。

基本のき 挨拶は自分から!

 大人になって、さらにはCEOになって、改めて「挨拶」の重要性を感じています。その理由は挨拶というのは“元気のバロメーター”にもなるからです。

 人は、自分の気持ちが前向きだと積極的に自分から挨拶できます。逆に、後ろ向きだったり、自信がなかったり、気まずいことがあったりすると、挨拶を避けがちです。

 私は基本、毎日出勤していますが、その際の挨拶の声で社員のみんなの元気バロメーターをチェックしています。もともと声が小さかったり、挨拶が遠慮がちな人はその人の特徴として捉えますが、普段元気に挨拶する人が挨拶に元気がなかったり、時に挨拶すらしないときは何か心境の変化があったのではないかと、日々の行動もいつもより注目するようにしたりしています。

 受付嬢だった時は一日に何百人の人と挨拶をしていました。社内の人、お客様、業者の方…。私の中には機械学習に負けないくらい、「いろんな挨拶」が溜まっています。

 そんな私が意識していることは、「どんな時でも自分から挨拶。元気よく!」ということです。元気な挨拶をしてお互いが嫌な気持ちになるというケースはないと思います。もし嫌な顔をする人がいたら、「ちょっと距離感を考えた方が良さそう…」と察することができます。自分がこの環境に馴染めるかどうか、挨拶一つである程度を量ることもできます。

 例えば、「いつもの道でよく会う、知り合いではない人だけどお互い顔は認識している。だけど挨拶するほどの関係か…?」というシーンがありますね。そういう時も積極的に挨拶します。心が通じて晴れやかな気がしますし、そこから会話が生まれたりします。私は、近所をまわる配達員の方にも道で会うと挨拶します。そういう小さな積み重ねが人の印象や信頼を作っているような気もしています。

悩んだ時は、送らない

 今はプライベートもビジネスも「チャット」を使った会話が増えていると思います。私が学生だった時や受付嬢になった初期の頃はメールが主流でした。それが今はLINEと言ったようなチャット形式のコミュニケーションツールが増え、コミュニケーションのルールも大きく変わったと思います。

 対面でもチャットでも、いつも念頭に置いているのは「一度言ったことは取り消せない」という考え方です。会話の中で、私が間違ったことや相手を不快にさせる発言をしてしまい、謝ったとしても、相手の頭の中にその言葉は残ります。許してもらえる・もらえないという問題ではなく、記憶に残ってしまうという意味です。

 チャットというのはメールよりもリアルタイム性が高く、会話が盛り上がりやすいと思います。確認もしやすく、返信もしやすい。だからこそ、軽率なやりとりにつながりがちだと思っています。

特にビジネスシーンにおいては、価値観が違う人とのコミュニケーションも多くあると思います。意見が違う相手にどうやって自分の考え方を伝えるか、慎重に考えるべきです。

 私は「この内容で相手に伝わるか」「ネガティブな感情(嫌味)が入っていないか」など、自分で作った文章を何回も読み直します。もしそこで「ちょっと嫌味があるな」と感じた場合は、送るのをやめて、最初から作り直したり、文章中の単語を選び直したり、順番を入れ替えたりします。そうすることで、自分の中での納得感が得られ、シンプルに自分の感情が伝えられる気がします。一呼吸置くこと、読み返すこと、おすすめです。

ありのままでいい 「人は人。自分は自分」

 初めて会った人にいわゆる「マウント」を取られたことがある人、少なくないのではないでしょうか。マウントっていい気持ちになることではありませんし、私は全くもって意味のない行為だと思っています。でも裏を返すと、「初めて会う人に良く思われたい。興味を持ってもらいたい」という気持ちの表れでもあると思います。

 マウントの何がよくないかというと、「とっている方も取られている方も、だんだん辛くなること」です。初めて会った人が、一度限りの交流という限定的な相手ならいいかもしれません。しかし、これから同じ環境で長い時間ともに過ごしていく相手だった場合には、いい方向には働かないと思います。

 だから私は何よりも「ありのままの自分でいること」を意識しています。自慢と言ったような自分で期待値を上げる事は言いませんし、相手の特徴を挙げて自分と比較することもしません。「人は人。自分は自分」なのです。コミュニケーションする中で、この感覚を忘れている人、結構多い気がします。肩肘張らず、お互いの価値観を受け入れる姿勢で距離感を詰めていくように心がけています。

ありのままの自分で新しい環境に馴染む

 こうして、「環境が変わった時に心がけたいコミュニケーション方法」を文章にしてみると、私が大切にしていることは「至って普通のこと」だと、改めて感じました。でも、出会ったばかりの相手とは「ありのままでいること」が意外と難しかったりするものです。

 そして環境の変化のタイミングは、新しい自分になるチャンスでもあります。「引っ込み思案だった自分を積極的な性格に変えたい」「友達100人作りたい!」とったような前向きな変化を起こす、いいきっかけにもなると思います。私もそういう経験あります。そういう時、私は、身近で憧れや目標になるような人を見つけます。そしてその人と仲良くなるよう努力します。仲良くなれなかったとしても「この人のこういうところが魅力」と具体化し、自分もそうなれるように心がけます。

 前回書きましたが、「周囲の人々は自分を写す鏡だ」と考えてみましょう。目標となる人を鏡にすれば、自然と自分の中に変化が生まれます。だから背伸びしすぎず、ありのままの自分を大切にしつつ、時に自分にないものを持っている人から刺激をもらう。それだけで、新しい環境に馴染み、新しい自分を作ることもできるはずです。

橋本真里子(はしもと・まりこ) 株式会社RECEPTIONIST 代表取締役CEO
大学卒業後、IT企業を中心に上場企業などで受付業務に従事。受付嬢として11年間、のべ120万人以上を接客。2016年にRECEPTIONISTを設立し、翌年にクラウド受付システム「RECEPTIONIST」をリリース。日程調整ツール「調整アポ」、会議室管理サービス「RECEPTIONIST For Space」ともに、コミュニケーションをワンストップで効率化する世界を目指し、年間利用回数は120万回超。

【元受付嬢CEOの視線】は受付嬢から起業家に転身した橋本真里子さんが“受付と企業の裏側”を紹介する連載コラムです。アーカイブはこちら