最強のコミュニケーション術

年度初めのツケが招く顛末 「仕事の抱え込み」を心理的にやめさせるテクニック

藤田尚弓

 伝え方や言い回しを変えると、自分を取り巻く環境が変わり、やってくるチャンスも変わっていきます。皆さんは自分のコミュニケーションに自信がありますか? この連載ではコミュニケーション研究家の藤田尚弓が、ビジネスシーンで役立つ「最強のコミュニケーション術」をご紹介していきます。

 第27回は「仕事を抱え込まない」がテーマです。真面目な人、完璧主義な人、優秀な人ほど「仕事の抱え込み」をしがちです。何かと忙しくなる新年度が始まったばかりの時期は特にその傾向が強くなりやすい時期と言えるでしょう。仕事を抱えてしまう人が周りにいる場合、どのように声がけをしていけばいいのか。また、自分が仕事を抱え込む傾向がある人は、どうすればいいのか。タイプ別にサポートするためのコミュニケーションをご紹介します。

抱え込みをさせない3つのポイント

 「自分でやった方が早い」「これくらいなら、少し無理をすればできる」「何となく他の人に頼みにくい」などの理由で仕事を抱え込んでしまう人たち。優秀な人の場合、仕事を抱え込んでいることを本人も周りも気づきにくいという特徴があります

 努力は素晴らしいことですが、無理をしている状況が長く続くとデメリットが多くなります。まずは、頑張り過ぎることが決して良いことではないと理解してもらいましょう。具体的には下記の3点を話してみてください

「抱え込みをさせないコミュニケーション」とは

1.心身への影響を認識させる 「周囲も大変です」

 負荷がかかり過ぎる状態が長く続くと、心身に何らかの影響が出ます。「そんなことはない」と思い込んでいる人もいますので、座り過ぎによる腰痛、目を酷使することによる偏頭痛、睡眠の質の低下、余暇でリフレッシュできないことの弊害など、具体的な事例を挙げながら「人ごとではない」と思ってもらうところを目指します。

 年度末、新年度の頑張り過ぎは、5月病など心の不調の原因にもなります。今は大丈夫でも、蓄積されていった場合のリスクを伝えましょう。責任感の強い人や自分を犠牲にしがちな人には「心身の不調が出てしまったときにカバーする人たちも大変」といった切り口から話すのもいいでしょう。

2.機会損失を認識させる インプットも必要

 ビジネス環境は常に変化しています。新型コロナウイルスの登場では、大きなシフト(変化)を余儀なくされた業界もありました。こういった変化に備えるには、ある程度の余力が必要です。また変化に対応していくには、学びの時間も必要になります。

 仕事を抱え込み、常に手一杯な状態では、何かあった場合に対応が遅れがちです。トラブル時に信用をなくしてしまう可能性、学びの機会を損失している可能性について話してみましょう。

3.周囲への影響を認識させる 抱え込みが招く顛末

 職場では、無理をして頑張れる人ばかりではありません。しかし、仕事を抱え込んでも何とか乗り切ってしまう人がいると、それがあたりまえのような雰囲気になってしまうこともあります。「自分も無理をしなくては…」と考えて、心や身体の調子を崩してしまう人が出てくるようでは本末転倒です。適切な人数で、適切な量の仕事に取り組み、継続的なパフォーマンスを上げていくためにも、抱え込みはやめてほしいと伝えてみてください。

上司や同僚ができる、負担軽減のためのタイプ別サポート

 最初に話してほしいのは上記の3点です。しかし、仕事のやり方を急に変えるのは難しいでしょうし、すでに抱えてしまっている仕事もあるかと思います。少しずつ負担を軽くしていくための「タイプ別サポート例」を見ておきましょう。

だらだらと完璧を目指してしまうタイプには

 仕事の質をもう一歩上げるために、多くの時間を費やしてしまう。マイペースでそんなタイプの部下には「締め切り効果」を使ったサポートがお勧めです。

「お手すきのときに」「なるべく早めに」といった曖昧な指示の仕方はやめましょう。「金曜日の15時までに」といった具体的な締め切りを設けることでダラダラ仕事をするのを防ぐ効果があります。

 締め切りを設けると、多くの人はギリギリに完成するようにスケジューリングします。余裕を持ったスケジュールは、親切のつもりかも知れませんが、抱え込みを増長させる可能性もあります。ややチャレンジングな締め切りで、集中してやってもらえるようにするとよいでしょう。このとき、他の仕事で苦しくならないようサポートするのも大切です。

声掛けの例

「この資料を○曜日の○時までに仕上げられるようやってみてもらえるかな。他の仕事で大変なものがあったら相談して」

「土日にやれば片付く」? 休息をとるのが下手なタイプには

 残業すればできる。土日にやれば片付く。休みを返上して頑張ってしまうタイプの人には生産的休息をとってもらうようサポートします。長時間労働は、仕事を優先させているイメージもあり、美徳とされている職場もあるようです。しかし、このようなスタイルでは長期間健康に働き続けるのは難しいといえるでしょう。

 脳をリフレッシュさせること、適度に身体を動かすこと、心身のメンテナンスを定期的にすることなどが、生産性を上げるためにも重要であるということを話してみてください。休みにくい職場の場合には、強制的に定時に帰ってもらう日を設けたり、休暇がとりやすくなるような工夫をしたり、具体的なサポートが必要になります

声掛けの例

「せっかくの才能をフルに活かしてもらうためにも、生産的休息は必要だと思うんだよね。もう少し早く帰ってもらうためには何を手伝えばいいかな」

アラートを早めに出せない人への対処法 中間報告での一言

 辛くなっているのに、周りの人に頼れない。頼まれると断れない。人に仕事を頼むのが苦手。そんなタイプの人には、こちらからの声がけが重要になります。

中間報告をしてもらうよう気をつけてマネジメントをしているという人は多いと思いますが、大事なのは進捗を聞いた後の声がけです。

  • 「何か不安に思っていることはない?」
  • 「困っていることはない?」

 といった一言を付け加えて、辛い場合には早めに言えるような状況を作りましょう。

 「自分の能力が低く評価されるのではないか」という不安が邪魔していることもありますので、早めに助けを求めることの大切さについて話すのもよいかも知れません。

 ただし「困っていることはない?」という質問は、すべてのタイプの人に使える声がけではありません。現状で問題がないのに、困っていることを探して不満に感じ始める人もいます。仕事を抱え込み、周りへの協力を依頼できない人にだけ使うようにしましょう。

声掛けの例

「予定どおり進んでいるようだけど、なにか困っていることとか、手伝って欲しいことはない?」

自分自身が仕事を抱え込むタイプなら 生産性の上げ方

 この記事を読んでいるあなた自身が仕事を抱え込むタイプだということもあるでしょう。多くの仕事をこなすことで評価される部分はあると思いますが、長期的なデメリットを甘く見積もっていることに気づいてください。休息がとれないと、自分の心や体に影響を及ぼすだけでなく、家族や友人などの人間関係にも悪影響を与えてしまいます。

 仕事には必ず優先順位をつけ、それぞれに少しチャレンジングな締め切りを設けましょう。メリハリをつけて仕事をすることで、意識していない時に比べて時間の余裕ができると思います。自分との会話、セルフコミュニケーションで心持ちを変えてみましょう

セルフコミュニケーションの例

「余裕時間を生み出すようにするのも、仕事のうち」

 できた余裕時間にぜひやってほしいのは、整理整頓と身体のメンテナンスです。不必要なものは定期的に時間をとって処分していかないと仕事の効率が落ちます。いつか使うだろうと取っておいているものも、定期的に新しくし、使いやすいように整理しておきましょう。

 運動、ストレッチ、通院など、身体のメンテナンスも、仕事の効率を上げるために大事なことです。後回しにするのをやめると、生産性が上がることを実感できると思います。

セルフコミュニケーションの例

「メンテナンスで生産性を維持して、また頑張ろう」

能力を最大限に発揮するためには「余裕」が不可欠

 繁忙期など短期間であれば、仕事を抱え込んでしまうのも問題ないと思います。しかし、忙しい状況が慢性的に続いている場合には、思いきって周りの人に相談してください。言いにくいと感じる理由は複数あると思いますが、同僚や上司などに相談をすることが、声を上げられない人の助けになるケースもあります。

 自分の良い部分を最大限に活かし、貢献していくためにも、ある程度の余裕は必須です。新年度は新しいことにチャレンジするのにも良いタイミングです。働く人にも優しく、よりよい成果が上げられるようトライしてみてください。

藤田尚弓(ふじた・なおみ) コミュニケーション研究家
株式会社アップウェブ代表取締役
企業のマニュアルやトレーニングプログラムの開発、テレビでの解説、コラム執筆など、コミュニケーション研究をベースにし幅広く活動。著書は「NOと言えないあなたの気くばり交渉術」(ダイヤモンド社)他多数。

最強のコミュニケーション術】は、コミュニケーション研究家の藤田尚弓さんが、様々なコミュニケーションの場面をテーマに、ビジネスシーンですぐに役立つ行動パターンや言い回しを心理学の理論も参考にしながらご紹介する連載コラムです。更新は原則毎月第1火曜日。アーカイブはこちら