文具大手のコクヨは14日、一風変わった目盛りの「本当の定規」を全国で販売する。目盛りの線の代わりに長方形の面を等間隔に並べ、面の境界線で正確な位置を測れるのが特徴。仕事や趣味で必要とする人でなくても発想のユニークさに食指が動く逸品だ。デジタル全盛の時代に、斬新なデザインのアナログ文具を世に送り出す理由とは。
大反響に担当者も戸惑い
「再販できるのがいつになるか、分からない」
思わぬ大きな反響に、広報担当者は戸惑いを隠せない。本当の定規は2017年から直営店や公式オンラインショップで販売。今年4月からついに販路を全国に拡大することになったのだが、先月30日に発売が発表されるとコクヨに問い合わせが殺到。在庫は底をつき、14日から全国で販売する分が売り切れたら、次に店頭に並ぶ時期を見通せないという人気ぶりだ。
一般的な定規は目盛りの線に約0.1~0.2ミリメートルの幅があり、測定の際にわずかな誤差が生じるが、本当の定規は図形の境界線が目印となるので、より正確に測れるという。メーカー希望価格は1000円(税別)。
販路拡大が決まった背景には、コクヨが主催するコンペ「コクヨデザインアワード」の存在がある。
立方体状の小さな消しゴムをつなげることで、いつでも角の部分で消せるようにしたヒット商品「カドケシ」は02年の同コンペで佳作に選ばれた作品が源流。米国のニューヨーク近代美術館(MoMA)の「MoMAデザインコレクション」に選定され、“便利なアイデアグッズ”にとどまらない評価を得た。
水引の蝶結びをモチーフにした輪ゴムの「和ごむ」(13年優秀賞)や、食品にかけるラップフィルムのように使う分だけ引き出してカットするノート「ペーパーラップノート」(11年コクヨ賞)などの斬新な作品も商品化されている。
先月、18回目となる今年のコンペの受賞作品が決定し、組み立て式の卓上小物入れ「RAE」が全1401作品の中から最優秀賞に選ばれた。感染症対策の水分補給でマイボトルを机に置く人が増えたことを受けて、水筒を文具としてとらえた「学びに寄り添うマイボトル」(優秀賞)も注目を集めた。
商品化がコンペに応募するデザイナーのやる気を引き出し、受賞作からヒット商品が誕生する好循環になれば業界の活性化にもつながる。広報担当者も「デザインの登竜門に」と期待を込める。
地味だが完璧な提案
本当の定規も14年に優秀賞を受賞していた。制作したデザイナーの坂井浩秋さんは「一般的な定規のように『太さがある線』ではなく、幾何学の定義でいうところの線=『太さがない線』で目盛りを表現できれば、長さを計る道具という定規の本質により近づくことができると考えました」と狙いを述べている。
同年に審査員を務めたクリエイティブディレクターの佐藤可士和さんは「デザインの提案としては地味だと思われるかもしれないが、完璧な提案であることは間違いない」、デザインエンジニアの田川欣哉さんも「0.01センチメートルのズレはデザイナーにとって致命的であり、その点を解決しようと試みたこの定規は優れています」とそれぞれ激賞した。
確かに、紙とペンがデジタル機器に置き換えられ、AR(拡張現実)技術の発達によってスマートフォンが定規にもメジャーにもなるアプリが普及していても、緻密な作業では“プロ仕様”のアナログ文具に軍配が上がるのは間違いないだろう。ヒット商品に、そして文具とデザインの業界を盛り上げる要因になってほしいと、本当の定規にかかる期待の大きさは“測り”知れない。
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