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小学生は「会社員」になりたい? 職業ランキング1位を読み解くポイント

常見陽平
常見陽平

 小学生のなりたい職業1位が「会社員」。こんなデータが話題となっている。第一生命保険が、全国の小学生~高校生まで3000人を対象に調査した「第32回大人になったらなりたいもの」のアンケート結果だ。男子では、小学生、中学生、高校生のいずれも「会社員」が1位で、女子でも中学生と高校生で1位だったのだ。昨年は圏外だった。(第一生命「大人になったらなりたいもの」調査結果の詳細はコチラから)

 新しい仕事もランクインしている。たとえば、小学生男子の2位は「ユーチューバー・動画投稿者」となっているし、中学生と高校生の男子では2位に「ITエンジニア・プログラマー」が入っている。

 会社員が1位になったことについて同社のリリース文では「コロナ禍でリモートワークの導入が進む中、自宅で仕事をするお父さん・お母さんの姿を目の当たりにし、『会社員』という職業を身近に感じた子どもが多かったのかもしれません」と解説している。

 この調査結果は話題となり、Yahoo!トピックスに掲載されたほか、全国紙やワイドショーなどでも取り上げられた。3月23日付の朝日新聞朝刊「天声人語」にも紹介されている。

 もっとも、この調査結果の取り上げられ方、語られ方には、民間企業が発表する「人気企業ランキング」をみる際に注意するべきことが詰まっている。今回はそれを読み解いていくことにしよう。

 調査結果で注視すべき点

 調査結果を読み解く際の基本は「何のために、どのように調べたのか?」を確認することである。多くの人は、この調査結果を取り上げた記事だけで物事を判断しがちで、人によっては見出しだけで判断することもある。

 今回の調査結果については、実は調査方法・調査対象変更の影響が大きいと考えられる。

 第一生命からのリリース文にもあったが、同社は今回から調査方法をインターネットアンケートに変更している。1989年から昨年度までは、第一生命の生涯設計デザイナー(保険外交員)による訪問回収法だった。具体的には、昨年度は「ぼくのわたしの、すきなもの」をテーマとした夏休み子どもミニ作文コンクールの応募用紙に、作文執筆者が「大人になったらなりたいもの」に関するアンケートに回答し、その結果を集計したものだった。対象となっていたのは全国の幼児・児童(保育園・幼稚園および小学1~6年生)で、職種名は自由記述となっていた。

 一方の今年は、新型コロナウイルス感染症対策のためインターネット調査とされ、職業は自由記述ではなく29項目からの選択式(選択肢にないもののみ記述)に変更となった。調査対象も、小学3年生~高校生までに拡大している。つまり、テーマは同じでも、調査方法と対象が大きく異なるものになっていたのである。この事実に、各種報道は必ずしも触れていない。

 報道で触れられていないことといえば、ランクインした職種の獲得ポイント数である。特に小学生男子においては1位会社員(8.8%)2位YouTuber/動画投稿者(8.4%)3位サッカー選手(7.6%)4位ゲーム制作(7.2%)5位野球選手(6.4%)となっており、票は分散していると言えるし、1~4位は僅差で並んでいる。

 「会社員」が示すこととは

 すでにネット上でも指摘が相次いだのだが、この選択肢自体の問題も影響している。「会社員」という概念自体が広く、曖昧である。他は具体的な職種名、しかも専門職だが、この選択肢のみ曖昧になっている。ネット上ではこれのみ「雇用形態」となっていないかという指摘もあった。たしかに、「会社員」は暗に正社員のことを示しているという見方もあるかもしれない。

 言うまでもなく、世の中にはさまざまな会社があり、従業員には正規雇用の人も非正規雇用の人もいる。さらに同じ会社でも事業や職種は幅広い。この「会社員」が何を示しているのかは明確ではない。

 リリース文には、リモートワークで保護者が働く様子を間近にみることができたとある。さもありなんという話ではある。ただ、子どもたちは保護者の勤務先や、具体的な仕事内容を理解したのだろうか。リモートワークでは、むしろわからないのではないか。就活生を毎年、面談、インタビューしていて、身近な大人である保護者の仕事内容を具体的に説明できないという場面によく遭遇する。解決されたとは思えない。

 これらのことを踏まえて考えると、特に小学生の部に関しては会社員が圧倒的に人気だというわけでもないし、この選択肢を作ったことで広く票を集めてしまったと見ることもでき、見え方はかなり変わる。

 これは、就活生向けの人気企業ランキングなどにも言えることだ。毎年、このデータが公表されるたびに、企業の顔ぶれをみて「学生は安定志向だ」とか「大手ばかり志望して」などという意見がSNSにあふれるが、この小学生に対する調査と同様に調査方法、対象に注意したい。人気企業ランキングなどは、実施時期にも注目だ。就活前や初期段階のランキングの場合、単なる認知度調査、好感度調査になりかねない。就活後の調査などは、その企業の採用活動に対する評価だともみることができる。

 春は特に新入社員や就活生に関する調査結果が多数発表される時期である。注意して読み解こう。まわりから情報弱者認定されないように。

常見陽平(つねみ・ようへい) 千葉商科大学国際教養学部准教授
働き方評論家 いしかわUIターン応援団長
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。リクルート、バンダイ、クオリティ・オブ・ライフ、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部准教授。専攻は労働社会学。働き方をテーマに執筆、講演に没頭中。主な著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

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