ビジネストラブル撃退道

2020年入社組は「貴重な世代」 コロナ前の体制に戻す会社はフォローを

中川淳一郎

 リモートワークが都市部のホワイトカラーを中心に定着してきた感覚を日々感じているが、「本当にこれでいいのか?」ということを今回は書いてみる。本当に、2020年入社の新入社員のことを心配している。

 一年間リモートだった2020年入社組

 大企業の方々(30~40代)と時々Zoom会議をしている47歳の私にとっては、これらの会議では色々な業務に関する議論が進行するが、それは会議参加者全員がある程度の仕事経験があるがゆえに達成できるもの。

 ただ、これらの会議に2020年の新入社員が参加した場合、「果たして私は意見を言っていいのだろうか……」なんて思うはず。元々リアルな場の会議であっても新入社員は同様の感覚を抱きがちで、「この会議で一言も発しないのはバカだと思われるかも!」という恐怖心から何らかの意見を言うことも多いように思う。

 これに対して「甘い!」「お前は浅はかだ!」なんて言われながらも「チクショー!」と思って次の会議ではより鋭い意見を言い、存在感を出そうとする。しかし、Zoom会議の場合は、「黙っていてもなんとかなる」「むしろミュートにしている方がマナーを守っている」的な空気が存在する。

 これを1年間経験した新入社員の今後が、私は心配になっている。自分自身、新入社員だった1997年、常に先輩社員について回り、何も自らの存在感を出すことはできなかった。いちいち先輩と取引先のやり取りに「すげー!」と思い、「かなわない!」と思ったのである。

 そして、2年目の後半ぐらいでようやく一人で出来る仕事もできて、なんとか売り上げを出せるようになったのだが、正直先輩社員に1年半以上鍛えてもらわなかったらそうはなれなかったと思う。そして、4年目に後輩が私の下に入った時もエラソーに「おい、Y君。会議ってのはこの一言を言えばいいのだゾ!」みたいに言えることはなかっただろう。

 もし、コロナ前に体制が戻ったら

 だからこそ、2020年入社の皆さんが心配になってしまうのだ。たとえば、今年5月に「もうやっぱリモートワークやーめた! リモートで済む人だけは続けて構わないけど、会社に出社した方が効率がいい人は会社に来い!」と一斉に各社が元の体制に戻したとする。

 そうすると、2021年の新入社員と2020年の新入社員が「同じようなレベルだろう」的に扱われてしまうのでは、と思ってしまうのだ。もちろん、2020年組は1年間さまざまな経験をしている。だが、「リモート組」「コロナ組」といったレッテルを貼られ「十分な社会経験をしていない」という扱いを社内、いや、社会的にされてしまうかもしれない。

 これはもしかしたらこれから長く続く出世レースでも影響を与えかねないのである。2020年入社組が仕事人生において「コロナ組」と扱われ、「だからこの世代は傑人が出ないのだ……」といった言われ方をされる未来もあり得る。ゆとり教育を受けた世代が今でも「ゆとり世代」などと社会人になっても揶揄されているのを見ているだけに、否定はできないのだ。

 4月になると新入社員が入ってくるが、本当に各社は2020年入社の皆さんのケアが必要だ。彼らをキチンと「先輩」として立て、2021年入社組よりも仕事の経験をしていて、こんな厳しい時代だからこそ成長できた、といったフォローをしてほしい。

 私のような第二次ベビーブーム世代は「氷河期世代」といったレッテルを貼られ、「どうせ不遇な人生を送ってきたんでしょ?」「オタクなんでしょ?」のように言われてきた。それがどれだけ多くの「同胞」を苦しめてきたか。

 2020年入社組は、他の世代にはできない体験をしてきた貴重な世代である。彼らがこの1年間で感じた虚無感などは今後、多くの企業が活用すべきである! と、私は感じている。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう) ネットニュース編集者
PRプランナー
1973年東京都生まれ。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『謝罪大国ニッポン』『バカざんまい』など多数。

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