5時から作家塾

ペットロボにスマートバンド…ヒット続出、体験特化型店舗「b8ta」が新事業

大来俊

 「体験だけ」だから安心して利用 AIカメラと店員がデータを収集

 東京・銀座の目抜き通りの一つである晴海通り沿いで、高級ホテル「ザ・ペニンシュラ東京」に隣接する都会の一等地に、多種多様な商品が並び、平日、週末を問わずひと際賑わいを見せる路面店がある。2015年に米サンフランシスコで発祥し、20年8月に日本上陸を果たした、b8ta Japan(ベータ・ジャパン、東京・千代田)が運営する「b8ta Tokyo - Yurakucho」だ。店内には、米シリコンバレー発で“最強”の空気清浄機として呼び声が高い「AIRDOG X5S」や、自転車とバイクを掛け合わせた電動ハイブリッドバイク、音楽を聴くことができる眼鏡型のオーディオグラスなど最先端製品がずらりと展示されている。一方で、木の実から収穫した綿を使用し、薄手なのにダウン並みの暖かさを誇るサスティナブルなコートや、複数のフルーツのフレーバーをラインアップしたクラフトビールなども置かれている。その他、化粧品やキッチン用品、ガジェットなどもある。店の中をぐるっとひと回りするだけで、まるでミニエキスポのように、最新の様々なトレンドに触れることができるのだ。

 最大の特徴は、一般的な家電量販店や雑貨店とは異なり、店員が寄ってきて購買を進めるようなセールスはなく、自分のペースでひたすら“体験”することに特化した、今までにないコンセプトの店舗であることだ。その優位性をb8ta Japan代表の北川卓司氏はこう話す。「b8taは売ることを主目的とせず、店員であるb8taテスター(以下、店員)も販売ノルマがない。機能などの情報は製品の横に設置されたタブレットに表示されるので来店者はセルフでそれを確認し、より深く知りたい時に、店員が作り手の思いや世界観も含めて説明する。店内に在庫を持つ製品もあるのでその場で買うこともできるが、売り込みは一切しない。気に入ったら他の量販店やECなどどこで購入しても構わない。顧客は純粋に体験だけを楽しめるため、気軽に立ち寄れ、製品も何ら躊躇することなく手に取ることができる」。

 製品は、メーカーがb8ta店舗内の約60×40cmのブースを月額30万円、契約期間半年以上で借り受け、出品する形で展示する。用意するものは、製品本体とタブレットに載せるための情報だけ。後はトレーニングを受けた店員がメーカーに代わって、機能や魅力をアピールする。メーカー側はオンライン広告を出すような手軽さで、多くの人が集まる場にミニ店舗を出店でき、運営も丸ごと任せられるのがメリットだ。

 加えて、メーカーの利点となるのが、店内の天井20数カ所に設置されたAIカメラによって、様々な定量データが取得できることだ。自社製品のブース前を通った人の数(インプレッション数)、興味を持って5秒以上立ち止まった人の数(ディスカバリー数)、店員がタブレットを使って商品のデモンストレーションを行った数(デモ数)が、カメラによって自動的にカウントされる。メーカー側は、ウェブ上に設けられた専用のダッシュボードで数値の推移をチェックでき、例えばインプレッションが多いのに、ディスカバリーが少なければ、展示の仕方に課題があることが推測され、タブレットのトップページの商品画像やコンテンツをより訴求力のある内容に変えるなど、数字を基に改善する手立てを講じられるわけだ。

 さらに、大きなポイントとなるのが、顧客からの評価を聞いた店員が、ダッシュボードのチャット機能を通じてほぼリアルタイムに入力し、メーカーの担当者に定性データとして伝えるサービスを提供していることだ。訓練された店員は、顧客からコメントを引き出すことに長け、顧客も売り込まれる心配がないため協力的で、「買わない理由」も含め、様々な本音を吐露してくれる。「店頭での定性データは、メーカーにとっては得難い宝の山。製品開発やマーケティングに役立てる事例が数多く出てきている」(北川氏)。

 こうして体験に特化することで生じるあらゆる利点に価値を見出し、20年8月に有楽町店と新宿マルイ店の2拠点をオープンさせて以来、多くの企業の利用が促進。累積の出品数は既に170社以上に及んでいる。インプレッション数も、オープンから5カ月間が経過した昨年末までの累計で有楽町店が約416万、新宿マルイ店が約280万に上り、数多くの来店者を集めていることが分かる。b8taは、上陸から僅か半年余りで、消費者が製品と出会う新たな場として、着実に認知を広げているのだ。

 EC急伸の中、体験が弱点を埋める 将来はOEMで既存店の“b8ta化”も

 b8taのサービスは、コロナ禍やアフターコロナの時代で、さらに利用価値が高まる可能性を秘めている。背景にあるのが、コロナ禍の巣ごもり需要で、ECの利用者や機会が加速度的に増え、今後も不可逆的な拡大が予想されることだ。ECは便利であるが、実際に製品に触ったり、体験したりすることができないのが弱点。一方で、買い場のECへのシフトが鮮明になる中、実店舗にとっては「体験」こそが価値だ。ECがb8taを利用してウィークポイントを埋める動きが広がることは、容易に想像がつく。

 実際、そうした流れが顕著に現れているのがクラウドファンディングのプロジェクトだ。まだ世に出ていない先鋭的な製品にウェブサイト上で支援金を募り、支援者には事後に完成品を届けるプロジェクトが多いが、開発ストーリーや思いを熱くつづってアピールすることはできるものの、実機を手に取る体験を提供できないのが難点。その課題を克服するため、プロジェクト上でb8taに出品していることを周知し、来店して試すことで理解が深まり、より多くの支援金を集める成功例が出てきているのだ。

 典型的な好例が、毛皮に覆われ、まるで生きているように動いたり、鳴き声を発したりするAIペット型ロボット「MOFLIN(もふりん)」のプロジェクトだ。開始と同時にb8taに出品すると、実際に触って愛くるしさを体験したいと多くの人が訪れ、メディア露出も拡大し、Twitterでトレンド入りするほど話題が拡散。結果、6000万円以上の調達を成し遂げ、ここ数年で最も成功したロボット関連のプロジェクトとなった。

 外資メーカーによる「日本初上陸」の製品の販促に効力を発揮するケースもある。一例が、手首に付けるだけで摂取カロリーが自動的に計測できるスマートバンド「HEALBE GoBe3」だ。発売元のHEALBE JAPANがb8taに出品し、数多くの人が体験することによって、同社のウェブサイトへの訪問数が最大約30倍に増加し、初回入荷分が2週間で完売。その人気ぶりを家電量販店などにアピールすることで、目標の2.5倍の販売店舗数を確保し、スタートダッシュを成功させた。

 その他、スタートアップだけでなく、花王やロート製薬など既存の国内大手メーカーが出店し、化粧品を体験する場を提供する動きも進んでいる。「大手は百貨店などの小売店からECまで、既にあらゆる販売チャネルを持っており、次の一手の開拓が課題。そうした中、体験に特化した接点であるb8taの可能性が認められ、出品につながっている」(北川氏)。

 b8ta側も、既存の2拠点に続き、国内でビジネスを拡大する新たな動きを始めた。福岡市内において、博多駅直結の「博多阪急」、福岡PayPayドーム近くの「MARK IS 福岡ももち」、天神エリアの「イムズ」の3つの商業施設に、21年4月から期間限定でポップアップストアを開設。新たな試みとして、ボールドライト社のスタンプラリーシステム「プラチナラリー」を導入し、各製品に対する来店者からの声をスタンプラリーと連動したアンケートで集める。「福岡は在京の大手やスタートアップにとって、距離的に遠く、進出に興味を持ってもなかなか踏み切れない地域。そうした企業にとって、試しに出品することで、不特定多数の来店者に体験を提供でき、生の声を集められるまたとない場になる。今後は、他の大都市でもこうした期間限定のポップアップストアの展開を模索したい」(北川氏)。

 また、将来的には、b8taのノウハウやシステムをOEM提供し、既存の小売店を体験特化型に再生する事業も視野に入れている。いわば、世の中の様々な店舗を“b8ta化”する野心的な構想だ。ECが急伸し、実店舗の存在意義が問われる中、ビジネスモデルとしては十分需要が見込めるといえるだろう。

 写真・資料提供:b8ta Japan

 (大来 俊/5時から作家塾(R)

5時から作家塾(R) 編集ディレクター&ライター集団
1999年1月、著者デビュー志願者を支援することを目的に、書籍プロデューサー、ライター、ISEZE_BOOKへの書評寄稿者などから成るグループとして発足。その後、現在の代表である吉田克己の独立・起業に伴い、2002年4月にNPO法人化。現在は、Webサイトのコーナー企画、コンテンツ提供、原稿執筆など、編集ディレクター&ライター集団として活動中。

5時から作家塾(R)のアーカイブはこちら