元受付嬢CEOの視線

元受付嬢が「ブラックリスト」を公開 こんなお客様はイヤがられる

橋本真里子

 2021年最初の連載コラムです。何を書こうか悩みました。再度、緊急事態宣言が発令されるなど、今年も新型コロナウイルス関連の記事が増えそうな予感ですね。行動も制限されてしまいストレスを感じやすい日々ですので、私からは「リラックスして読める」テーマをご提供しようと考えました。

 今回は、私が受付嬢だったときに「実はイヤだったお客様」についてお話ししたいと思います。受付嬢という立場を離れた今だからこそ明かせる「ブラックリスト」ともいえるでしょうか。日頃のビジネスシーンをイメージしながら読んでいただけると嬉しいです。

取り次がれた社員も困る? 「足跡」だけを残すお客様

 「アポなし」…と聞いて、いいイメージを持つ方はあまりいないと思います。受付嬢も同じです。アポイントがあるお客様に対応するのですら大変な時間帯もあるのに、アポイントなしで来られるお客様がいるのです。受付嬢は皆、涼しい顔で対応しますが、実はこめかみにピキッと怒りが現れることもあるでしょう(笑)

 「アポなしの来客」と一言で言ってもいろいろな種類があります。

 例えば、担当者にお届け物がある場合や「近くに来たから顔を出しました」的なもの。それから、「社長に会わせてください!」と熱い想いを持った学生なんかもときには来たりします(笑)そして、クレームを伝えに来られるお客様。これも意外と少なくありません。

 しかし、これらのアポなし来客に対して受付嬢はイラッとしたり、塩対応することはありません。アポがないとはいえ、ちゃんと来社した「目的・対象者」が明確だからです。こういった「目的をお持ちのお客様」をおつなぎするのは私たち受付嬢の仕事です。どんなに忙しかろうと、きちんと対応しなければと思います。

 一方、アポイントをとっていても、「目的・対象者がない」お客様は私たち受付嬢に嫌がられる傾向にあります。

 年末年始の「ご挨拶」のためだけに来社するお客様が実は敬遠されることについては以前も述べたことがありますが、お客様によっては次々と人を呼び出し、カレンダーなどを渡すような「目的」というよりも「足跡」を残すようなご挨拶の仕方をする人がいます。これは社員側にも「時間の無駄」といった印象を持っている方が多かったように思います。一言で「挨拶」と言っても、「伝えたいことがある挨拶」と「とりあえずこなしておく挨拶」では、相手の印象は大きく違うようです。

 飛び込み営業も同じでした。「とにかく誰にでもいいから会わせて欲しい。挨拶させて欲しい」とおっしゃる方です。上司に「とにかく自分の名刺と資料をばら撒いてこい」と言われて受付に来られたんだろうなと想像できますが、受付嬢にとってはそれが一番困るのです。

 私たちも社員の皆さんの時間を奪うようなことはしたくありません。ご希望や目的に沿った人におつなぎしたいと思いますが、「人材派遣をやっている会社なんですが、人事部の方を…」などおおまかでも構わないので何かしらの情報がないと、それができません。ですので、「とにかく誰にでもいいから会わせて欲しい」というお客様にはお断りします。

 受付嬢だからといって、誰でも取り次ぐわけにはいきません。「会話ができる」「マナーが守れる」「常識がある」人かどうかを判断し、社員の人と繋ぐか否かを判断するのも、受付嬢の重要な役目です。

 自分が何者で、何が目的でここにいるのか。どんな業務を担当している人に会いたいのかなどまでをきちんと説明してもらえれば、おつなぎすることは難しくても、資料や名刺をお預かりし、お渡しすることは可能だったりもします。受付嬢の事情、会社側の事情も考慮して往訪するといいと思います。

 あと、話が長い人! これも受付嬢には嫌われます。なぜなら受付に行列ができてしまうからです(笑)忙しくない時はいいんですけどね。

すべての受付嬢が嫌う…それは臭う人

 受付嬢の「嫌いランキング」で必ず上位に入ってくるのが、臭う人です。「でも、受付嬢とは一瞬しか接しないし、そんなに嫌なもの?」という質問が聞こえてきそうです。

 なぜ、受付嬢がニオイに対して敏感かというと、商談などをおこなった「会議室にニオイが籠るから」なんです。

 大体会議の時間は1時間単位です。1時間、密室に近い会議室に籠ると結構なニオイが残ります。そしてほとんどの会社は会議室が足りていない状況で、次から次に利用者が入れ替わります。受付嬢がいる会社はその会議室の清掃や整頓を受付嬢が担当するのですが、ニオイが残っていると次の利用者に不快感を与えてしまうのです。それが商談だったりすると、ネガティブな材料になりかねません。

 会議室にニオイが残っていると受付嬢はダッシュで消臭スプレーを取りにいきます。定期的に来られるお客様の場合は、清掃に行く段階で消臭スプレーを持っていくのです。受付によってはまさに「ニオイのブラックリスト」を用意しているかもしれません(笑)

 いや、笑い事ではないですね。本当に「要注意なお客様」というのは共有していました。ニオイの種類は様々です。生活習慣におけるニオイもあれば、香水が強いケースもあります。また、午前中にありがちなのは「お酒臭さ」です(笑)

 清掃に入るだけの受付嬢も辛いのですから、その後の利用者はもっと辛いと思います。個人的な嗜好で判断しているわけではなく、受付嬢という仕事をまっとうしようと思えば思うほど、ニオイには敏感になってしまいます。

少し意外?…早く来すぎる人

 「目的のない来社」「臭う人」。この二つを受付嬢が嫌う傾向にあることはある程度予測できるかもしれません。ですので、ちょっと意外なお話もしたいと思います。

 時間を守って来られるお客様はもちろん受付嬢に好まれると思います。しかし、「早すぎる」のは逆効果です。受付嬢はあまりにも早すぎる時間に来られるお客様を嫌がる傾向があります。

 基本的には人に見られる仕事についている受付嬢ですが、1時間のうち2回、00分と30分にやってくる“山”の間は、束の間の「誰にも見られていない時間」といえます。来客を捌き切り、待合スペースに誰もいない状態になって達成感を感じているのです。

 ところが、捌き切ったはずなのに、待合スペースに一人でもお客様がいると受付嬢たちがざわつきます。「連絡漏れのお客様じゃないのか」、「社員がまだ迎えにきていないのではないか」、もしくは「不審者なのか…」なんていう風に、私たちは心配になり、仕事が増えてしまうのです。列を捌くのに必死なので、列に並んでいたお客様と、新たに到着して列の背後にいらっしゃったお客様の区別が、受付嬢にはつきづらいのです。

 顔見知りのお客様であれば不審者じゃないことはわかりますし、「○○時に予約があるから、早めに到着されただけかもね」と察しがつきます。お客様によっては、そのように受付に声をかけてくれる方もいます。しかし、顔見知りの来訪ではなく黙って30分も前から来られるようなお客様は警戒心が働いてしまうのです。

番外編 受付嬢が大好きなもの

 受付嬢が嫌うお客様やお客様の行動などををご紹介してきましたが、受付嬢に好まれるものがあります。それはずばり「差し入れ」です(笑)

 受付嬢が欲しがりだとか食いしん坊と言っているわけではありません。以前にもお話ししたように私たち受付嬢はかなり時間に制約がある仕事です。ちょっと小腹が空いたからコンビニに…とか、ちょっと甘いものを飲みたいからカフェに…ということが許されないのです。

 限られた時間の中で食べ物や飲み物を買いにいくとなると、調達できるものも自然と限られてしまいます。ですので、思わぬタイミングでおやつ的な差し入れをいただけることは受付嬢にとっては救世主のような存在なのです。

 飽食で、豊かなものに囲まれている時代でも、受付嬢の勤務中は質素です(笑)日々、舞台に立っている受付嬢のちょっとした喜びの一つであることをお伝えさせていただきました!

橋本真里子(はしもと・まりこ) 株式会社RECEPTIONIST 代表取締役CEO
大学卒業後、IT企業を中心に上場企業などで受付業務に従事。受付嬢として11年間、のべ120万人以上を接客。2016年にRECEPTIONIST(旧ディライテッド)を設立。2017年にクラウド型受付システム「RECEPTIONIST」をリリース。2018年以降は日程調整機能「調整アポ」、会議室管理「RECEPTIONIST For Space」など、受付に付随するビジネスのコミュニケーションの一元化を目指すサービスも展開し、導入社数は3000社超。

【元受付嬢CEOの視線】は受付嬢から起業家に転身した橋本真里子さんが“受付と企業の裏側”を紹介する連載コラムです。アーカイブはこちら