新型コロナウイルス感染拡大に伴い働き方が大きく変化する中、大手企業の間ではテレワークの普及と同時に、働く日数を減らした「週休3日制」の導入が広がっている。みずほフィナンシャルグループ(FG)は昨年、「週休3日・4日制」の導入を発表。ユニクロを運営するファーストリテイリングもすでに「週休3日制」を導入している。仕事と家庭の両立や、社員の自己啓発を促す制度としているが、今後週休3日制の導入は拡大するのか。「ニューノーマル」な時代で生き抜くうえで重要なポイントを専門家の見解とともに紹介する。
メガバンクでも導入
「働き方が多様化する昨今、社員の選択肢の一つになれば」。みずほFGの広報担当者が語る。同社は昨年10月、国内メガバンクとして初の「週休3日・4日制」の導入を発表し、大きな反響を呼んだ。対象となるのは、グループ傘下の銀行や証券などの正社員あわせて約4万5000人で、昨年12月に導入された。
これまでは、週に3日以上の決まった休みが取れないとして、育児や介護のために退職せざるをえない社員もいただけに、週休3日・4日制の効果は大きい。「働きながら(育児や介護を)できる」(広報担当者)からだ。ただ、休暇日数に応じて給与も減額される。週休3日なら約2割減、週休4日は約4割も減ることになる。
「安心して休めない」「単なるコストカットでは」。ネット上ではこんな見方も散見されるが、みずほFGは「社員が自主的に選べる制度で、そうした(コストカットという)意味合いは全くない」(同)として、あくまで社員の働きやすさに主眼を置いた制度と強調する。
コロナ禍の前から週休3日制を導入していた企業は少なくない。衣類販売大手「ユニクロ」を運営するファーストリテイリングもその一つだが、みずほFGとは異なり、給与水準は変わらない。その代わり、1日あたりの労働時間が8時間から10時間に増える。勤務時間は多少延びるが、給与が減らないため、社員は「仕事と家庭や勉強を両立することができるようになった」と歓迎しているようだ。
日本総合研究所の山田久副理事長は、企業の週休3日制導入の背景をこう分析する。
「人材不足という現状の中、主婦の方やシニア層など多様な人材を活用したいということが、労働条件の多様化につながっている。また、ベンチャー企業などで優秀な人を活用するという意味合いもある。能力のある人は独立して仕事をするケースも多く、そういう人材を活用する手段にもなっている。他にも、ずっと同じ組織で働いている人は、できた時間を自己啓発や副業などにあてることで、学びの機会をつくることができる」
総務省の調査によると、日本の生産年齢人口は1995年の8716万人をピークに減少傾向にある。2017年はすで7596万人と22年間で1100万人も減少しており、2040年には6000万人を切るとも推計されている。労働者の確保は社会的課題で、今後は高齢者や外国人など様々な立場の人間が働く社会になっていくことが予想される。週休3日制は、人材不足による「労働者の多様化」という時代背景も影響して普及が進んでいるようだ。
政府も普及を後押し
政府でも導入拡大に向けた動きが始まった。自民党は既存の週休2日制度を維持しつつ、希望者が週休3日を確保できるよう政府に促す試案をまとめた。民間企業への導入を後押しし、公務員にも広げていきたい考えだ。
試案では、新型コロナの感染拡大に伴い企業などでリモートワークが導入された結果、「柔軟な労働環境や就労形態への対応力が日本社会に内在することが分かった」と提案理由を説明している。民間企業で導入が進まない場合は、中央省庁発で意識を変える必要性にも言及しており、今後普及に向けた取り組みがさらに加速する可能性もありそうだ。
週休3日制は今後も拡大していくのか。山田副理事長は「従来の典型的な働き方は、ウイークデーは朝早くから夜遅くまで働いている状況だった。また結婚していると女性は家事、男性が働くという形だったが、今は男女共働きが当たり前になっており、今後シニアも働くことになるとニーズとして高まることが予想される。急速に広がることはないだろうが、導入する企業はじわじわと増えていくだろう」とみる。
副業解禁、テレワークの波も
みずほFGでは、すでに副業も解禁している。「副業を通じて社内ではできない経験をしてもらい、自己研鑽などに充てた結果を、みずほにも還元してもらえれば」(広報担当者)。2021年度をめどに本社勤務の従業員(約1万2000人)の25%を常にテレワークとする方針も示しており、今後の勤務体制について「コロナ前には戻さない」と意気込みを見せる。産業界の改革とは疎遠と思われていたメガバンクで進む働き方にまつわる制度改革は、「ニューノーマル」な時代に向けて働き方が変化する現状を象徴する動きだ。
実際、副業や学びに関するコンテンツやサービスは今やネット中にあふれている。動画配信サイトのユーチューブでは、仕事で使える知識やノウハウを紹介する動画が人気を集め、それらを配信する人物を指す言葉として「ビジネス系ユーチューバー」という呼称も生まれている。写真共有SNSとして若い女性を中心に人気のインスタグラムには「休日副業で月収10万円収入アップ」などのうたい文句で、アルバイト求人アプリや、動画編集やプログラミングなどの教育サービスへ誘導する広告も散見されるようになった。
多様化する社会で生き抜く力
手軽に副業が始められる環境も整いつつある。インターネットを介して仕事を受発注できる国内最大級の「クラウドソーシング」サービスを展開するランサーズは、1回目の緊急事態宣言が発令された昨年4月の登録ユーザー数が4カ月で約2倍になったと発表した。ユーザーが増えた最大の要因は感染拡大による収入減。副業解禁の流れがコロナで拍車がかかった形だ。
山田副理事長は「『ジョブ型雇用』の導入が進むため、それぞれの人が自分の仕事の範囲を明確化することが必要になる」と指摘する。
週休3日制の導入や副業解禁によって働き方の選択肢は広がる半面、コロナ禍という“災厄”により企業の先行きは見通しにくい。これからの時代を生き抜く上で重要なことは何か。山田副理事長はこう強調した。
「まずはその分野の専門家になるという意識が必要だ。そして基本的には今の企業でしっかり仕事をしつつも、社外での交流などで外部にネットワークをつくること。転職する場合も外部とのつながりが大事になる。そして、どんな企業でも『どういう人か』という部分を見られるため、『人と上手くやっていく』という意識が何より大切になるだろう」