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「忘年会なし」が若手社員を救う? 鬼滅ネタ、香水の替え歌…起こりえた惨劇

常見陽平
常見陽平

 12月だ。忘年会シーズンである。と言っても、新型コロナウイルスショックにより忘年会を開催しない職場も多いようだ。感染拡大が伝えられている。プライベートな忘年会も含め、開催を思いとどまる人も多いことだろう。

 若手社員の“悩みの種“だった忘年会

 この忘年会だが、無くなってホッとしている人もいるのではないか。わざわざ年末の忙しい時期に、安くない会費を払い、コース料理を食べ、いつものおなじみの仲間と酒を飲み交わすということを、私たちはいつまで続けるのか?

 こんなことを言い出すと、飲食店はますますダメージを受けるかもしれない。この業界をいかに支援するかという論点はもちろんある。

 もっとも、新型コロナウイルスショックをいかに乗り切るか、感染対策と経済活動をいかに両立するかは今、そこにある危機ではあるが、ポジティブな変化も起こっていることには注目したい。単に感染対策のための「我慢」ではなく、快適な「新しい宴会様式」についてそろそろ私たちは考えるべきではないか。

 忘年会の問題点に話を戻そう。忘年会の中止などによって、2020年度からついに宴会芸の見直しが起こるのではないだろうか。これにより、若手社員の負荷が大幅に軽減されることに期待している。

 コンプライアンス上の問題もある。もちろんセクハラ芸やバイオレンス、さらには一気飲みのコールなどはNGだ。幹事をする若手社員にとっては、いかに同僚や先輩社員の暴走を止められるかなど、悩みはつきなかった。これらの悩みから解放されるのは、朗報ではないか。

 そもそも「誰でも知っているモノ、コト」が成立しにくくなっている今、宴会芸で場を盛り上げることは困難になってきている。文字通り無理ゲーである。もし今年、忘年会が開かれていたら、起こっていたであろう「惨劇」をいくつか妄想してみよう。

・『鬼滅の刃』ネタのスピーチ

 『鬼滅の刃』は間違いなく社会現象と言っていい作品である。『週刊少年ジャンプ』の何度目かの黄金期を象徴する作品である。映画の興行成績も爆進中だ。とはいえ、これだけ売れているのにも関わらず、認知はしていても、誰もが作品に触れているとは限らない。国会で、菅義偉首相が「全集中の呼吸で」とセリフを引用し、盛大に滑ってしまった事案があったが、職場でもこのような悲劇は続くことだろう。ただ、これは忘年会が中止になったとしても、メールでの挨拶などですでに行われている可能性もある。キメハラの連鎖が続いている。

・瑛人の「香水」の替え歌

 すでにYou Tubeなどではカバーなどが多数投稿されているが、今年の忘年会のカラオケでは「香水」ネタが跋扈(ばっこ)していたことだろう。なんせ、この曲、替え歌が作りやすいのである。例の「ドルチェ&ガッバーナの香水」の部分に案件名、クライアント名、社員や取引先の名前などを入れていじる芸が職場で同時多発していたに違いない。あまりに安易だともいえるが、この替え歌で盛り上げるというのは、宴会芸の鉄板である。

・いまさらパプリカ

 今年は、新型コロナウイルスショックさえなければ、東京オリンピック&パラリンピックの年だった。この大会で活躍した選手のモノマネなどが披露されていたことだろう。さらには、今年は死ぬほど「パプリカ」がかかっていたはずであり、昨年の宴会シーズンでは、社員にパプリカの踊りを強要する“パプハラ”が問題となったが、今年もまだまだ続いていたことだろう。

・いまさら嵐

 国民的アイドルグループ、嵐が活動を休止する。彼らに感謝するのは勝手だ。しかし、職場の中年たちが、嵐をやるのは無理があるのではないか。部長、課長たちによる「ハピネス」は本当の幸せといえるのだろうか。彼らによる、ぎこちない歌や踊りは考えてみるだけでおぞましい。

・無理あるコスプレ

 コスプレは、とりあえずやるだけで盛り上がる芸である。本来、このプロたちはこれに並々ならぬ情熱を注いでいる。ただ、宴会で中途半端に真似すると単に痛いだけになってしまうのが悩ましい。アマビエや、あつ森のコスプレ、キグルミなどで笑いを誘おうとして滑るという光景が展開されていただろう。考えるだけでどんよりしてくる。

 コロナに関係なく見直す時期に

 まだまだあるが、この辺で。こんな宴会、楽しいだろうか? 考えるだけで嫌な気分になってこないか? 新型コロナウイルスショックの影響で忘年会が中止になり、ダメージを負った飲食店には頑張ってもらいたいのだが、一方で、コロナに関係なく、忘年会の意義を見直す時期に達していなかったか? 感染症はいま、そこにある危機である。ただ、会社への通勤(これは今思うと、気分転換の機会だったともいえるのだが)や、宴会芸など、会社の嫌な部分から解放された点は大きいのではないか。これが感染症でなければみんな、変化にウキウキしたかもしれない。

 もちろん、宴会には意味がある、はずだ。多様な人が働く職場で労をねぎらう場、コミュニケーションを深める場として重要度は認識されている(宴会だけが手段ではないが)。幹事をさせることによって若者を育てる意味もなくはない(別の機会でやれという話でもあるが)。

 新型コロナウイルスショックは我々の生き方について問いかける。私達はいつまでこんな宴会を続けるのか。これを機会に考えてみよう。

常見陽平(つねみ・ようへい) 千葉商科大学国際教養学部准教授
働き方評論家 いしかわUIターン応援団長
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。リクルート、バンダイ、クオリティ・オブ・ライフ、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部准教授。専攻は労働社会学。働き方をテーマに執筆、講演に没頭中。主な著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

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