当連載は「ビジネストラブル」をテーマとはしているが、今回はビジネストラブルが発生した場合、「家庭への対処」がどれほど重要となるかを示す。最近立て続けに聞いた話は、いずれも「妻にビジネストラブルを正直に報告しなかった」というものである。
「収入激減」をひた隠し…
これを30代男性1人、40代男性2人から聞いたのだが、思わず「お前、ちゃんと本当のこと言えよ!」と言ってしまった。大まかにいうと、コロナの影響もあり、この3人は「給料減額」「ボーナス大幅減額」「非正規雇用で雇い止め」という事態に追い込まれた。
これを妻に正直に言えなかったのだ。どれもこの3人が悪いわけではない。あくまでも社会情勢が悪いだけである。まともな人間であれば、こうした事情は説明したら「しょうがないね」となるとは思うが、彼らの意見を総合すると以下のようになる。
このうち1人は妻からDVを受けた過去もあるそうで、恐ろしくて本当のことを言えないというのだ。本当は「減額」「大幅減額」「雇い止め」なのに、「少し減額」「減額」「雇用は維持されたものの仕事減少」ということにして説明したのだ。
彼らは毎月決まった現金を妻に渡し、そこから家計と自らの小遣いをやりくりしてもらっているのだという。その金額を減らしてもらったものの、その減額量よりも自身の収入が低下したことを隠している。
給与明細は元々見せないというポリシーだったようだが、今回のこうした嘘を彼らがいかにして取り繕っているかといえば、全員がヤフオクやメルカリで小遣い稼ぎをしていた。雇い止めに遭った人物・A氏は、妻に伝えている「仕事をしているはずの日」はこれまで通りスーツを着てかつての上司が経営する会社の雑用をし、月に6万円貰っている。その元上司にしても、そこそこ信頼できる人材を安く使えるだけに助かっているという。A氏は今、必死にやることで元上司の覚えが良くなって平日は毎日通えるようになり、雇い止めをされた会社程度のお金を貰えるようになるべく日々頑張っている。その暁には「条件のより良い会社に転職できた!」と妻には伝えるつもりだという。
3人とも間違いなくビジネストラブルに見舞われている。そして3人とも妻に嘘をつき、その場を取り繕おうとしている。となれば、妻からすれば楽観的にならざるを得ない。すでに本当のことを言っていたのであれば、余計な言い争いはしなくて済んだだろう。それなのに騙していたものだから、いずれ嘘が露呈した場合には「私だってパートの時間を増やしたのに!」「私の実家からお金を借りたのに!」「あの時、あんなもの買わなかったのに!」などと言われる可能性が出てきてしまうのだ。
家庭でも大事な「報連相」
「報連相」という新入社員が習うビジネスの基本があるが、それは家庭に対しても同じである。私はかねてより「人が仕事をする理由は『怒られたくないから』である」という説を唱えてきた。
それを悟ったのは会社員時代、私のクライアント企業だった某外資系企業の日本人担当者が深夜2時に突然書類を作って欲しい、と無茶ぶりをしてきた。私は別の仕事もあったので無理だと断ったのだが、彼女は電話口で悲鳴をあげながらこう言った。
「頼みます! もしもこの書類を出さなかったら○○(アメリカ人上司)が怒るんです!」
この瞬間、私は「人が仕事をする理由は『怒られたくないから』である」という真理に気付いたのだ。
今回の3人は妻から怒られたくないがために、怒られる日が来るのを先延ばしにしている。こんな精神状態ではいい仕事ができるわけがない。本来家庭というものは穏やかな時を過ごす場所であるはずなのに、あたかも職場が2つあるような状態になってしまうのは鬱病など、精神の病を発症させてしまう恐れがある。確かに給料・ボーナスの減額や解雇は家族から怒られるかもしれないが、正直に真実は言った方がいい。これでビジネストラブルが回避できるのだ。
【ビジネストラブル撃退道】は中川淳一郎さんが、職場の人間関係や取引先、出張時などあらゆるビジネスシーンで想定される様々なトラブルの正しい解決法を、ときにユーモアを交えながら伝授するコラムです。更新は原則第4水曜日。アーカイブはこちら