私が受付嬢を卒業してから4年半以上が経ちました。様々なことが起こりつつも、こうして今でも経営者として続けられていることは本当にありがたいなと感じる日々です。正直、起業した当時に今を想像できていたかというと、全く想像できませんでした。それどころか、1年先にどうなっているかを考える余裕すらなかったです。四苦八苦しながらも、なんとか会社と事業を継続できている事を労ってもらうことがあります。
そして労うと共に、いろんな質問をいただきます。多くは「受付嬢しかやった事ないのに、どうしてここまで経営者やれているの?」という質問に紐づきます。私自身も不思議に思う事ですが、きっと受付嬢時代に培ったスキルを総動員しているというのが一つの理由だと思います。そこで今回は、私が「受付嬢時代に密かに培ったスキル」についてお話しさせていただきます。
会社経営と同じだった 受付嬢が身を置いている環境
実際に「経営者」と「受付嬢」を比較してみて気づいたことがありました。それは、「身を置いている環境が似ている」ということです。
具体的にあげると2つのポイントがあります。1つ目は、「常に会社の顔として、会社の最前線に置かれている」ということです。そして2つ目は、「自分のペースでは仕事ができないこと」です。
「経営者の言動=企業イメージ」と言われています。何をするにも、経営者の行いや発言は会社のイメージに直結します。受付嬢も同じです。会社の入り口にいて、会社のイメージを象徴する役割を持つ受付嬢の立ち振る舞いや接遇は、企業イメージを左右します。全く立場や日々の業務は違いますが、立場を取り巻くフレームは全く同じということです。受付嬢時代に「常に誰かに見られている意識を持って発言・行動すること」は、経営者になった今でも無意識に根付いており、自身や会社の信用構築には寄与していると思います。
そして、「会社経営は何が起こるかわからない。何か起きたときは全てが経営者の責任であり、対応する義務がある」といった内容を耳にすることがあると思います。常に、いつ何が起こるかわからない=アンコントローラブルなことと隣り合わせなのが経営者です。一方、受付嬢はどうかというと、「来客はいつ、どれくらい、何人で、どんな目的で来社するかわからない」という対応を日々の業務とするわけです。もちろんお約束がある方もいらっしゃいますが、飛び込み営業もあります。クレームでの来社もあります。そんな「自分たちではタイミングや、対応の可否を選択できない業務」を担っているのが受付嬢なのです。
会社経営と共通するのは「自分のペースや業務範囲をコントロールすることが難しい」ということです。ある種「ハプニング的」な業務に受付嬢時代から触れてきたことは、経営者になっても生かされていると思います。
「テロ」に鍛えられ経営者としての武器に
受付嬢にとって、「空気を読む」「臨機応変に対応する」は大事なスキルです。
例えば「今はお茶を出さない方がいいタイミング」だったり、逆に「応対する社員が、受付嬢に“お部屋出し”(※)の声がけをしてほしいタイミング」などを空気を読んで対応するなどが挙げられます。(※会議室終了時間になったら、受付嬢がお部屋を“追い出す”行為です。)
一気に押し寄せてくるコアタイムの来客を「テロ」と表現したことはないでしょうか? 受付嬢は、それくらい混沌とした状況で、会社のイメージを崩すことなく対応しなくてはいけません。瞬間的に優先順位をつけ、大変さを一切顔に出すことなく捌き切る「臨機応変さ」が求められます。
やってみて気づいたことですが、経営者にもこの2つのスキルがとても重要なのです。経営者も空気を読むシーンは多々あります。営業のシーンでもそうですし、イベントなどでの登壇も場の空気を読みながら進めます。そして、臨機応変さも必要です。資金調達や取材の際など、予想外の質問をされることも多々あります。そういった時に、顔色変えずに対応できることは、経営者として求められる力量だと思います。なかなかこういったスキルを身につけられる職業はないと思うので、今でも自分を支える武器を授かったと思います。
感情を押し殺さなくても笑顔でいられる方法
会社を引っ張っていく立場として、一番やってはいけないことは「自分が腐ること」だと思っています。会社の中心である経営者や経営陣が下を向いていては、従業員もついていこうというマインドにならないと思います。しかし、当たり前のことですが私も人間です。私だって凹んだり、辛さを感じたり、時には泣きたくなることもあります。でも、それを人に見せることは基本的にはやってはいけないと思っています。
人によっては、「感情が乏しい」や「人間味がない」と思われるかもしれませんが、私はやっぱり経営者は常に前を向いて、誰よりも会社の事業やメンバーを信じることが大切だと思います。そういうマインドにつながっているのは、これまた受付嬢時代に培ったスキルが生かされています。
「会社の顔」である受付嬢は、常に笑顔で、自身のテンションや機嫌の良し悪し関係なく、「平等」に接することが仕事です。ある意味「人形」のように見えるかもしれませんが、負の感情を押し殺さなくては笑顔でいることはできません。例えば、前回の訪問時は「とても丁寧に接してもらった」という印象を持ってもらっていたとしても、次回に「全く態度が違った…」という印象を与えると、お客様にはマイナスな印象しか残らないと思います。
そして、常に笑顔でいるためには「負の感情」を押し殺すことだけではダメなのです。どんなこともポジティブに捉え、前向きなマインドを持つことも必要です。そこで初めて、お客様に「伝わる笑顔」になれるのです。経営者としても、従業員やお客様に目の奥では笑っていない笑顔で何を言っても、説得力が出せませんよね。むしろ、マイナスです。私は「演じる笑顔」ではなく、常に「心から生まれる笑顔」でいられる方法を受付嬢時代に見つけることができました。
あくび一つも許されず どこでもすぐに眠るスキルが発達
ここまで、ちょっとカッコ良すぎる内容になっているような気がして恥ずかしいので(笑)、オチ的なスキルもお話ししたいとも思います。それは、「いつでもどこでも、そして数分でも眠れること」です(笑)
以前この連載でも触れましたが、受付嬢は常に人目に晒されており、実はかなり疲労が溜まりやすい仕事なんです。あくびの一つも許されないわけですから。だから受付嬢の昼休みは、お昼寝がつきものです。
その回ではお伝えし切れなかったかもしれませんが、受付嬢のシフトには午後に15分程度の休憩を1、2回入れている企業が多いんです。お化粧直しやお手洗い、そしてちょっと小腹がすいた時にはおやつが食べられる程度の時間ですが、多くの受付嬢は、週の後半や来客が多い繁忙期はその小休止ですら、寝ます(笑) だから受付嬢は、短い時間でも場所を問わず、寝て体力を回復させることができるのです!
このスキルは、経営者になってもエネルギーの回復に非常に有効です。時間が限られているからこそ、合間を見て、体力を温存・回復させる…。会社経営とはよく「長距離マラソン」(私は、「障害物長距離」(ゴールが見えない《笑》マラソン)と例えますが、そう考えると、休息をうまく取ることも、もしかすると経営者として重要なスキルなのかもしれませんね。
【元受付嬢CEOの視線】は受付嬢から起業家に転身した橋本真里子さんが“受付と企業の裏側”を紹介する連載コラムです。アーカイブはこちら