新型コロナウイルス感染拡大の影響で、出社しない在宅勤務などのリモートワークが浸透し“働き方”が大きく変化する中、ワークとバケーションを組み合わせた「ワーケーション」が注目を集めている。遊園地の「よみうりランド」(東京都稲城市)では15日から、園内でリモートワークしたり、観覧車からウェブ会議に参加できたりする「アミューズメントワーケーション」が始まり、早くもSNSで「この発想すごい」と反響を呼んでいる。余暇を楽しみながら仕事をする「ワーケーション」は、はたして働き方のスタンダードになるのか。
“非日常”の遊園地で仕事
よみうりランドのアミューズメントワーケーションは、園内のプールサイドにある特設スペースを仕事のためにレンタルできるというサービス。午前9時から午後4時まで利用でき、平日は入園料込みで1900円。Wi-Fi(ワイファイ)や電源使用料、「観覧車1時間乗車券」なども含まれる。観覧車のゴンドラ内にもWi-Fiが整備されており、空中からオンライン会議に参加することも可能だ。この試みがSNSで「斬新すぎる」など話題となった。
「アフター5を家族で楽しむこともできる。仕事における新しいスタイルになれば」
よみうりランド広報部の担当者が提案する働き方は、遊園地でリモートワークをこなした後に家族と合流し、そのまま閉園時間まで一緒に余暇を楽しむというもの。20日までは平日午後5時までの営業だが、休園日をはさみ22日以降は平日も午後8時半まで営業する。アフター5も家族で楽しめそうだ。遊園地で仕事ができるのか疑問に思う人もいるだろうが、「平日は空いている」と担当者。よみうりランド周辺には、ゴルフ場などの関連施設もあり、アミューズメントワーケーションによって施設全体の利用者増加にもつなげたいとしている。
ワーケーションに詳しい山梨大学の田中敦教授(観光経営学)は「ワーケーションは型にはめられるものではなく、居心地の良さ・快適さを追求し、本人や家族が幸せになれるような制度にするべきだ」との考えを示す。
観覧車のゴンドラで東京の街並みを眼下にノートパソコンに向かう。そんな“非日常”の空間でのワーケーション。よみうりランドのユニークな試みについて、田中教授は「新たな試みだ」と期待を寄せる。
ワーケーション普及には課題も
「新しい旅行や働き方のスタイルとして普及に取り組んでいきたい。そのための整備などを支援する」。7月に開催された政府の「観光戦略実行推進会議」で、当時の菅義偉官房長官はワーケーションについて、こう強調した。コロナ禍で観光関連産業が大きな打撃を受ける中、政府もワーケーションの普及に取り組んでいる。
ワーケーションを促進する動きは自治体にも広がっている。感染拡大により観光客の減少にあえぐ栃木県日光市では、民間企業と共同でワーケーションの実証実験を実施。山々と美しい湖に囲まれた参加者は活発に意見を交わし、「リフレッシュでき、仕事のアイデアも浮かぶ」と肯定的な意見が寄せられた。報道によると、日光市はワーケーションを推進し、落ち込みが激しい観光業界の復活への起爆剤としたい考えだという。
ただ、田中教授は「ワーケーションは労務管理上難しいという側面もある」と指摘。「労働基準法により企業側は労働者に対し『就業場所の明示』が必要で、普及のためにはガイドラインを含めた国の後押しが必要となるだろう」とみる。
ワーケーションを「ただの遊びではないか」と思う人もいるようで、導入に踏み出せない企業も多いとされる。田中教授は今後の企業側の考え方について「家族とのコミュニケーションや施設利用によるリラックス効果などで従業員が総合的にリフレッシュし、それが仕事のパフォーマンス向上につながるという目線で取り組むことで、普及へとつながるのではないか」との認識を示す。
コロナ禍によって働き方が大きく変わりつつある今、ワーケーションの普及には、働き方に対する企業側の柔軟な姿勢も求められている。