弊社は2016年よりクラウド受付システムを提供しております。様々な企業からお問い合わせをいただき、サービス導入をご検討いただいていますが、新型コロナウイルス感染の広がりを受け、弊社でもその需要に関して様々な変化を感じています。
例えば、各社が今まで、サービス検討のきっかけとして多く挙げていたのは、「業務の効率化を図りたい」「席をフリーアドレスにするため取次をなくしたい」「移転を機に受付をスタイリッシュにしたい」といった類のものでした。しかし今はその動機にも変化が見られます。「来客の履歴を正確かつ自動的に残したい」「無駄な接触をなくしたい」「内線に触れる・話しかける行為をお客様にさせたくない」という新しいニーズが生まれたのです。
弊社はシステム提供だけでなく、受付業務構築のコンサルティングも行っております。ウィズコロナやニューノーマルが叫ばれる中、携わらせていただいている企業の多くが「今後の受付をどう考えればいいか」、非常に悩まれています。こういった状況を踏まえ考えてみると、ウイルスの広がりは、「受付」という空間について改めて考えるいい機会と言えるのかもしれません。
前回は「受付嬢の将来」について推察しました。今回は、10年以上のあいだ、「受付」という業務・空間に身を置いてきた人間として、「今後の企業受付」のあり方について考えてみたいと思います。
多くの企業が「受付」をどうしていいかわからない
多くの企業では、受付を管轄するのは「総務」や「管理部」といった部署です。しかし当該部署の人々も受付のことに関しては実はよくわからないという企業が多いようです。新型コロナウイルス感染が広がる以前から、多くの企業は、「受付」を持て余していたように思います。これは私が起業しようと思った理由の一つでもあります。
持て余した結果、多くの企業は、規模や来客数に応じて、有人/無人の受付をおき、基本的には内線で取り次ぐという形を選んできました。弊社が提供するようなクラウドによるサービスが世の中に広がり出し、受付方法の選択肢は少し増えたように思いますが、それでも「受付」というよくわからない空間を積極的に変えようという企業は多くありませんでした。そして今、コロナ流行を受け、たくさんの来訪者や社員が接触する「受付」という空間の改善を余儀なくされている状況です。
前回、弊社のデータを用いて指摘したように、コロナで来客は減っても、企業が存在する限り来客はなくなりません。来客がある以上、何かしらの形で受付を設置し、何かしらの方法で取次をしなくてはなりません。
ウィズコロナ時代の受付において企業が抱える課題
- 電話機使用による飛沫感染リスク
- 有人受付での飛沫感染リスク
- 余計な接触機会の削減
- 感染者が出た場合の来訪履歴や面会履歴をデータで残さなければならない
コロナ前までは来訪者と担当者はただ会えればよかったのですが、上記のようなリスクを回避して会わなければいけなくなったのです。受付が持つ機能にも変化が生じてきました。
受付には「ステークホルダー」が多い
私が実際に受付嬢として働いていたときに常に感じていたことは、「万人にとって100点の受付を作ることは不可能」ということです。受付には一日の中でも様々な来客が訪問します。取引先だけでなく、新卒選考を受ける学生から大企業の重役、そして株主までもが来訪します。関わる人の年齢層や業種の幅が広いのが受付です。しかし受付というのは基本的に各社でルールが決められています。
各社が独自に定める来訪者向けルールの一例
- 名刺を2枚確認する
- 受付票に記入してもらう
- 内線で各自で担当者を呼び出してもらう
- 来訪者のデータをタブレットで入力してもらう etc…
関わる人が多いのに、ルールは一つ。そうなると、これらのルールに不快感を覚える人も少なからず発生することが予想されます。だからと言って、人によって受付方法を変えるのは現実的ではありません。そのため私が受付嬢時代に意識していたことは「万人が不快に思わない受付」をつくることです。
もちろん全ての人に「素晴らしい受付だ」と思っていただきたい気持ちはありますし、そう思っていただけるように一生懸命接客をしてきました。しかし現実的に小数名の受付に対し、多数の来客が一気に押し寄せた場合は、来客ひとりひとりに理想的な接客やケアができるわけではありません。時には自分でも納得のいかない接客になってしまう場合もあります。そういう時でも「最低限、不快に思わないような対応を」という意識を持つことで、例えば閑散期と繁忙期とで気持ちや接し方を切り替えたりもできます。
企業として「説明できる」受付を
受付というのは企業のカラーやイメージを体現する場でもあるとも思っています。だからこそ、企業として「どういうイメージを持ってもらいたいか」「何を大切にしたいか」を決めるべきだと思います。それを決めると、自ずとそれぞれの企業に合った受付の形も見えてくるでしょう。
例えば、「人が迎える受付を維持したい」と考えれば、受付嬢の感染対策をしっかり実施した上で有人受付を継続すればいいと思います。あるいは、「御来客の感染リスクを最小限に抑える受付をつくりたい」と考えた場合、内線の受付をタブレットなどに変更したり、機器をこまめに消毒するといった予防策を講じればいいと思います。
前段でも述べましたが、「100人が100人とも100点満点をつける受付」の実現は非常に困難です。ということは、受付の方法に異論を唱える来訪者が出てくるケースもあるのです。そういった場合でも企業として「何を重要視して受付を構築したか」という考えがあると、違和感を覚えた来訪者にも「弊社としてはこのように考えた上で、できる限りの対策を行っております」とお伝えすることができます。こういった対応ができるか否かは企業のイメージを左右することにつながると思います。
正解がないからこそ、「企業の色」を重視する
緊急事態宣言発令中の企業の考えとして多かったのは「いかに社内に感染者を出さないか」だったように思います。しかし現在、感染の「第2波」が到来しているともいわれています。感染者をゼロに抑えることが難しい状況になった今、「感染者が出たときにどんな対応をとるか」が企業にとって重要視されるようになってきたように感じます。
受付において、そしてコロナ対策においての「正解」は正直、定義するのが難しいです。しかし考え様によっては、ウィズコロナ時代においても受付という空間は会社の色や考えを打ち出せるポイントでもあると思います。これを機会に、改めて「受付」について見直すのはいかがでしょうか。
【元受付嬢CEOの視線】は受付嬢から起業家に転身した橋本真里子さんが“受付と企業の裏側”を紹介する連載コラムです。更新は隔週木曜日。アーカイブはこちら