ビジネストラブル撃退道

社畜道を極めた知人の一言に納得 仕事相手が本当に喜ぶ「贈り物」の選び方

中川淳一郎

 ビジネス上、悩むのは「贈り物」である。私は8月31日をもってして編集者・PRプランナーとしての人生をセミリタイアする。

 「ダメだ。スーパードライだ」

 そうしたことから、送別会を小学館の皆様から8月17日に開いてもらい、その同じ週である8月20日に出演したレギュラー番組『ABEMAPrime』(Abema)の番組終了後は、1時間後(8月21日)に迫った誕生日祝いをスタッフ・出演者からしていただいた。まったく自分の誕生日など公表していなかったにもかかわらず、まさかのスタッフが把握していたというサプライズであった。

 Abemaについては「愛」がこもっているほか、「相手が本当に欲しいもの」をやはり贈るべきだと感じた。まずはAbemaの方からだが、出演仲間のお笑いコンビ・EXIT(りんたろー。さん、兼近さん)、フリーアナウンサー・柴田阿弥さん、ライターのヨッピーさん、気象予報士の穂川果音さん、テレビ朝日・大西洋平アナがいる中、しずしずとスタッフが私の顔が描かれたケーキを持ってきてくれた。

 この段階でギョーテンしてしまい、感動したのだが、さらに、渡されたのがビール350ml缶が24本入っているであろうと思われる箱である。

 「中川さんが一番喜ぶのはビールだよ」と誰かが言ってくれたのだろう。いや、本当に欲しいものをもらえて嬉しくて仕方がない。これについてフェイスブックで感謝したところ、Kプロデューサーから以下のコメントが届いた。

 〈「シャンパンで良いですか?」と聞かれたので「ダメだ。スーパードライだ」と回答しました〉

 贈られた本人は喜ぶか?

 先日、Kプロデューサーを含めたスタッフが私の事務所に来てくれたのだが、仕事終了後にスーパードライを出したことからこの1ケースを用意してくれたということだ。結局、贈り物というものは、相手がもっとも喜ぶであろうものを贈った方が、全員が幸せになる。

 「多くの人が喜んでいるもの」「世間的にステータスが高いもの」を贈られてもその気持ちには感謝するものの、果たして本当に贈られた本人は喜ぶか? たとえば、ワインやシャンパンが苦手な人がそれらをもらっても嬉しくはない。酒を飲めない人が絶品のつまみの詰め合わせをもらっても困ってしまう。私は「ビール1ケース」というものは本気で嬉しいもの。だからこそプロデューサーを始めとしたスタッフには感謝している。

 そして、小学館だ。私のための送別会の際に、お世話になった3人の男性に贈ったのが「茅乃舎」のダシセットだ。カツオダシを中心としたラインナップを選び、箱に入れてもらい、当日は個別に袋に入れてお渡しした。

 彼らも私に贈り物を用意してくれていた。海鮮物の瓶詰で知られる「加賀屋」の6品セットの珍味だ。イクラの醤油漬けを含めたものだが、まさに「ナイスです」と村西とおる氏の如く言いたくなった。

 「上司や得意先にゴマをする時は…」

 私が贈った「茅乃舎」については、本当に美味しい。いわゆる「魚粉」系のラーメンにしたい場合は茅乃舎のダシパックを入れると本当に美味しい。それを知っているから3人の既婚男性に贈ったのだ。

 この発想のベースにあるのは、TBSラジオの名物プロデューサーとして知られる「橋P」こと橋本吉史氏の助言がある。彼がプロデューサーを務める『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』に出演した時に出演した彼が放った一言がきっかけだ。この時の特集テーマは「社畜バンザイ!」というもの。いかに、サラリーマンが素晴らしい職業であるかを議論したのである。その中で橋本氏が言ったのがこの発言だ。

 「中川さん、社畜たるもの、上司や得意先にゴマをする時は、奥様のことをまずは考えるべきなんですよ! 私の社畜人生の集大成として分かったのですが、結局、ご本人が好きなものよりも、奥様が好きなものを選ぶ方が絶対にいい」

 「ご本人はピンと来ていないかもしれませんが、家に帰ったところで『なんか分からないけど、今日、TBSの橋本君からこれをもらったんだよね』と伝えたところ『これ、欲しかったの!』と言われる商品があるんですよ! 僕はこれで社畜道を極めてきました!」

 ここで橋本氏が紹介したのがペニンシュラホテルの「XO醤」である。1瓶(200g)6480円というデラックス価格だが、これを自宅に持ち帰ったら妻が夫をホメまくり「これをくれた人、相当センスあるね!」と言うのだという。橋本氏はこう続ける。

 「結局ですね、社畜の接待・贈り物というものは、ご家族をどう大事にするかなんですよ!」

 決して橋本氏は「社畜」を否定しているわけではない。むしろ「我々は『シャチ』のごとく海の王者のごとく振る舞うべきなのです!」とまで言う。だからこそ今回、私はペニンシュラのXO醤を買いたかったが、残念ながら在庫切れだった。そこで、「茅乃舎」を買ったのだが、参加した男性から「妻も喜んでくれました!」とメールをいただいた。

 基本、「贈り物」をする場合は、世間の評価はどうでもよい。貰う立場なのであれば、好きなものを日々言っておくべきだし、渡す側なのであれば、感度の高い人から情報をGETしておくべきである。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう) ネットニュース編集者
PRプランナー
1973年東京都生まれ。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『謝罪大国ニッポン』『バカざんまい』など多数。

【ビジネストラブル撃退道】は中川淳一郎さんが、職場の人間関係や取引先、出張時などあらゆるビジネスシーンで想定される様々なトラブルの正しい解決法を、ときにユーモアを交えながら伝授するコラムです。更新は原則第4水曜日。アーカイブはこちら