現代日本人の仕事や生活がスマートフォンなしで成り立たないという話は、もはや当たり前過ぎてトピックスにもなりません。スマートフォンの個人保有率は67.6%に及び、平均的な毎日の使用時間は、3時間を軽く超えています。
そんな我々にとって今や一番身近なプロダクトと言えるスマートフォンのラインナップは、ふと気が付けば、韓中メーカーの製品がほとんどです。いつの間にか定着した春夏モデル、秋冬モデルの新陳代謝サイクルの中で日本メーカーは多くが淘汰されてしまったのです。
例えば現在主要キャリアで5G対応機種として購入可能なのは、サムスンGalaxy、LGなどの韓国ブランド、もしくはOPPO、ZTE、Xiaomiの中国ブランド。AQUOSはシャープ製ですが台湾企業傘下で再建中です。わずかにソニーのXperiaと富士通arrowsだけがいわゆる日本ブランドとして残るのみの現状。モノづくり大国を標榜してきた日本のメーカーが自国スマホ市場で影が薄い状況はやはりショックです。
かつてガラケー時代を思い出すと、三菱電機、東芝、NEC、パナソニック、京セラなど日本の電機メーカー各社が結構ユニークな機種を発売していました。
それにしてもスマホ世界市場の厳しさたるや凄まじいという他ありません。スマホ黎明期に名を上げた台湾HTCや携帯電話市場を席巻したフィンランドノキアといった企業さえ今や存在感がなく、その変化がiPhoneが発売された2007年、またはAndroid端末が発売された翌2008年から数えて十数年で起きてしまったわけです。
最近では巨大人口の中国市場を背景に世界市場1位を奪取したファーウェイやXiaomi、OPPOなど中国勢が目覚ましく、一方それゆえ一部ハレーションを引き起こしてもいます。
機能デザインで差がつかないからこそブランド力
あらためて生活者視点でスマホの製品群を見ると、今や、あまりにも高度に機能が突き詰められた結果、どのスマホも機能面やデザイン面で大きな差を感じなくなりました。しかも多くの場合実際にはカバーをして使うのですからなおさらです。でも逆に言えば、だからこそブランド力。ブランドに対する生活者の思い入れや愛着が機能する市場であると言えます。
アップルiPhoneの圧倒的なブランド力は言わずもがなですが、サムスンのGalaxyも世界多くの市場でアップルに次ぐブランド力と評価されています。
実際サムスンは、東京2020オリンピックではトップレイヤーのスポンサーに名を連ねていますし、過去には30秒CM1本が数億円と言われる米スーパーボウルへの広告出稿でも話題となるなど、アグレッシブなマーケティングを営々積み重ねていることで知られています。
そんな世界市場の激しさの中、日本ブランドのスマートフォンが存在感を発揮できずもはや新製品発売さえできない状況はやはり寂しいという他ありません。確かに、海外ブランドスマホにしたところで日本製の部品が多く使われているわけですが、やはり商品企画、デザイン、マーケティングという最終製品としての魅力を世に問うことこそメーカー冥利というものだと思います。しかしながら今や、製品力だけでなく世界規模でのブランディング力、マーケティング力を備えてなければ、自国市場での上市さえままならない時代ということかと思います。
ソニーにしたところで、株主の半数以上が外国籍の押しも押されもせぬグローバル企業であるわけですが、日本で創業し歴史を重ね、日本に本社を置き、今でも日本人がイニシアチブをとりながら活動している企業であるとは言えるはず。だとすれば、少しは応援したいと考えるのも人情ではないでしょうか。特に、スマホ事業については厳しい市場環境の中で収益化に苦戦していると聞けば、なんとか日本製スマホの牙城を守り抜いて欲しいと考えてしまいます。
グローバルブランドだからこそ国旗を背負う
やはり、世の中のブランドは生まれ育った国に多かれ少なかれ影響を受けていると思います。もちろん偏狭なナショナリズムなど論外で、例えばスウェーデンの自動車メーカーボルボなどは中国企業を株主に迎えてむしろのびのびとスカンジナビアの文化を昇華させる製品を生みだすなど、そこはグローバル市場経済の良きダイナミズムありきが大前提です。とは言え、発祥以来の歴史、文化、イニシアチブをとっている社員の国籍バックグラウンドなどがそのブランドのアイデンティティに影響を与えると思いますし、そしてまたその多様な価値観に基づき開発された製品だからこそ世の中を豊かにしているのだと感じます。
「なぜそのブランドを選ぶのですか」という内容の調査をすると、どんな製品でも「信頼」「信頼できるから」。必ずと言って良いほど筆頭に上がる回答です。
いつも「信頼」が指しているものはなんだろうか、と悩むのですが、やはりそのブランドがもつ歴史でありストーリーなのだろうと解釈しています。ある人の性格、見た目、プロフィール一切合切を示す言葉に「人となり」と言いますが、まさにブランドとは製品にとっての「人となり」なのではないでしょうか。そうとなれば、どこで生まれ、どういう文化で育ったのかはやはりアイデンティティを判断する大きな要素です。
確かにソニーらしさを感じるXperia最新機種
あらためて5G対応をうたうソニーXperiaの最新機種(Xperia1Ⅱ)を見てみると、Photo Proというカメラ機能があり、シャッタースピードやISO値をマニュアル設定できるなど、使いこなすことが楽しみになるようなこだわりの機能が付属しています。
そして特に私が、ソニーらしさを感じる部分にはハイレゾ音源に対応していることもあります。やはり音響メーカーから出発し音楽レーベルももつソニー、ウォークマン以来の音楽をモバイルし良い音で聴くという領域では頑張って欲しいと生活者目線でも感じます。最近ソニーは月額定額制サブスクリプション型のハイレゾストリーミングサービスmora qualitasのサービスも開始しています。8月中はキャンペーンでXperia購入者初月無料とのことですが連動していけば、現時点でアップルと比べてもアドバンテージあるユニークな組み合わせとなるはずです。
世界市場にソニーブランドを打ち立て日本の高度成長期を牽引したソニー。今再び、世界市場に通用するブランディングの底力を見せて欲しいと思います。
【ブランドウォッチング】は秋月涼佑さんが話題の商品の市場背景や開発意図について専門家の視点で解説する連載コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら