元受付嬢CEOの視線

受付も受付嬢も本当にいらなくなる? 来客データで「将来」が見えてきた

橋本真里子

 様々な取材をお受けする際、「『オフィスがいらなくなるかもしれない』などと叫ばれている中で、今後、受付って必要なくなるのでしょうか?」といった質問をいただくことがあります。そして「受付嬢の今後はどうなるのでしょうか?」と聞かれることもあります。実際、どうなのでしょうか?

 弊社の「RECEPTIONIST(レセプショニスト)」というクラウド受付サービスは、来客履歴を全てデータで残すことができます。今回はそのデータを元に、緊急事態宣言が発令される前後の受付の状況を比較し、それを踏まえて今後受付にどのような変化が訪れるかを推察していきたいと思います。

 来客数は減るものの…

 こちらはRECEPTIONISTが受付した2020年の「来客回数」のデータになります。ご契約いただいている企業約3000社がRECEPTIONISTを使用して受付した回数を合計したものです。

 来客回数は2月にピークに達していますが、日本でも新型コロナウイルスによる感染症が広がり出した3月に減少が始まり、緊急事態宣言が発令された4月から5月にはピーク時の85%となりました。政府が目指した「人との接触を8割減少させる」という目標を、企業の来客回数においては達成していると言えます。企業が協力的に動き、見事に実現していますね。では、契約企業ごとにみたRECEPTIONISTの稼働率も85%減少したかと言うとそうでもありません。

 次にこちらのデータをご覧ください。

 こちらは、2020年に、1カ月に1度でもRECEPTIONISTを使って受付をした「企業数」を月ごとにあらわしたデータになります。こちらを見ると、緊急事態宣言発令中の4~5月における減少の具合は、2月に比べて25%ほどです。

 これら2つのグラフがつまり何を意味しているかと言うと、「来客は減らせるけど、ゼロにすることはできない」ということです。接触を削減しなければいけない時期であっても、例えば、業者の対応や採用面接、対面で実施せざるを得ないアポイントなどがどの企業でも少なからず発生しているといえます。

 コロナ時代のいま、「無人受付」を検討する理由

 一つ目のグラフを見ると、緊急事態宣言解除後の来客数は復調してきていますが、コロナが広がる前ほどは戻っていません。コロナが広がる前と後で弊社にお問い合わせいただく理由にも変化が出てきました。感染拡大以降にRECEPTIONISTの導入を検討される理由、解消したいリスクや導入時の要望は次のようなものです。

▼内線電話を撤去したい

  • 不特定多数の人が機器に触り、受話器に話しかけるので感染のリスクがある
  • 取次により不必要な接触が発生する
  • 受付からの電話対応のため、誰かしらが出社する必要がある

▼来客履歴を正確かつ手間をかけず残したい

  • クラウド受付なら、社内外に感染者が出た際、「いつ、誰と誰が会っていたのか」を把握し、迅速な対応ができる
  • 検温情報なども一緒に残しておきたい

▼来客数が減少し、有人の受付を見直したい

  • 従来の来客数を想定した人事配置のままでは、来客数が減った場合に受付スタッフを雇うコストのほうが大きくなってしまう
  • 会社として感染のリスクが高い「受付スタッフ」を残すことの意義が問われる

 以前は「業務の効率化」「受付をスタイリッシュにしたい」「フリーアドレス化の実現」「取次によって発生している工数の削減」というのがクラウド受付を検討する大きなきっかけでした。しかし現在は、「感染リスクの最小化」「感染者発生時の対応環境の整備」といった企業としてのリスクマネジメント的な観点でのお問い合わせも増えています。

 どの時代も、来客数との関係性が高いのが受付嬢

 今後は、従来の受付方法だった内線電話が敬遠されるツールになり、受付に人を置くことが企業としてリスクになると考えると、IT化(デジタル化)を検討せざるを得ない状況です。

 私が受付嬢として「派遣切り」にあった時は「会社の業績が下がり、来客数も減り、受付コストを維持することが難しくなった」というのがその理由でした。当時から、来客数と非常に関係性が高いのが受付嬢です。これを踏まえて考えると、正直、コロナを機に受付嬢の将来はより厳しいものになると言えます。実際、友人が勤める企業では、久しぶりに出勤したら受付スタッフがいなくなっており、IT化されていたと聞きました。

 有人の受付を構える企業はそれなりに規模の企業が多いです。企業規模が大きければ大きいほど、コロナによる様々な影響も大きく受けることが推測できます。まだワクチンなども開発されていない今、経済が今後どうなっていくかわからない中で「かけ続けるコスト」と「削減すべきコスト」を棚卸しする企業は少なくないはずです。有人の受付を完全になくすことは避けたとしても、交代出勤や人数削減を実施している企業もあり、受付スタッフの大半は派遣社員ですので、受付嬢にとっては死活問題だといえます。

 「ハイブリッド」な受付環境を模索中

 私はもともと、遠くない将来には受付の仕事はどんどんIT化していくであろうと考えていました。そしてそれが受付嬢を辞めて起業するきっかけにもなりました。しかし受付のIT化が、AIやロボット化ではなく、まさかウイルスが理由で進むとは思ってもいませんでした。

 受付嬢という仕事を誇りに思い、素晴らしい職業であると考えているからこそ、「彼女たちも輝けるシステムを」と思い、RECEPTIONISTを世の中に送り出しました。彼女たちの仕事を全てIT化するのではなく、ITと有人の「ハイブリッド」で行える受付環境の構築にこれからますます注力していきたい気持ちでいっぱいです。

橋本真里子(はしもと・まりこ) 株式会社RECEPTIONIST 代表取締役CEO
1981年生まれ。三重県鈴鹿市出身。武蔵野女子大学(現・武蔵野大学)英語英米文学科卒業。2005年より、トランスコスモスにて受付のキャリアをスタート。その後USEN、ミクシィやGMOインターネットなど、上場企業5社の受付に従事。受付嬢として11年、のべ120万人以上の接客を担当。長年の受付業務経験を生かしながら、受付の効率化を目指し、16年にRECEPTIONIST(旧ディライテッド)を設立。17年に、クラウド型受付システム「RECEPTIONIST」をリリース。

【元受付嬢CEOの視線】は受付嬢から起業家に転身した橋本真里子さんが“受付と企業の裏側”を紹介する連載コラムです。更新は隔週木曜日。アーカイブはこちら