働き方ラボ

驚愕の「妨害営業」や値引き攻勢 これが信頼を失うダメ営業マンの言動だ

常見陽平
常見陽平

 カーっとなって一軒家を買った。後悔はしていない。本当の話である。今年の春に家族と相談し、今年は生き方を変えようという話になった。ちょうど新型コロナウイルスショックが広がりつつある頃に、15年住んだ墨田区のマンションを手放すことを決断した。緊急事態宣言もあり、物件の閲覧数が伸びない時期もあった。しかし、緊急事態宣言後、すぐに物件は売れた。あまりのスピードに驚いた。

 当初、しばらくは都心の賃貸に住むことにしていた。友人からすすめられた渋谷区のマンションなどが候補にあがっていた。彼ら夫婦がその物件を出るというので、その後に借りないかという話だった。かなり魅力的だったが、これからの時代を生きるには、最高に快適な一軒家ではないか、そして「シェアリングエコノミー」が叫ばれる中、今こそ「持つ」生活をした方がメリットは大きいのではないかという話になり、急遽一軒家を探し始め、10日で決めた。大借金をしてでも、快適な安心できる生活を手に入れたかったのだった。

 本題に入ろう。今日のテーマは「信頼を失う言動」についてだ。短期間のうちに新生活の準備のために高額な買い物が連続した。住宅や家具、家電などである。多くの営業・販売担当者にあったが、ガッカリする人も一人や二人ではなかった。世の中には、ここまで対人コミュニケーションのポイントについてトレーニングを受けていない人がいるのかと驚愕した。私が体験した、イラッとする営業・販売担当者の言動を紹介しよう。

 「営業妨害」ならぬ「妨害営業」をする人

 ロクな提案をしない一方で、検討している他の物件の悪口しか言わない不動産の営業担当者がいた。しかも、その担当者だけでなく、その企業全体(A社とする)で他社の悪口に取り組んでいるのだ。

 A社が紹介する物件Aを検討していたのだが、同エリアでより安く、日当たりも風通しもよい他の物件Bを検討していた。A社の物件の方が明らかに間取りは広いし、収納も多いし、ハードのセンスもよいのだが、日当たりや風通しは手に入れにくいので、こちらに傾いていた(結局、物件Bを購入した)。ちなみに、物件BはA社も仲介している物件である。

 物件Bに傾いているとわかってからの、A社の営業がひどかった。何かあるたびに、電話、メール、SMSで物件Bの悪口が届くのである。「あそこは建築の構造上、地震があると傾くリスクがある」「隣に家が建つと、日当たりが悪くなる可能性がある」(←それは、どこでも同じだと思うのだが)など、とにかく物件Bの悪口をあらゆる手段で伝えてくるのである。しかも、「支店長からのメッセージを預かってきました」と、支店長が書いたというメールを転送して送りつけてくる始末である。支店長決済で物件Aが安くなるかと思いきや、支店長直々に物件Bの悪口だった。

 結局、私たちは物件Bを契約したわけだが、A社からはしつこく電話がきた。当初、値引きはできないと言っていたが、今なら大胆な値引きができると言い出したが、その具体的な額を教えてくれないまま、さらには物件Aの魅力を伝えてくれないまま、ひたすら物件Bの悪口を相変わらず延々と話し続けたのだった。「もう、やめてください」とお願いし、私は電話を切ったのだった。

 これは「営業妨害」ならぬ「妨害営業」だと私は捉えている。ひたすら他社の悪口を言う。一方で、自社のメリット、バリューについては語らない。まだ、専門知識をもとに説明してくれたらいいのだが。ただでさえ、物事に不安を感じる時代である。この時代の空気に便乗してひたすら脅すのがいやらしい。不愉快を撒き散らすのは客商売としていかがなものかと思った次第だ。

 徹底的な値引き営業

 「いいもの、安く」は消費者にとっては嬉しい。新型コロナウイルスショックの中、なんとか売上を維持しよう、いや、何らかの収入を獲得しようという考え、値引きするのはわかる。衣食住のうち、前の2つに過剰にお金をかけ、今回、住にまで個人で可能なMAX額の借金をしてまでお金をかけるようになってしまった私だが、ここ数カ月、あらゆるモノの値段が安くなり、よく消費をしている。今年はファッション関連のバーゲン開始が早かったし、食品に関してはネット通販でのたたき売りなどもあり、良い物を安く仕入れることができた。しかし、それをあまりにも露骨にやられては、「大丈夫なのか」と思ってしまう。「嬉しい」を通り越して、「不安」になってしまう。値引きのありがたみもなくなってしまう。

 ここ数カ月、住宅や自動車という、人生の中でも買う機会がそれほど多くない高額商品を検討していたわけだが、値引きのトークがあまりにワンパターンで、ありがたみがゼロだった。「今、ここでご決断頂ければ、大胆な値引きが可能です!」「私が上司とかけあってきます。これ以上の値引きは難しいと思いますが、なんとかやりますので」と、劇的なトークで値引きと決断を提案される。実際、値引いてくれるのは嬉しいのだが、この有り難いはずの、ドラマチックな値引きをどの会社もやっていて、ありがたみがないのである。「またか…」と思ってしまった。

 やや余談だが、輸入車のディーラーに買い替えの相談に行ったところ、若い営業担当者がまさに劇的な値引きトークをする人だった。残価設定型ローンをすすめられたのだが、そのトークが味わい深かった。「(五輪がまだ延期になる前だったのだが)東京五輪が終わり、日本経済がガタガタになって、破綻が近づいても、残価設定型ローンなら決められた価格での買い取りが可能なのです。下取りよりもお得です」と、劇的すぎるトークだった。東京五輪が延期になり、さらに新型コロナウイルスショックによる経済的打撃もあり、彼の言っていることはある意味、正しかったのだが。

 高速レス×ペコペコ

 住宅を検討する際に、ウェブ経由で資料請求を行った。15年前にマンションを買ったとき同様、古巣リクルートグループのSUUMOを活用した。いまだに同社の手のひらで踊っている自分に、複雑な心境になったのだが。

 しかし、資料請求ボタンを押してからのレスの速さに驚いた。すぐに電話が何本もかかってくるのである。一生懸命さが伝わってきてありがたいのだが、あまりに速く、しかもペコペコされると「業績、大変なのかな…」と不安になってしまう。もちろん、新型コロナウイルスショックで大変な時期ではあるが。一生懸命すぎると焦りを感じさせてしまい、一顧客として不安になってしまうのである。

 あくまで私の周りで起きた例ではある。ただ、新型コロナウイルスショックにより業績が不安であるがゆえに、ビジネス道にもとるような、顧客を不安にさせるような言動が跋扈していないか。自分や周りの人がやっていないか、注意しよう。そして、客として不愉快な思いをしたら、ちゃんと勇気をもってダメ出しすることも大切だ。不幸な顧客を増やさないため、である。

常見陽平(つねみ・ようへい) 千葉商科大学国際教養学部准教授
働き方評論家 いしかわUIターン応援団長
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。リクルート、バンダイ、クオリティ・オブ・ライフ、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部准教授。専攻は労働社会学。働き方をテーマに執筆、講演に没頭中。主な著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

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