ブランドウォッチング

おうちご飯のレシピ×調味料 「SPICE&HERBシーズニング」の新機軸

秋月涼佑

 子供たちの学校も再開し、ビジネスも通常モードに戻りつつありますが、少なからぬ企業で依然在宅勤務が推奨されるなど「新しい生活様式」などと言われるまでもなく、仕事や生活のスタイルは以前のままといきません。

レシピカードをイメージさせるブランディング
とにかく手軽
世界のレシピを家庭で再現
バラエティの豊富さを一目でアピールする専用什器
仕上がりは本格的(S&Bホームページより)

 特に外食に対しては、まだまだ習慣も気分も戻らず、会社に行く日もとにかくそそくさと家に足が向き、結局は夕方のスーパーで、同じく仕事帰り姿のお父さんやお母さんを目にするということが前より多いようにも感じます。 

 当初想定していたよりはるかに長くなった“おうちご飯”の日々で、思わず再発見した美味しい食材やレシピは多々ありますが、中でもヘビーローテーションされるメニューは、「美味しい」はもちろんのこと結局のところ「簡単手軽」という要素が絶対条件と感じています。まして、100%在宅の時期に比べれば外出が多くなり、さらに「簡単手軽」の価値が赤丸急上昇なのです。 

 変わる日本人の対スパイス受容性

 それにしても最近スーパーで棚の充実度はどうでしょう。例えばポン酢だけで50種類以上あるような大型店などはまさに見て回ること自体がちょっとしたエンターテインメントですし、仕入れの企業努力に頭が下がります。そんな中でも特に近年バラエティの拡大が目覚ましいと感じるカテゴリーが、「スパイス、ハーブ、シーズニング」の領域です。

 食べモノに対して生活者は間違いなく保守的です。一昔前であれば、馴染みのない風味のスパイスなどまったく受け入れられず、下手をすればクレームに近い不評を買うのが関の山でした。せっかくの新機軸と新しいスパイスを使ったちょっと刺激的な料理を家庭でトライしても、反抗期の娘が一言「くさい。何よこれ」。心ない一言だけで、そのメニューはお蔵入りするのでした。かくして、台所の端には使い切らないまま賞味期限を過ぎた瓶入りスパイスやハーブの山が築かれがちだったわけです。 

 でも最近、日本人のスパイスに対する許容度や理解度が各段に高くなったと感じます。実際に、スーパーで扱われる「スパイス、ハーブ、シーズニング」の数も圧倒的に増えましたし、ショッピングモールなどで人気のバラエティショップでは国内外の珍しい商品が目玉として人気を博しています。実際に日本のスパイス・ハーブ市場は10年連続で伸長しているようです(日本食糧新聞より)

 外国での食体験の蓄積が日本人を変えた

 一昔前を知るものとして劇的としか言いようがないこの変化がなぜ起きたかと言えば、やはり日本人の外国文化体験の質的量的な積み重なりが大きいと思います。コロナ流行で一時休止ではありますが、海外赴任、安価で手軽になった外国旅行で、異国の食文化に触れると、誰しも最初は恐る恐るでも、結局はその土地土地で長年培った味の妙があることに気がつかされます。

 そんな味の醍醐味を知る人向けに、今ではあらゆる国・地域の料理店が日本にはありますし、その内容も本格的なお店が年々増えていたように思います。また、日本在住の外国人の存在もそんな日本での異国の味生態系を支えているに違いありません。

 その結果、今やファミリーレストランにも“痺辛(しびから)料理”が用意されていたり、コンビニで大ヒットするカップラーメンやスナック菓子などでもスパイス濃度が間違いなく年々跳ね上がっていたりするように感じます。

 共働き世帯にありがたい、簡単なのに味が整う機能性

 とは言え、スパイスやハーブは魅力的ながらも、強力なインパクトを秘めている分上手に使うにはやはり料理スキルが問われる両刃の剣でもあります。特に今や専業主婦世帯の倍近い共働き世帯で、平日の食卓に取り入れるともなれば精神的にもハードルが高いイメージがあります(内閣府男女共同参画局より)

 外食で経験した非日常感ある食事体験を自宅でもしてみたいけれど調理に技術と時間をあまりかけられない。そんなニーズにズバリソリューションを提供して人気なのが、エスビー「SPICE&HERBシーズニング」シリーズです。

 何より、使い切りで簡単な食材に和えるだけとか、煮立ったら加えるだけという簡単さ。そして、そんな簡単調理にも関わらずお店のプロが作った料理かというように味が整うという、共働き世帯のリアルにありがたいソリューションを提供してくれています。

 例えば「チョレギサラダ」。焼肉屋さんと言えば外食の代名詞のような存在ですが、意外とサイドメニューの豊富さにもワクワクさせられます。そんなお店で食べるものといったイメージだった「チョレギサラダ」(韓国風サラダ)も、サニーレタスに和えるだけ。あとは韓国のりをちぎり、ごま油をふりかければ出来上がり。しかも食べれば人気の秘密が分かる本格的な焼き肉屋さんのあの味です。

 商品認知に頼らないユニークなブランディング

 そして、もう一つの特徴が和洋中(姉妹ブランドの「菜館シーズニング」「FAUCHONシーズニング」含む)と、バリエーションがとにかく豊富なこと。しかもどんどん新製品が出てきます。 

 ネーミング自体は「SPICE&HERBシーズニング」と、何の主張も感じさせず、海苔を海苔と名乗って売るような淡白さです。

 あえて言えば「シーズニング」という言葉が、「スパイスとハーブに、塩や調味料をブレンドしたもの」(S&Bホームページ)とありますが、一般的にはちょっと馴染みが薄く新鮮に感じられるかもしれません。でもその分間違いなく、ブランド浸透の評価軸である「商品名認知」で調査すれば絶望的に低いことが予測されます(選択肢式の助成想起ならばともかく、商品名を隠したパッケージ写真のみから商品名を言い当ててもらう純粋想起ではほぼ壊滅するでしょう) 。長いし、馴染みも薄いし英文字も入り分かりにくくて失敗例の極みというところなのですが、この製品に限っては、実際の店頭でまったく不都合がないのです。ここがブランディング戦略面で見ても、このシリーズのとてもユニークなところなのです。

 そうなんです、このパッケージ。長方形で手に取るサイズのコンパクトなサイズと言い、お料理の仕上がりイメージと料理名のシンプルな構成と言い、まさにスーパーマーケットの店頭に置いてあるレシピカード。レシピカードに商品名はむしろ余分です。

 レシピカードをそのまま買える新鮮さ

 「今日なにを食べようかな」とスーパーをウロウロしているときにレシピカードの提案を見て、「そうだ今日はこれ作ろう」と決まる。裏を見れば、その料理に必要な食材が書いてあるのであとは調達するだけ。「調味料は?」もちろんこのレシピカード自体がそのまま調味料になるシーズニングなわけですから手軽です。

 なるほど、この製品にもはや商品名はいらないのかもしれません。レシピカードそのものという製品の体裁自体がユニークで身近な存在としてしっかり認知されているのですから、もはや文句はありません。

 そういう意味では、“名”ではなく何より“見た目で体を表す”なかなかユニークなブランディングをしている製品であることがわかるのです。しかもそのコンパクトさで神出鬼没。スーパーマーケットの食材コーナーなどあちこちに置かれやすく、タッチポイント戦略の視点からも秀逸です。

 一方で、「SPICE&HERBシーズニング」シリーズ一式で大陳する什器も徐々に目に付くようになっており、バラエティの豊富さをブランド価値として一目で訴求しています。売れるから大陳でき、大陳されるからさらに売れる好循環と言えましょう。

 どうしても保守的になりがちなスーパーマーケットを主戦場とするブランディングであっても、まだまだ新機軸が可能だと教えてくれる、まさに小粒だけどピリリとくる好事例のように思います。

秋月涼佑(あきづき・りょうすけ) ブランドプロデューサー
大手広告代理店で様々なクライアントを担当。商品開発(コンセプト、パッケージデザイン、ネーミング等の開発)に多く関わる。現在、独立してブランドプロデューサーとして活躍中。ライフスタイルからマーケティング、ビジネス、政治経済まで硬軟幅の広い執筆活動にも注力中。
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