緊急事態宣言が解除され、働き方に変化はありましたか。弊社も6月は少し出勤組が増えたように思います。企業としては緊急事態宣言が発令されている間は「原則在宅勤務」や「外出は極力自粛」というルール決めがしやすかったかもしれませんが、解除されてからのほうがどう対応していくのか悩ましいこともあります。
私もその一人です。今回のような状況は初めてのことで、経営的な観点・従業員の観点・新型コロナウイルスの感染状況を見ながら、総合的に判断するようにしています。ただ、状況は日々変化するので、経営陣からの発信も従業員の理解も柔軟性を持たせる必要があると思います。迷いながらも経営判断を下すうえで、様々な経営者のお考えを見聞きしました。その中で非常に印象的だったお話をもとに、私なりの例えでお伝えできればと思います。
「テレワークは信頼貯金の残高をすり減らす」
クラウド会計ソフトなどを提供するfreee(フリー)の社長・佐々木大輔氏は、あるビジネスニュースサイトのインタビューで「テレワーク(リモートワーク)は信頼貯金の残高を減らしていく」と語っています。「信頼貯金の残高」とは、人間関係における信頼度合いを例えたものです。社内の仲間と顔を合わせないテレワークでは、それまで顔を合わせながら一緒に働くことで築いてきた(貯めてきた)信頼関係(残高)を使わざるを得ないというのです。顔を合わせない状況で、「何かトラブルが起きたりすると、信頼貯金の残高はさらに減る」とも指摘しています。
インタビュー記事を読み、佐々木氏に共感した部分が非常に多くありました。この記事に出会ったのは、弊社でも社員全員がテレワーク対象になって1カ月以上が経過した時でした。当時の弊社はまさに、社員たちが「信頼残高」を切り崩しながらテレワークしている状態だったのです。
佐々木氏の言葉に共感するとともに、「テレワークって遠距離恋愛に似ている」とも思いました。私にとっては、テレワークにおける「信頼貯金」という概念を「遠距離恋愛」に置き換えると非常にイメージしやすくなりました。
交際歴5年のカップルと交際歴3カ月のカップル
遠距離恋愛という状況におかれた交際歴5年のカップルと交際歴3カ月のカップル。これら二組のカップルを比較した時、どちらがさらに長続きする印象を持ちますか。
大体の方は前者のカップルのほうが長続きしそうだと考えると思います。私もそう思います。この二組のカップルの大きな違いの一つは交際年月の間に培った「関係値」の高さだと思います。
関係値とは、お互いの距離感やその間にある信頼関係のようなものです。関係値が構築されているとお互いの「習慣・思考・行動」なども理解できており、束縛や干渉をする必要がありません。しかし、これらが理解できていない、つまり関係値が築けていないと「相手が見えない」「何をしている・考えているかわからない」という理由から不安が先行してしまいがちです。信頼貯金の残高とは関係値の高さともいえます。遠距離恋愛の成否は「信頼貯金の残高量が左右する」といえます。
とはいうものの、交際歴が長いカップルは努力をする必要がないかというとそうではないです。関係値が高いカップルでも「無関心」は禁物です。お互いに「興味・関心がある」ということを発信し合うことが大切です。これはビジネスにおいて一緒に仕事する仲間の間でも同じことが言えるのではないでしょうか。
オンラインで完結させるのは難しい?
ウィズコロナ時代は、何事もオンラインで対応しようとします。では、「オンライン面接→オンラインで入社手続き→オンライン研修」のような人事採用パターンを恋愛に置き換えてみるとどうなるでしょうか? 「アプリで出会う→オンラインで告白やデート」となり、大部分をテキストベースで行うことも想定されます。
その「オンラインベース」の恋愛を、出会いも交際の意思確認もデートも「対面ベース」での恋愛と比べてみましょう。どっちが交際相手に愛情・義理が湧くでしょうか。また、どちらに誠実さを感じるでしょうか。「対面」と答える方がほとんどでしょう。やはり人は直接「会う」ことでのコミュニケーションを重ねるほど、相手や会社に愛情や理解を抱きやすいのだと思います。
テレワーク中でも関係値を築く方法
弊社でも、信頼貯金の残高が多い人は急なテレワークでもさほど課題を感じることなく仕事を進められており、周りともコミュニケーションが取れている印象です。それと比べ、入社して日が浅いなどの理由でまだ人間関係が構築できていない人、いわゆる「信頼貯金の残高がない人」は“課題感”が生まれやすいように思います。信頼貯金の残高の量は個人の精神的な負担をも左右するといえるでしょう。
テレワークの状況下でも信頼残高を増やす(=関係値を構築する)一番の方法は「きちんと自分の仕事をこなす」ことですが、それと同じくらいに有効なのが「雑談」です。仕事に必要な情報だけを受け渡すコミュニケーションでは相手を知ることはできません。あえて不必要な情報を共有することで相手を知ることができ、関係値を築くこともできるのではないでしょうか。
freeeでは外出自粛にともなうテレワーク中、雑談だけのミーティングをルール化したそうです。良いことはすぐに取り入れたいということで、弊社でも、テレワーク中のコミュニケーションを意識的に増やすため、「朝礼・夕礼」を取り入れました。テレビ会議用のツールを使って、朝礼では当日の仕事内容、夕礼では進捗状況や成果を同じチームの人と共有します。自然と雑談も生まれ、相手の状況がみえてきます。すると結果的に、チーム間で仕事を依頼しやすくなったり、上司への相談がしやすくなるようです。
【元受付嬢CEOの視線】は受付嬢から起業家に転身した橋本真里子さんが“受付と企業の裏側”を紹介する連載コラムです。更新は隔週木曜日。アーカイブはこちら