10万円支給なぜ遅い? 市長がブログで回答しました
新型コロナウイルスの緊急経済対策として1人10万円を支給する特別定額給付金をめぐり、支給の遅さやオンライン申請での混乱に疑問が渦巻いている。そんな中、給付金に関する役所のプロセスや課題について大阪府四條畷(しじょうなわて)市の東修平市長(31)がインターネットに投稿し、「自治体の努力不足」などの批判は誤解だと訴えた。東市長がツイッターでも紹介すると、2千回以上リツイート(転載)され、他自治体の首長からも好意的なコメントが寄せられるなど話題を呼んだ。迅速給付の壁は何なのか。(杉侑里香)
「市役所は一体、何をしているのか」「あの市はもう給付している。なぜ早くできない?」
四條畷市の新型コロナ相談窓口。全体の7割以上を占めたのが、10万円給付に関する内容だった。
市民最大の関心事なのに、役所の考えや動きが伝わっていない。こうした思いから東氏は5月17日、ブログサービス「note」に《なぜ10万円給付に時間がかかるのか》と題した記事を投稿した。
東氏によると、自治体ごとで申請や支給の手法は異なる。たとえば郵送やオンラインでの申請だけでなく臨時窓口を設置して申請を受け付ける自治体も。この場合、申請開始や一部世帯への給付は早くなるが、職員の全体的な作業量は増えて、全世帯への給付完了は遅くなる可能性がある。また、10万円を職員が直接手渡しする自治体もあるが、人口が極めて少ない自治体以外は不可能だ。
四條畷市が採用したのは原則、郵送とオンラインだけで対応する手法。準備や業者との調整に時間がかかり、申請書の郵送や支給開始が遅くなる傾向があるが、申請世帯全体への給付を早く正確に完了することができる。東氏はこのことからこの手法を「全体最適型」と呼び、《おそらく最も多くの自治体が採用している》とする。
全国では申請の受け付けや給付開始が遅い自治体に対し、「努力不足」との批判がある。だが東氏によると、自治体ごとに手法に差があるだけでなく、最大限の工夫を凝らしても、目視による確認作業や職員による直接入力などの作業量は膨大。しかも職員の密集を防ぎながら作業を進める必要がある上、多くは住民の個人情報が絡むため、在宅で行えない。
また、オンライン申請は当初、早く給付されるとみられていたが、家族の氏名を誤ったり、必要事項を空欄のまま申請したりするミスが相次ぎ、再申請を依頼するのは「(全体の)3~4割に上る」(東氏)。それだけでなく、オンライン申請された情報もその後、職員が統一様式の申請書に変換して紙に印刷し、郵送による申請書と同じ状態にしてから処理しなければならない。こうした現状では、郵送の方が早く支給できる可能性が高いという。
四條畷市では8日までに、世帯全体の約2・6%への支給を完了した。東氏は今回の投稿について、「支給に時間がかかる理由の説明だけが目的ではない」と強調。「役所で何が課題になっているかを多くの人が知り、解決に向かうきっかけになれば」と訴えている。
マイナンバー制度改革も検討
総務省によると、特別定額給付金を盛り込んだ今年度第1次補正予算が4月30日に成立して約1カ月で全自治体の99・9%で給付が始まり、今月8日時点で北海道猿払村を除く1740自治体が開始した。猿払村は村民間の公平性を考え、16日から一気に給付を始める予定だ。ただ、自治体として給付が始まっていても、まだ給付されていないという世帯は少なくない。
マイナンバーカードの所有者を対象としたオンライン申請では、システムの不具合が生じるなどのトラブルが続出した。事務を担う自治体の窓口で混乱が広がり、すでに60近くの自治体がオンライン申請を休止。自治体職員の負担を軽減すると思われたオンライン申請が、かえって悩みの種になっている。
海外ではマイナンバーカードにあたる制度が所得や銀行口座と結び付けられ、新型コロナ対応の現金給付などに活用されており、政府・与党は預貯金口座とマイナンバーのひも付け義務化を検討している。鳥取県知事と総務相を務めた片山善博・早稲田大大学院教授は「現状のマイナンバー制度は現金給付を想定した仕組みではなく、自治体で混乱が生じるのは当たり前だ」と指摘し、預貯金口座とのひも付けについて国民的な議論を求めている。