社長を目指す方程式

「コロナ後の世界」を今からイメージ 勝ち抜く未来思考法

井上和幸

 《今回の社長を目指す法則・方程式:ジョン.B.ロビンソン「バックキャスティング」》

 新型コロナ感染対策は緊急事態宣言が5月一杯目処での延長となり、上司の皆さんにも引き続きの戦いが求められることとなっています。収束への希望、期待は抱きつつも、日本が、世界が、これからいつ「アフター・コロナ」を迎えることができるのか。あるいはこれから少なくとも数年の間、「ウィズ・コロナ」として生きていかなければならないのか。未だ不透明と言わざるを得ません。

 何れにしましても、我々の世界は一変しました。そのような状況下、トップクラスの経営者がいま行なっていることは、現状を悲観・落胆することでも慌てふためくことでもありません。「コロナ後の世界」を今からイメージし、それに向かって進むことです。その思考法をご紹介してみましょう。

 いまだからこそ描きたい、自社の存在意義と未来像

「どういう使命感を持っているのかを深く考えて事業をすれば、すごくいい時代が来る」。ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は、新型コロナウイルスの感染拡大を経た後の企業経営についてこう語っている。逆境を乗り切るために必要なのは、自らが手掛けている「お店」の存在意義を一から見つめ直すことだ。

(「日経ビジネス2020年5月4日・11日号」特集「『お店』 がつぶれる コロナ・エフェクトで悲鳴」より)

 未来から思考し行動へと落とし込む方法に「バックキャスティング」があります。この柳井さんの言動、思考パターンこそがまさに、バックキャスティングです。業種業態によりその影響の度合いは直接・間接、様々ですが、新型コロナが自社の事業環境に与えているインパクトを経営者や幹部の皆さんは当然シビアに受けて止めていらっしゃいます。何よりもまず足元の緊急策を打たねばなりません。しかしそれが、目の前のことへの対応に留まるのか、それともこの期に乗じて「ウィズ ・コロナ」「アフター・コロナ」への抜本的な策を講じるものかによって、これから数カ月以降の各社のあり様は180度異なるだろうと、私は付き合い先各社や経営者の方々と日々お話をしていて体感しています。

 「バックキャスティング」とは、望ましい未来を定義することから始まり、その後、その構想した未来を現在に結び付けるための方針や計画を逆方向にプランニングする計画方法です。1990年にウォータールー大学のジョン.B.ロビンソン教授によって概説されました。変化を生み出していこうとするとき、現状からどんな改善ができるかを考え、改善策をつみあげていく考え方を「フォアキャスティング(forecasting)」といい、対して未来の姿から逆算して現在の施策を考える発想が「バックキャスティング(backcasting)」です。

 「散歩していて気がついたら富士山の頂上にいた」はあり得ない

 一般的に私たちは、現状から課題やテーマを認識し、その上で何をやらなければならないか、何ができるかを思考し行動します。至極真っ当ですし、現実的な考え方であり行動方法です。しかしこれで成し遂げられることは、おおよそ想像の範囲内、「想定範囲内」のことでしかありません。取る手段、やる努力も、常識の範囲内に留まります。これが一般的な人の普通の行動です。

 そもそも、時に優れた経営者が狂気だと言われるのは、こうした思考や行動を取らないからです。新しい事業やサービスを産み出す人は、現実など一切構わず、「こんなサービスを提供したい!」「このような社会、世の中になるべきだ!」という妄想から出発します。先にゴール(理想的な姿や理屈抜きのパーフェクトな目標)を決めてしまい、その上で後から「ではそれを、一体どうやれば実現できるだろう?」と考え、そのためにあの手この手で動き回るのです。

 いま上司の皆さんが「ウィズ・コロナ」「アフター・コロナ」時代に生き残る、勝ち残るために取らなければならない思考・行動は、間違いなく「これまでの延長線上」のものではありません。柳井さんの言う通り、「自らが手掛けている『事業、商品・サービス』の存在意義を一から見つめ直す」こと、そこからバックキャスティングであるべき姿をまずイメージすることでしょう。

 富士山やエベレストに登るには、まず「何としても、あの山の頂上まで登ってやろう」というゴール設定が必要です。日本や世界のことわざにあるように、<散歩していて気がついたら富士山やエベレストの山頂にいたなどということは、絶対にない>のです。

 「フィードバック」と「フィードフォワード」の両利き上司に

 「フィードバック」と「フィードフォワード」という対抗概念がありますが、皆さん、聞いたことはありますでしょうか。もともとは開発手法からきている言葉ですが、人事・人材開発関連でも長らく使われてきており、業務などの結果を元に次の打ち手や改善を考える=PDCAサイクルを回すのが「フィードバック」。対して、未来について何をやりたいかをまず考え、それについてどうすれば到達できるだろうかというアイデアを出し合うのが「フィードフォワード」です。

 上司の皆さんは、これまでの業務経験やマネジメントご経験から、PDCAを回す「フィードバック」思考・行動はお得意、お手の物です。今後もこれは必須マネジメントスキルです。プラス、「ウィズ・コロナ」「アフター・コロナ」時代を生きていくために、未来をまず描き、そこからどうやってそこに到達するかのアイデアを出し合い動く「フィードフォワード」思考・行動を身につければ鬼に金棒です。最近、既存事業と新規事業のそれぞれを併走させる「両利きの経営」が注目されていますが、上司の皆さんにはぜひ、「フィードバック」と「フィードフォワード」の両アプローチを使える「両利き上司」になって頂ければと思います。

 コロナ後の世界をリードする読者上司の皆さんには、このような時だからこそ「バックキャスティング」で未来を描き、部下たちと「フィードフォワード」でこれからの取り組みについてブレスト、ディスカッションする機会・時間を投資して頂きたいと思います。それは必ずや、これからの「今までとは違う未来」を切り開き進むためのパワーとなって、皆さんのマネジメント力として大きく返ってくることでしょう。

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井上和幸(いのうえ・かずゆき) 株式会社経営者JP代表取締役社長・CEO
1966年群馬県生まれ。早稲田大学卒業後、株式会社リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職後、株式会社リクルート・エックス(現・リクルートエグゼクティブエージェント)のマネージングディレクターを経て、2010年に株式会社 経営者JPを設立。企業の経営人材採用支援・転職支援、経営組織コンサルティング、経営人材育成プログラムを提供。著書に『ずるいマネジメント 頑張らなくても、すごい成果がついてくる!』(SBクリエイティブ)、『社長になる人の条件』(日本実業出版社)、『ビジネスモデル×仕事術』(共著、日本実業出版社)、『5年後も会社から求められる人、捨てられる人』(遊タイム出版)、『「社長のヘッドハンター」が教える成功法則』(サンマーク出版)など。
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【社長を目指す方程式】は井上和幸さんがトップへとキャリアアップしていくために必要な仕事術を伝授する連載コラムです。更新は原則隔週月曜日。アーカイブはこちら