働き方ラボ

同僚の行動を監視するチクリ魔たち 「社内自警団」にはこう対応せよ

常見陽平

 新型コロナウイルスショックの中で、「ネット自警団」の存在が話題となっている。「不謹慎」な行動をしている人を探し出して、攻撃する人たちである。休業するべき業種なのに営業している店舗、「3密」が発生している状態、こんな時期にレジャーをしている人などを探し出して非難する人たちだ。その矛先は、著名人だけではなく、一般の企業や人にも向けられる。

 もちろん、感染拡大は避けなくてはならない。「ネット自警団」にも「義憤」のようなものがあるだろう。ただ、時にそれは暴走し「不謹慎狩り」になる。

 仕事の予定やプライベートを監視

 もっとも、会社員は「ネット自警団」よりも「社内自警団」の方を恐れているのではないか。そう、新型コロナウイルスショックに関係なく、社内には「自警団」「チクリ魔」がいるのである。しかも、年齢や役職、さらには雇用形態も問わず、である。よく「闇将軍」「タバコ部屋の帝王」「給湯室の女王」の異名をとる人がいる。役員や管理職は担当分野の変更などもあるし、ときに失脚する。ただ、むしろ社内で影響するのは「社内文春砲」を炸裂させる自警団たちである。自警団こそが、陰の実力者なのだ。彼ら彼女たちに刺され、社内で失脚したりする。会社員人生においては、「IQより愛嬌」「評価より評判」などの格言があるが、いくら賢くても、仕事ができても、成果を出していても、足元を救われてしまうのだ。

 15年間会社員をやったのだが「社内自警団」活動をしている人たちを目の当たりにしたし、ときには実害を受けたこともある。ブログをチェックされ、「こいつサボってます」とチクられたのだ。業務時間外の飲み会に関してなのだが。

 彼ら彼女たちの情報収集網は半端ない。各部署の仲間からの情報収集だけでは決してない。社内イントラネットのスケジュール確認を怠らず、公私ともに誰と会っているかをチェックする。さらにはSNSなどの各種アカウントもチェック。SNSで「いいね」をくれている会社の同僚にも注意した方がいい。 その「いいね」は情報収集、いや監視を兼ねているかもしれないからだ。出身校や、所属部署が同じだった人からのさりげない情報収集も欠かさない。飲みの席などでの発言ももちろんチェックする。中にはファイルでこの手の社内ネタをストックしている人もいた。

 「別に私は平社員だし、足を引っ張られるはずはないのだけど…」。そう思う人もいるだろう。しかし、この手の人は年次や役職関係なく、監視することによって影響力を持とうとするのである。

 この「社内自警団」は、この新型コロナウイルスにおいて活動を活発化する。彼らにも大義名分があるし、実際、役に立つ部分はある。この国難の状況において、企業の評判が地に落ちるようなリスクを回避できるからだ。実際、社内のちょっとした不祥事が大炎上する時代だから、リスク管理をしているとも言える。この手の人が役立つこともある。「絶対にこの人とこの人を同席させてはいけない」などの情報をストックしているからだ。地雷回避にはつながる。

 もっとも、やりすぎ感はある。しかも実害は大きい。ネットで炎上するのはもちろん問題だが、炎上せず、しかも不謹慎かどうかもよくわからないものを、社内でチクられまくったり、言いふらされるのは迷惑きわまりないからだ。いや、炎上するかどうかわからない行為よりも、確実に実害を被るのである。

 行動を説明できることが大事

 さて、どうすればいいだろう。まずは、すきを見せないことである。何かのすきにつけこまれる。特にSNSの投稿や、いまは自粛モードではあるが、社内外の会合での発言には気をつけよう。今、流行のオンライン飲み会も、社内自警団が跋扈する場であることを認識しておきたい。普段の宴会同様、見られていることを意識しよう。

 さらには自分の行動を説明できることが大事だ。仮に「不要不急の外出は自粛」ということになっている中で、外で人とばったり会うとバツが悪くなってしまう。ただ、なぜそうしているかを説明できるようにしておこう。

 やや不謹慎狩りがエスカレートした場合や、過度に不愉快な想いをした場合は、上司に相談しよう。過度なSNS上での監視などは、ソーシャルハラスメントだと捉えられる可能性もある。嫌な想いをしたら、その事実を記録しておこう。

 非常識ではなく異常識

 やや上級編だが、「なぜ、この人は社内自警団になってしまったのか」と立ち止まって考えるのも手である。これは、この件に限らず、社会や会社において、苦手な人と接するためのコツだ。そうすると、少しだけ同情したり、どう接すればいいかのヒントも見えてくる。

 また、たとえ自分で納得がいかなかった部分もあるにせよ、今は誰が何を不謹慎だと捉えるのかを調べておくことは武器になる。「不謹慎狩り」とくくるのも、少し違う。現代社会は様々な常識が共存している社会だ。非常識ではなく、異常識なのである。「そうか、こう考える人がいるんだ」という認識は大切だ。

 自分の考え方に深みをもたせるためにも、社内自警団と向き合い、彼らの側の論理も理解しておこう。まあ、迷惑だなあ、暇だなあと思うのだけれども。

常見陽平(つねみ・ようへい) 千葉商科大学国際教養学部専任講師
働き方評論家 いしかわUIターン応援団長
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。リクルート、バンダイ、クオリティ・オブ・ライフ、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。専攻は労働社会学。働き方をテーマに執筆、講演に没頭中。主な著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

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