元受付嬢CEOの視線

テレワーク慣れした企業も見落とした「穴」 コロナ疲れしないマネジメントを

橋本真里子

 従業員の53%が日頃からテレワークも…

 一部の都道府県に緊急事態宣言が発令され、それまではオフィスでの通常業務を貫いてきた企業も、テレワーク(リモートワーク)を取り入れるなど働き方の変化を強いられていると思います。「強制」ではなく「要請」ですので、オフィスワークを貫いても法律で罰せられることはありませんが、感染者やクラスターが発生した場合には社会的に注目を集めてしまう可能性もあると言えるでしょう。

 弊社もこの数週間は、日常的にテレワークをおこなう職種の範囲をエンジニアやクリエイティブ担当以外の従業員にも広げ、出社を必要最低限に抑える努力をしています。移転したばかりの新しいオフィスには、オフィス近隣に住むCEOの私とCOOの2人だけ…というシーンも多くありました。全社的に実施して1週間が経過した頃にはもうすでに「寂しい! みんなの顔を見ながら仕事がしたい!」と思うようになっていました(笑)

 しかし、もっと切実に感じたことは「マネジメントの仕方を変えなければ」ということです。運営や人事にとどまらず、あらゆる面におけるマネジメント(管理)です。

 弊社ではもともと、従業員の約半数(53%)が、日常的にテレワークで働いています。半数とは、エンジニアやクリエイティブ職の従業員です。彼らには採用の段階から、日常的なテレワーク(在宅勤務)を選択肢のひとつとして提示しています。しかし、それ以外の職種は出社ベースでの仕事を前提に採用しています。これまで「テレワークで働いた時にどうか」というフィルターをかけて考えたことはあまりありませんでした。

 今回の新型コロナウイルスの影響で、「日常的なテレワークが全社に及んだときには意識改革が必要だ」と強く感じました。非常時に従来のマネジメントをしていては、経営に支障をきたす可能性があります。働き方が変われば、マネジメントも変えなければならない。当然かもしれませんが、意外と見落としがちなポイントのようにも思います。そこで私たちは、企業も従業員も“テレワーク疲れ”や“コロナ疲れ”を起こさないためのマネジメントとして3つのことを意識し、そして強化しました。

 どんな職種にも「納期」や「納品物」をつくる

 エンジニアやクリエイターがテレワークに向く理由は、納品物や納期があるからです。極論を言えば、それだけで進捗管理や人事評価が可能です。納品物の完成度やクオリティが高ければ、納期までに納品できれば、それでいいわけです。彼らもそれを意識しながら仕事をしているので、テレワーク中も自己管理をしやすいと思います。このコロナ禍においてもストレスを感じることなく「通常運転」しているといえます。

 一方、対面・移動がメインの営業職などは今、「非常時運転」しているといえます。通常時と同じ働き方をすることが不可能に近いです。こういった職種においては大幅な「働き方の工夫」が必要です。普段は勤務時間の「8時間」に移動も含まれますが、今は顧客先への移動がありません。弊社では、普段アポイントや移動などに割かれていた時間に、したくてもできなかった仕事に取り掛かるようアドバイスしています。

 その仕事には納期(期日)を設定し、納品物(成果物)としてアウトプットしてもらいます。例えば、オンライン商談で使う資料をつくることも普段はできない仕事のひとつです。コミュニケーション手段が違うので対面商談の時に使う資料とは異なります。仕事を一人で進めるのが不安な場合は、普段より多めに同僚に声をかけること、オンラインMTG(ミーティング)を設定することも促しています。

 「今日初めて人と喋った」を減らす

 テレワークを実施するようになって、普段オフィスで自分が認識しているよりも多く同僚に声をかけていることに気付きませんか? 自分がおしゃべりだなんて思っていなかったけど、意外と人と話すことが好きなんだと、テレワーク中に感じている人は少なくないと思います。

 弊社では例えば、全社テレワークへ切り替え後、昼過ぎのオンラインMTGで「今日初めて人と喋りました」という声を聞くこともありました。テレワークでは、限られた空間にいるため運動量も減り、そこに一人でいたりすれば気も滅入ります。仕事に集中したいけど、休校で子どもが自宅にいて、騒がしくてイライラすることもあるでしょう。非常時には精神面のマネジメントも重要です。

 そこで弊社は、普段はやっていなかったテレワーク中の「朝礼・夕礼」を取り入れました。意識的に社内コミュニケーションの「量」を増やす取り組みです。

 テレビ会議用のツールを使って、朝礼では「今日自分がどんな仕事をしようと思っているか」、夕礼では「それがどれくらい進捗したか」「どんな結果になったか」を同じチームの人に話し、聞いてもらいます。それだけで孤独感やストレスを軽減させることができますし、頭を切り替えるきっかけにもなります。

 そして量と同時に意識したいのが「質」です。「丁寧さ」です。非常時というのは精神的に不安定でついつい感情的になってしまい、言葉遣いがいつもより乱暴になってしまう場合があります。そういう時だからこそ、言葉というボールを投げるのではなく、そっと渡しに行くようなコミュニケーションを心がけると無駄な摩擦が生まれるのを避けることができると思います。

 裁量を与える

 テレワークだと部下が実際にどんな行動をとっているかは見えなくなります。人事や勤怠のマネジメントする側は不安になると思います。しかしそれはマネジメントされる部下も同じです。不安だからこそ管理しがちになりますが、それは逆効果です。

 弊社ではテレワーク中も、いつも通り裁量は各自に持たせています。それは業務に限りません。新型コロナ対策として国や自治体から出されている要請事項はもちろん企業として実践し、従業員に通達もしています。その上で、従業員の行動制限はしていません。いつもより“ミクロ”に、マネジメントはしますが、行動の主軸は従業員に持たせることが大切です。任せているからこそ、責任感が生まれると思っています。「自宅勤務=自宅待機」ではないということは伝えますが、その先で自分が取るべき行動までは監視・管理していません。

 普段は味わえないテレワークの苦労

 新型ウイルスの影響で、これまで通りの形で事業継続ができないという今の局面は、瞬間的に捉えればピンチかもしれません。しかし、今しかできないこと、こういう局面にさらされて初めて気付けることもたくさんあると思うのです。例えば、もともとテレワーク勤務をしている人のことを羨ましく思う人もいると思います。しかしテレワークを実際にやってみると、その苦労や実践するための努力を感じることができるはずです。

 厳しい状況を潜り抜けた時に秀でる企業や人は、苦しい時にどう過ごしているかにかかっているのかもしれません。常に前を向いて仕事をしてくれる従業員に私は勇気をもらいながら、経営者としてやるべきことに集中する日々です。

橋本真里子(はしもと・まりこ) 株式会社RECEPTIONIST 代表取締役CEO
1981年生まれ。三重県鈴鹿市出身。武蔵野女子大学(現・武蔵野大学)英語英米文学科卒業。2005年より、トランスコスモスにて受付のキャリアをスタート。その後USEN、ミクシィやGMOインターネットなど、上場企業5社の受付に従事。受付嬢として11年、のべ120万人以上の接客を担当。長年の受付業務経験を生かしながら、受付の効率化を目指し、16年にRECEPTIONIST(旧ディライテッド)を設立。17年に、クラウド型受付システム「RECEPTIONIST」をリリース。

【元受付嬢CEOの視線】は受付嬢から起業家に転身した橋本真里子さんが“受付と企業の裏側”を紹介する連載コラムです。更新は隔週木曜日。アーカイブはこちら