【ローカリゼーションマップ】洗練されたリーダーシップは「聴く力」に支えられる 日本文化が生かされる時
先週の数日間、監修をした『突破するデザイン』の著者、ロベルト・ベルガンティと東京で行動を共にした。ミーティングやワークショップを行ったが、その際に印象に残ったことがある。
言葉、考え方、アプローチなどについて、「これは洗練されているかどうか?」を以前よりも問うようになった。もともと「洗練」という表現を多用する人だが、吟味の度合いが増したと感じたのである。
ベルガンティの強調したいポイントが「移動」したからではないか?とぼくは読んだ。その「移動先」とは何か? 彼が繰り返す以下の言葉に、それは示唆されている。
「誰のどのような言葉にも、それを発する理由がある。その理由を探ることが第一である」
どの言葉が正しいか誤りかと判断するのではなく、一歩身を引いて全体像を如何に把握するか、ということでもある。彼が何も急に言い出したことではないが、ベルガンティはデザインやアートをイノベーション・リーダーシップ教育に適用する試みを昨秋から少数精鋭エリート大学であるストックホルム経済大学で行っており、リーダーシップのあり方として、この部分がより重要になってきたのである。
「そんなの、前からそうでしょう?」という声がどこかから聞こえてきそうだ。
1990年代以降でもイノベーションの対象がプロセス、チーム、コミュニティと移ってきて、現在、「人」に焦点があたり始めている。それに伴いリーダーシップに必要な要素も変わってきており、「聴く力」がより求められている。
こういう背景からの「強調点の移動」である。
ベルガンティの話も踏まえながら、ぼくなりにこの先のロジックを整理しておきたい。なぜ聴く力が新しいカタチのリーダーシップに繋がるのだろう、と。
例えば、他人のある発言に対して、その発言の背景が理解できるフィードバックを試みる。「何故、そういう発言をするの?」と雑な質問をするのではなく、「君の今の言葉は、こういう風に考えたらどうだろう?」と、いわば誘い水を向けることで、相手から「いや、実は、こういうつもりで発言した」という答えを引き出していく。このコミュニケーションに洗練さが求められる。
このように他人の発言の動機が分かることで、その先の背景の深堀が可能になる。それによってお互いが接近し合える。
考え方の食い違いによって衝突が生じるのではなく、考え方の違いによってお互いの関係がより親密なものになるのである。
そして、この親密な関係があってこそ、自分の新たな考えや方向づけに対して確信をもてるようになる。人はリスクの高い不安な状況では新たな決断をしづらい。どうしても自らを守ることを優先する。結果として孤独なリーダーは、どうしても自分の主張を声高に叫ぶことに陥りやすい。
こうした事態を避けるには、自分の「揺れ」や「ブレ」を寛容に受け取りながらも適切な批判をしてくれ、前進するように背中を押してくれる人が傍らに欲しい。このような存在の人を得るにも、最初に「聴く耳ありき」なのだ。
いわゆる「人の上に立つ人は他人の言葉によく耳を傾ける」というセリフがもつ意味とは異なる。
現在言われるリーダーシップとは、誰でもその状況になれば発揮することが期待される素養である。組織の一定の地位にある人に任せておくものでは、すでにない。
一言でいえば、前述したように、進むべき方向を決めることができる人である。その方向が結果として良いか悪いか、これは決める段階で誰にも分からない。だから一度決めた方向がまずいと分かったら、その時点で方向転換を図るべきと確信を持てる人でもある。
さてローカリゼーションマップとしての結論だ。
確信をもつことに関し、ぼくの経験上で言うならば、欧州の人は確信を持ちすぎることが多く、日本では確信をもつのに身構える人が多いと思うのだが、問題はこの文化的傾向の使い方にあると考えている。
何かをできないことの弁解のために文化的特徴を使うのではなく、何かをやりやすくするために文化的特徴を使うのである。
日本の人の例で言うならば、自己主張はやや弱いが、他人の意見に耳を傾けるのを厭わないとの傾向がある。そう、新しいリーダーシップ像に近い要素がある。
【プロフィール】安西洋之(あんざい・ひろゆき)
De-Tales ltdデイレクター
ミラノと東京を拠点にビジネスプランナーとして活動。異文化理解とデザインを連携させたローカリゼーションマップ主宰。特に、2017年より「意味のイノベーション」のエヴァンゲリスト的活動を行い、ローカリゼーションと「意味のイノベーション」の結合を図っている。書籍に『イタリアで福島は』『世界の中小・ベンチャー企業は何を考えているのか?』『ヨーロッパの目 日本の目 文化のリアリティを読み解く』。共著に『デザインの次に来るもの』『「マルちゃん」はなぜメキシコの国民食になったのか?世界で売れる商品の異文化対応力』。監修にロベルト・ベルガンティ『突破するデザイン』。
Twitter:@anzaih
note:https://note.mu/anzaih
Instagram:@anzaih
ローカリゼーションマップとは?
異文化市場を短期間で理解すると共に、コンテクストの構築にも貢献するアプローチ。
【ローカリゼーションマップ】はイタリア在住歴の長い安西洋之さんが提唱するローカリゼーションマップについて考察する連載コラムです。更新は原則金曜日(第2週は更新なし)。アーカイブはこちら。安西さんはSankeiBizで別のコラム【ミラノの創作系男子たち】も連載中です。
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