【元受付嬢CEOの視線】受付嬢の少し悲しいランチ事情 OLの中でもっとも地味なお昼休み

 

 受付嬢を引退してからもうすぐ5年が経とうとしています。受付嬢人生が長かったため、今でも当時をよく思い出しますし、身について離れない習慣もあります。この季節によく思い出すことはこんなことです。

 つらい思い出編

・風邪をひいても病院に行けなかった

 受付嬢はシフトに穴を開けられません。受付に「いること」が仕事の一つでもあるため、ちょっと仕事を調整し、会社を抜け出して病院に行くことも難しかったのです。

・マスクをすることが許されなかった

 「受付は会社の顔」。会社のブランディングの一つでもあるので、インフルエンザが流行ろうが、花粉症がひどかろうが、イメージを損ねる可能性がある行為は基本的には禁止でした。

・ランチは基本的に社内で食べる

 シフトの都合上、「1時間」とることが難しいため、必然的に地味なランチに…。

 身についた習慣編

・時間をきっちり守る

 受付嬢はシフト管理がきっちりされており、オンタイムで動かないと業務に支障をきたします。業務として会議室の管理もしていましたし、使用時間を守らないと次の使用者も困るというシーンを目の当たりにしていたという背景もあります。今では、往訪先でも「アポを取った時間内に済ませよう」などと気になってしまうほどです。

・常に100%の自分を演出する

 受付嬢時代は毎日、「受付は舞台。受付嬢は女優」という意識で仕事をしていたため、ヘアメイクは常にバッチリ決めて仕事に臨んでいました。それは経営者になった今でも意識していることです。

 このようなことが受付嬢時代は毎日当たり前に求められていました。受付嬢に限らず、接客業・サービス業にシフト制で従事している人の中には同じ経験や苦労をされている方々も多いでしょう。

 当時とデスクワークも増えた今を比較すると、今はマスクを装着してできる仕事もあり、病院に行きたい時は仕事を調整して行くことができます。受付嬢時代のように、分単位で時間通りに動かなくてはいけないシーンは減ったと感じます。辛い思いをしたからこそ、今、選択肢を持てることを幸せに感じます。

 そんな経験の中から今回は、皆さんも気になるであろう「受付嬢のランチ事情」について触れてみたいと思います。

 おそらくOLの中で一番地味なランチ

 受付嬢は1時間の休憩をとることが難しい以外にも、ランチタイムを充実させづらい理由があります。それはずばり、「制服を着用している」からです。

 制服姿はレストランや社員食堂に行くと意外と目立ちます。私も経験したことがありますが、まれに外でランチをすると、「受付の橋本さんがこの前、△△で○○を食べていたよ」と言われたりするのです。正直びっくりしました(笑)

 私がどこで何を食べようが気にもならないだろうと思っていたのに、そんなことが話題に上がるなんて。受付嬢って何かと話題に上がりやすい職業なんだなとも思いました。そしてもう一つ、制服でランチに行くことの難点は、調理油など食べ物の「匂いがつく」ことです。匂いの観点から、受付嬢の選考基準に「喫煙者は採用しない」と明確に入れている会社もあるほどです。会議中にお茶出しのために入室し、受付嬢の制服からタバコの匂いがしたらいい印象は持たないですよね。

 こういった理由で、多くの受付嬢たちは、通勤前にコンビニでお昼ご飯を調達してくるか、お弁当を持ってくるなどして、あまり人目に触れずランチをとっています。

 受付嬢特有かも? ランチタイムの時間配分

 ライチタイムの時間の使い方も受付嬢特有のものがあると思います。ご飯を食べる時間を節約し、「お昼寝」時間を確保しています。私が複数社の受付に従事してきて、受付嬢が「お昼寝」していない会社はありませんでした(笑)

 これは受付嬢が怠惰というわけでは決してありません。受付嬢というのは常に人の目に晒されており、思っている以上に疲労感を感じる職業です。先ほども触れましたが、1日8時間、「舞台の上で女優」を演じるわけなので、あくびもできません。ランチタイムくらいはリラックスしたいわけです。休憩スペースにはブランケットやクッションがあり、みんなそれに癒されていました。

 「女優」なわけですから、受付(舞台)に戻るときはヘアメイクもバッチリに直して戻ります。この時間も必要ですから、外に行っている場合ではありません(笑)

受付嬢という仕事には、1時間の休憩をとることが難しい以外にも、ランチタイムを充実させづらい理由がある(Getty Images)

 ランチだけは〇〇されない

 勤務中でも、オン(受付業務中)とオフ(休憩中)の差が大きい受付嬢にとってランチタイムは貴重な息抜きの時間。だからなのかな…とも思うのですが、受付嬢には「ランチマウンティング」がありません!(笑)私は、「受付嬢って、ランチもキラキラしたものを食べて自慢していそう」とか、「お互いがどういうところで何を食べているか気にしていそう」と言われたことがあります。「オン」のあいだはたしかにマウンティングがありました。しかし受付嬢においては、ランチだけは!? マウンティングが全くないのです。

 むしろ、「近くのあそこのお弁当屋さんが安くて美味しい」とか「〇〇のコンビニの新作がめっちゃ美味しい」とか、「今度これ買ってきて欲しい人がいたらついでに買ってきますよ!」なんていう楽し気な会話がよく聞かれました。こういうコミュニケーションがある時は、チームの雰囲気がいいと感じる判断基準にもなりました。

 最大の目的はリフレッシュ

 このように受付嬢にとってランチタイムというのは、「ランチを楽しむ時間」ではなく、時間を効率よく使い、自らのリフレッシュに使われるわけです。そんなこんなで、私は今でもあまりランチを楽しむ習慣がありません。仕事しながら、コンビニのサンドウィッチを摘んだり、場合によっては食べないことも少なくありません。習慣というより、「仕事に夢中」というのが大きな理由かもしれませんが…(笑)

【プロフィール】橋本真里子(はしもと・まりこ)

ディライテッド株式会社代表取締役CEO

1981年生まれ。三重県鈴鹿市出身。武蔵野女子大学(現・武蔵野大学)英語英米文学科卒業。2005年より、トランスコスモスにて受付のキャリアをスタート。その後USEN、ミクシィやGMOインターネットなど、上場企業5社の受付に従事。受付嬢として11年、のべ120万人以上の接客を担当。長年の受付業務経験を生かしながら、受付の効率化を目指し、16年にディライテッドを設立。17年に、クラウド型受付システム「RECEPTIONIST」をリリース。

【元受付嬢CEOの視線】は受付嬢から起業家に転身した橋本真里子さんが“受付と企業の裏側”を紹介する連載コラムです。更新は隔週木曜日。アーカイブはこちら