ビジネストラブル撃退道

「働き方改革」でまさかの疲弊? 「2人チーム制」で業務の繁閑を管理せよ

中川淳一郎

 「働き方改革」が昨今のビジネスマンにおいては一つのキーワードとなっているが、最近この言葉に気圧されて「仕事をお願いしてはいけない」といった状況になっている、とある管理職男性からボヤかれた。その結果、部下に頼みたかった仕事を自分がやることになり、結局自分にとっては働き方改革になっていない、という悪循環に陥っているという。

 「残業」が問題ではない

 この言葉も最近は安易に使われ過ぎた結果、「労働時間を短くする」という妙な重圧を各組織が持ってしまった感がある。それでいて仕事は終わらせなくてはいけないため、「パワハラを受けない存在」である上司が引き取らざるを得なくなってくる。

 問題は「総労働時間」であり、「残業」が問題ではない、といった考え方が必要なのではないだろうか。我々のようなフリーランスは、18時間働く日もあれば、2時間しか働かない日もある。とにかくその時にやらなくてはいけない仕事をやるだけなのだが、この極端な2日の平均労働時間は10時間となり、そこまで多いわけではなくなる。

 長時間労働は苦痛ではあるものの、別の日に短時間労働で許されるのであればバランスは取れている。会社であってもこのような働き方になればいいのだ。プレゼンを前に23時まで仕事をしていた部下が翌日13時のプレゼンが終わった14時、特にやることがないのであれば、そのまま会社には戻らず飲みに行くもよし、家で昼寝するも良し、だ。そんな形の業務時間の管理を上司はしておけばいい。

 仕事というものはとある時は猛烈な処理量があるも、それが終わってしまえば「凪(なぎ)」の状態になったりもする。その時間はもう職場から消えてしまうというのが許されれば、実に快適な仕事スタイルが可能になる。

 私自身、現在複数の会社に通勤する働き方をしているが、明らかに仕事が終わっているはずなのに会社で手持無沙汰にして、ネットを見たりタバコを吸いにいって15分戻ってこないような人を見かける。

 彼らが毎日そうだというわけではなく、時々そんな日があるわけで、その日は「今日はもう特にやることないんで帰ります!」と宣言してしまえばいい。そして、こうした働き方にした1カ月の総労働時間を後で計算してみると案外「定時までの労働時間」×「平日の日数」といったところで収まっていることになるかもしれない。

 「働き方改革」という言葉はあまり好きではないものの、このような提案をしたとしても「サラリーマンたるもの、定時は厳守すべし! いつ、なんどきお客様から突然の依頼があるか分からないではないか!」みたいなことを言われる時代ではない。それは冒頭で挙げたように上司が部下に気を遣う傾向が出てきたからである。

 だからこそ、「今日早く帰るのは来たる怒涛の木曜日に備えてのもの」のような考えで暇な月曜日があったら帰るようにする。キチンと成果をあげていればこのような考え方は許されてもいい。

 忙しくてヤバい時は言ってくれ

 こういった働き方をする場合、もっとも効果が発揮されるのが「2人で1チーム」という働き方だ。これは私と弊社のY嬢の状況であるが、互いに労働の負荷状況を把握しあっておき、毎度の成果が見えていれば適切な時間の労働が達成される。

 互いに決めていることは「忙しくてヤバい時は言ってくれ」ということだ。また、暇なときは「オレ、今暇だけどなんかやることある?」と言ったりすることもある。10人の部下がいるような管理職にしても、2人×5チームを作っておけばその2人が時間を融通し合ってどちらかが過剰に忙しいという状態は回避できるようになる。

 この時は同程度の仕事の処理速度を持つ2人ずつを組ませるといい。2人チームの場合、どちらかが不公平感を持ったら崩壊してしまうのだ。2人ずつのチーム制にすることにより、互いが相手の時間のマネジメントをするようになり、冒頭の「働き方改革により疲弊する上司」の労働時間も恐らく短くなるだろう。

 不思議なもので3人にすると途端に風紀が乱れるというか、弛緩してしまう。一人が猛烈に忙しい状態の中、自分が暇な場合、もう一人暇なメンバーがいたらなんとなく安心して、その忙しい人を手伝おうとしなくなるのだ。この安心する気持ちに加え、「この仕事は〇〇さんの方が向いているからな」と互いに配慮し合い、結局手助けをしなくなったりする。メンバーがもう一人しかいない場合は、このような牽制はなくなり、手を差し伸べるようになる。

 現在私の会社は設立から11年目を迎えたが、一切従業員を増やしてこなかった。それはこの「2人チーム」を守り続けたからだ。多分この考え方はどんなに大きな組織であろうとも適用可能ではないかと思っている。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう) ネットニュース編集者
PRプランナー
1973年東京都生まれ。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『謝罪大国ニッポン』『バカざんまい』など多数。

【ビジネストラブル撃退道】は中川淳一郎さんが、職場の人間関係や取引先、出張時などあらゆるビジネスシーンで想定される様々なトラブルの正しい解決法を、ときにユーモアを交えながら伝授するコラムです。更新は原則第4水曜日。アーカイブはこちら