ネットで叩かれている「Slackマナー」は本当にアホらしいのか? 良しあしを真剣に考えてみた
「メッセージを送る際は宛名と所属を書かねばならない」「『お疲れさまです』などのあいさつは必須」「偉い人に@でメンションしてはいけない」--。ビジネスチャットツール「Slack」にこんなマナーが生まれていると、Twitterなどで話題になっている。
Slackマナーにはこの他、「重要なことは別途メールで送るべき」「画面の下部に『入力中……』を出さないよう、メモ帳などで推敲(すいこう)してから文章を貼り付けるべき」などが存在するという。
これらのマナーは、あるTwitterユーザーが「同僚の営業マンが、業務改善セミナーで聞いてきた話」としてツイートし、「アホらしい」「Slackの有用性を壊している」などと物議を醸している。
このツイートが真実か否かは不明だが、自身も業務でSlackを使っている筆者は、マナーの是非について考えてみた結果、「アホらしい面も確かにあるが、一理ある」という結論に至った。この記事では、その理由を説明していこう。
メールへの回帰に意味はない
アホらしいとハッキリ思えたのは、「重要なことは別途メールで送るべき」「宛名と所属は必須」などと、メールの悪しき風習に回帰したようなマナーだ。
筆者は、Slack提供元の米Slack Technologiesを取材する中で、幹部らによる「メールを活用したやりとりをSlackで効率化したい」「オープンな議論によってコミュニケーションを活性化したい」といった発言を何度も耳にしている。
Slackが昨秋に開催したカンファレンスに、ユーザー企業の代表として登壇したメルカリの長谷川秀樹CIO(最高情報責任者)も、「約5年前から社内メールを使わず、全社の連絡手段をSlackを一本化している」「複数のプロジェクトをSlack上で進行している」などと活用法を説明した上で、「コミュニケーションの速さに驚いた」と効果を語っていた。
Slackはそもそも、メールベースのやりとりから脱却し、意思疎通を効率化するために作られたツールだ。セミナー講師が考え出したという「重要なことは別途メールで送るべき」「宛名と所属は必須」といったマナーは、提供元の目的や理念に反しているので、従う必要は一切ないのではないか。
Slack運営元が勧める“公式マナー”が存在
「偉い人に@でメンションしてはいけない」というマナーもアホらしい。重要な連絡を見落とさないように、せっかく運営側が用意した機能をあえて使わないのは、宝の持ち腐れでしかない。
もし上司が「通知がうっとうしいから、Slackでメンションするな!」と部下に怒るようなタイプだとしたら、筆者は「ちょっと器が小さいんじゃないの?」「ITリテラシー低くないですか?」とツッコミを入れたくなる。
ただ上司に限らず、あまりにメンションを乱発すると、受け手の集中力をそいでしまう可能性は否定できない。この点について、Slack提供元が公式に推奨しているマナーがあることをご存じだろうか。
Slack Japanが2018年12月18日に公開した公式ブログには、「本当に必要なとき以外は、大勢に通知を送らないようにするのは大切なマナーだ」との記載がある。
Slackには、参加者全員にメンションできる「@everyone」、チャンネル参加者全員にメンションできる「@channel」、オンラインになっている人に通知を送れる「@here」といったアラート機能があるが、これらを多用し、メッセージを必要としない大勢のメンバーに通知を送ることは避けるべきだという。
Slack提供元では、社員がこれらの機能を使って、多数のメンバーにメンションを送るケースは珍しいそうだ。同社は「アラートの送信はユーザーグループ内にとどめるべきだ」と説いている。
Slack Japanはさらに、「過去のディスカッションの内容を検索しないまま、他のユーザーに質問をすること」「大勢が参加しているチャンネルで、トピックと無関係なメッセージを書き込むこと」などをマナー違反の例として紹介。いずれも、業務のスピードを落としたり、無駄な手間を生んだりすると指摘している。
これらのマナーは、言われてみれば一理ある。そして、オフラインのコミュニケーションにも共通している。会議で無関係な発言をしたり、調べれば分かることを質問したりすると、周囲の気分を害しかねない。Slack利用の有無を問わず、職場でのこうした行動は避けるべきだろう。
筆者がSlackで「お疲れさまです」とあいさつする理由
一方、「『お疲れさまです』などのあいさつ」に関しては、筆者も時と場合に応じてSlackで行っている。一言あいさつをするのは、複数人によるトークルームではなく、個人のトークルームで上司や同僚と話をする時だ。
上司や同僚の様子を横目で見て、忙しそうにしているにもかかわらず、どうしてもSlackで会話する必要がある場合は、一言「お疲れさまです!」「お忙しい中すみません」などと、ワンクッション置いてから本題に入るようにしている。
手が空いていそうな時は、あいさつは省略している。
筆者は口頭で話し掛ける際も、相手が忙しそうな時は「今、お時間よろしいでしょうか」などと一言挟むのが、仕事仲間と円滑にやりとりする上では望ましいと考えている。Slackでのあいさつも、それと似たような感覚だ。
上司や同僚が忙しそうな時に、あいさつ抜きでSlackを送ったところで、別に怒られはしないだろう。だが、相手の状況に気を配って一言挟んでも、特はあっても損はない。そのため、あいさつに関しては「アホらしい」とは言い切れない。
「メモ帳などで推敲」もたまにやる
「メモ帳などで推敲(すいこう)してから貼り付ける」。筆者はこれも、Slackを使う上でたまにやっている。テキストだけでは細かなニュアンスや文脈を伝えられない場合があり、意図せずして、怒っているような印象やぶっきらぼうな印象を与えてしまうからだ。
Slackでは、一度送った文章を後から編集できるが、編集前の文章がすぐに相手の目に止まり、気分を害するケースがある。編集の前と後で、文章のニュアンスが大きく変わっていると、場合によっては不信感につながるかもしれない。
これらを防ぐため、筆者は長めの文章を送る際、メモ帳などでいったん内容を整理してから送る時がある。自分で自分のトークルームに文章を送ってみる場合もある(これはやりすぎかもしれないが)。
あいさつや推敲は誰かに強制されたわけではなく、人付き合いが苦手な筆者が勝手にやっているだけだ。マナーと呼ぶほど堅苦しいものではなく、他の人に押し付けるつもりもないが、周囲に誤解を与えない効果は少なからずあるため、無駄な作業ではないと思う。
周囲への気遣いを忘れずに使いたい
Slackは、日間アクティブユーザー数が全世界で1200万人を超えるなど人気で(19年9月末時点)利便性の高いツールだ。近年は「Google Drive」「Office 365」といった他社製のアプリとの連携も進んでおり、トークルーム内でさまざまな作業が可能になっている。
だが、機能面での自由度が高まったからといって、失礼な使い方をしても許されるわけではない。がんじがらめなマナーで縛ったり、メールに回帰したりするのはアホらしいが、画面の向こうに生身の人間がいることを念頭に置き、周囲への気遣いを忘れずに使っていくべきではないだろうか。
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