元受付嬢CEOの視線

百発百中?…採用面接で応募者の心を掴む男性役員 聞き上手は仕事もデキる

橋本真里子

 「話す」より「聞く」ほうが難しい

 いよいよオリンピックイヤー突入しましたね。皆さん、今年の目標は立てられたでしょうか。私は昨年から、社員に「今年一年の目標」を共有する試みを始めました。社員だけが目標を立て評価されるのでは一方的ではないかと考えたからです。そんな私の今年の目標の一つは「聞き上手になること」です。

 2019年最後となった前回は「話し方」に言及させていただきました。「話し方に自信がない」という人は多いのですが、「聞き方に自信がない」という人は意外に少ないものです。「自信がある」というよりは、無意識ゆえの「おそらくできている」という認識によることが多いでしょう。

 実際は、話すスキルよりも「聞く」スキルを磨くほうが難しいものです。今回は私の身近にいる「聞き上手」から学んだ、すぐに実践できそうな技術をお話しします。

 魅力的な人材も引き寄せる 掘り下げる能力

 以前、弊社は比較的、人材採用がうまくいっているというお話をしたことがあります。人材不足にはあまり悩まされていません。実はこれは弊社のCOO(最高執行責任者)の力が大きいのです。

 弊社の採用フローでは通常、COOの真弓があらかじめ面接した後に、私が最終面接をさせていただきます。最終面接にお越しいただく方に毎回のように言われることが「真弓さんはとにかく僕の話を聞いてくれて…」「真弓さんが聞き上手なのでついつい色々喋りすぎちゃって…」といったことなのです。とにかく真弓が面接させていただいた方は、彼のことを大好きになり、私が担当する最終面接にも入社意欲を高めて臨んできてくれるのです。

 真弓本人にもたずねたことがありました。「どうしてこんなに、皆さん、前向きに入社を検討してくれるんだろう? いつもどんな風に面接してるの?」。そしたら真弓は「とにかく話を聞いて、その話を掘り下げていくんだよ」と明かしてくれました。とことん聞くと、転職希望者も気持ちよく、そして楽しくなり、様々なことを本音で語ってくれるそうです。

 転職には何かしらの「転職したい」理由や動機があるものです。中には前職への不満などネガティブなものもあるかと思いますが、真弓はそういう動機で面接に来られた方の話をじっくり聞いて“表面”と“深部”の両方の気持ちや人柄に触れているのだと思います。

 私はついつい、応募者より自分自身のほうが話しがちなので、真弓のこの姿勢には非常に刺激をもらいました。

 否定的な反応に人は心を開けない マインドが大事

 想像してみてください。「何を話しても否定的な人」と「どんな話も受け入れてくれる肯定的な人」。皆さんはどちらの人と話がしたいでしょうか。どちらを上司・友人・パートナーにしたいでしょうか。多くの方が後者を選ぶのではないでしょうか。

 このように、自分自身が話す側だったら…と考えると理解しやすいかもしれませんが、話し手は自分の話に肯定的な人に対して心を開きやすいものです。つまり、肯定的な人は、否定的な人が聞くことができないより深い話を話し手から引き出すことができるのです。

 ビジネスにおいては特に、相手の考えや、時には本音を探りながらコミュニケーションする必要があります。そういった場合、あれやこれや推測して話をするより、相手から本音を引き出せたほうが楽ですし、正確な情報を得ることできます。その上でコミュニケーションを進められれば、ビジネスを円滑に進めることにつながります。

 私はどんな時も、どんな話をされる時も基本的に、まず受け止めます。そして受け入れようにします。その上で、自分の意見や感想を伝えます。日常会話のライトなシーンでも同じで、何か話しかけられた時に私が返すのは、必ず前向きになれる言葉です。

 「会話は言葉のキャッチボール」とよく言いますが、キャッチボールで例えると、相手が立つ場所に返すというより、相手が少し前に進むような方向にボールを投げ返すイメージです。話しかけた相手が、距離感の全くないボールや、受け取れないような場所に投げ返す人よりも、自分が思っていなかった方向性に導いてくれ、気づかなかった感覚や喜び、また次に繋がるような導きをしてくれる人なら、圧倒的に後者がいいですよね。話を聞いて、どういうスタンスで返すかというところまで考えることも、聞き上手のスキルの一つだと思います。

 手始めに「聞き切る」にチャレンジ

 「じっくり聞く」「肯定的な反応をする」。この2つは理解してはいても実践できない…。そんな方には、これをおすすめします。

  •  「聞き切る」

 まずは相手の話を聞き切ることから始めてみてください。ついついやりがちなんですが、相手が話し終わっていないのに話し出してしまう人は多いのです。飲み会や気心しれた友人とのざっくばらんな会話の時は聞き切らないほうが盛り上がる場合があります。しかしビジネスにおいては、プラスに作用することは少ないでしょう。 聞き切ることのメリットは、相手に落ち着いた印象や聞き上手な印象を与えることだけでなく、「自分の頭で考える・話の内容を整理する時間が長くなるため、反応の質を上げることできる」だと思います。

 「聞き方」を磨くメリットに触れながら、スキルアップのコツをご紹介しました。今回は「行動の裏には必ず意味がある」ということもお伝えできていたら嬉しいです。自分の苦手を克服するのは難しいですし、ついつい避けてしまいがちですが、苦手を克服するだけではなく、さらなる効能もあるんだと思えたら不得手な部分に向き合ってみようと思えるのではないでしょうか。

 本年も読者の皆さんと共に、私も成長できる1年にしていきたいと思っております。本年もよろしくお願いいたします!

橋本真里子(はしもと・まりこ) ディライテッド株式会社代表取締役CEO
1981年生まれ。三重県鈴鹿市出身。武蔵野女子大学(現・武蔵野大学)英語英米文学科卒業。2005年より、トランスコスモスにて受付のキャリアをスタート。その後USEN、ミクシィやGMOインターネットなど、上場企業5社の受付に従事。受付嬢として11年、のべ120万人以上の接客を担当。長年の受付業務経験を生かしながら、受付の効率化を目指し、16年にディライテッドを設立。17年に、クラウド型受付システム「RECEPTIONIST」をリリース。

【元受付嬢CEOの視線】は受付嬢から起業家に転身した橋本真里子さんが“受付と企業の裏側”を紹介する連載コラムです。更新は隔週木曜日。アーカイブはこちら