元受付嬢CEOの視線

評価に不満を抱く社員の傾向 期末に悩む経営者の本音

橋本真里子

スタートアップならではの評価“事情”

 私は派遣社員から起業しました。時給を上げていただいたり、リーダーに抜擢していただいたり、評価をしていただいていたからこそ、そうした判断をしていただけたと思います。でもそれは所属長レベルでの評価で、派遣先の会社全体からの評価ではありません。

 そんな私は今、従業員全員の評価をする立場にあります。私が評価というものに向き合うようになったのは、実はこの一年半ほどです。創業して4期目を迎えておりますが、それ以前は厳密な評価制度を作れていませんでした。

 これまで評価制度の整備に取り組んできて感じることは、スタートアップの評価軸を明文化するのは難しいということです。非常に特殊で複雑だからです。

 例えば、スタートアップにはこのような特徴や事情があります。

  • ・会社の都合により、創業期に条件を下げて入社してくれた従業員に対しては会社の成長とともに給与を上げていく
  • ・創業メンバーは一緒に仕事をしている時間が長い分、信頼関係も構築できているので評価もしやすく、給与が上がりやすい
  • ・人数が少ない分、誰がどんな仕事でどういう結果を出しているかがなんとなく肌で感じられるので、明文化していなくても不満が出にくい
  • ・明文化することが難しいので、どうしても経営陣の裁量になってしまう(見えてしまう)

 しかし、従業員が増えてきて創業メンバーよりも新規メンバーが多くなると、上記のような評価制度では会社は回りません。弊社も3期目を迎える時に、そろそろちゃんとした評価制度を作るべきだという話になり、整備しました。

 今回は、派遣社員から起業し、自分が評価される立場を経験していない私が評価制度作りを通じてどのような経験をしたか。評価される側とする側の両方の視点から、人事評価についてどういう考えに至ったかをお伝えできればと思います。

評価を妨げる「雑念」

 まずは評価される側についてお話ししたいと思います。

 私が評価する側(評価者)になって気づいたのは、「自分が評価されていないと思っている人は評価されづらい」ということです。そう感じている人は「私はあの人に比べて評価されていない…」と思っていることが多いです。

 自分への評価ではなく、他人への評価を気にする感情は「雑念」ともいえます。組織の中でまったく同じ業務を担っているメンバーはほぼいません。同じ部署でも、担当するお客様や役職によって細かい業務に落とし込んで見ると、必ず違った仕事をそれぞれが持っています。にもかかわらず「他人と比較して自分は○○だ」と感じることはもったいないと思うのです。これは間違いなくネガティブな感情で、それを抱いている限り、仕事に前向きに取り組むことは難しいでしょう。

 では、その「ネガティブなサイクル」を脱するにはどうするのがいいのでしょうか。それは、自分の中で「誰に・何を評価されていのか」を明確にすることです。自分は評価されていないと感じる人に「具体的に誰に評価されてないのか」「何を評価されていないのか」と聞いてみると具体的な回答が得られないケースも多いです。

 評価者は1名だけを評価していているわけではありません。評価をしてもらうには、評価者にわかりやすく「自分のここを評価してもらいたい」とアピールをする必要があるでしょうし、アピールするということは結果的に業務上の努力が発生するので、自分のパフォーマンスを上げることにつながります。こうすると「ネガティブなサイクル」から「ポジティブなサイクル」に変えることができますよね。

誰を評価すると全体の評価向上になるか

 では次に、評価する側に立ってお話ししたいと思います。

 前段でもお伝えしたように、評価者には複数の評価対象者がいるというケースがほとんどです。しかし、自身の業務もこなしながら、部下全員の働きや結果を細部まで把握するのは困難です。

 そういうときに私は「会社全体を見渡した時に、誰を評価することで会社全体の評価を上げることに繋がるのか」と考えて評価することがあります。

 会社として、全員が目標を達成して満点の評価をつけられたらそんな喜ばしいことはないですね。しかし、大抵はそうはいきません。そして評価軸というのは一つではなく、複数あると思います。評価が昇進や役職者選定の基準にもなります。それほど会社にとって複雑かつ重要な意思決定に関わる評価を下す際は、上記のような考え方で全体を見渡すとシンプルに見えることが多いのです。

これは評価だけでなく、人材マネジメントにおいても同じことが言えます。

 従業員や部下が増えれば増えるほど、一人にかけられる時間(接する時間や評価にかける時間)が減ります。満遍なく平等に接したいという気持ちもありますが、それはあまり効率的な方法ではないかもしれません。会社として、誰に時間を割いてマネジメントすると「全体最適」に繋がるのかを考えるのです。

 目的に沿って特定の従業員に時間をかけたほうがマネジメントコストも抑えられ、会社の成長にもつながります。薄く浅く関わってしまうと、それだけ成長も薄く浅くなってしまうのです。もし、「部下が多すぎて、マネジメントが大変だ!」と感じられている方がいたら、この考え方を参考にしていただければと思います。

評価はあくまで一過性

 最後に、評価はあくまでも「一過性のもの」と捉えるべきだと思います。例えば、ある期の評価が納得のいくものではなかったとしましょう。しかしそれはあなたの「人間性の評価」ではなく、あくまでもその期の評価にすぎないのです。一過性のものに対して悲観的に捉え、腐ってしまっては何も変わりません。割り切りや切り替えも重要だということです。

 評価する側も、評価対象者が落ち込むことを気にして、遠慮をした評価をつけてしまっては、「評価制度」の意味がなくなってしまいます。適切な評価をし、それを成長につなげていくことが重要です。一過性の評価と捉え、時にはドライに評価をすることも必要かもしれません。

 そしてもうひとつ。評価される側は、「評価する側はいいよな」と思うことがあるかもしれません。しかし、そんなこともないのです。時に評価する側も評価される側と同じくらい悩む時もあります。そして評価する立場である以上、自分自身はそれ以上のパフォーマンスを発揮していなくてはいけないのです。

 評価される側・する側それぞれがお互いの立場や気持ちになって考えて見ると、今と違った「評価」に対する視点が生まれるかもしれません。

橋本真里子(はしもと・まりこ) ディライテッド株式会社代表取締役CEO
1981年生まれ。三重県鈴鹿市出身。武蔵野女子大学(現・武蔵野大学)英語英米文学科卒業。2005年より、トランスコスモスにて受付のキャリアをスタート。その後USEN、ミクシィやGMOインターネットなど、上場企業5社の受付に従事。受付嬢として11年、のべ120万人以上の接客を担当。長年の受付業務経験を生かしながら、受付の効率化を目指し、16年にディライテッドを設立。17年に、クラウド型受付システム「RECEPTIONIST」をリリース。

【元受付嬢CEOの視線】は受付嬢から起業家に転身した橋本真里子さんが“受付と企業の裏側”を紹介する連載コラムです。更新は隔週木曜日。アーカイブはこちら