小泉進次郎が38歳で初入閣。環境相となった。閣僚人事が決定する前に滝川クリステルとの結婚を首相官邸にて発表した他、就任後すぐに福島県を視察したり、外交デビューするなど、その一挙手一投足に注目が集まっている。
もっとも、小泉進次郎が「未来の首相」などと持ち上げられるたびに違和感を抱いてしまう。政治家として、人気や知名度が高いことは良いことである。いくらアピールしようとも有権者にまったく響かない人がいる。しかし、なんせ実力は未知数である。自民党や小泉進次郎をそれぞれ支持するかどうかを別として、実力を冷静に考えたいところだ。ただ、この点に関しては「高い」「低い」ではなく「分からない」というのが実態ではないか。
今回の内閣では彼の38歳での抜擢が話題となったが、閣僚の顔ぶれをみると40代がゼロであるという点がむしろ気になる。派閥の論理など、様々な事情はあるし、別に若手がいればいいというわけではなし、閣僚がすべてではない。ただ、バランスの悪さを感じた。
勤務先でも抜擢人事
さて、実はここからが本題だ。この小泉進次郎初入閣について、私たちがついつい熱くなってしまうのはなぜだろうか? 滝川クリステルを射止めたことも含めたジェラシーもそうだが、実はこの抜擢人事というものについての既視感からではないか。ビジネスパーソンとして、自分の勤務先でこのような抜擢人事を見聞きしたことはないだろうか?
今回はこの抜擢人事について考えてみよう。秋がやってきた。人事の季節でもある。下半期スタートに合わせた人事異動もある。来年春の人事異動に向けたストーブリーグも始まる。会社員にとって、人事は最高の酒の肴である。自分自身や周りのことについて語り合う機会もあることだろう。
中でも抜擢人事は賛否を含め盛り上がりを見せる。本人だけでなく、周りのモチベーションアップにもつながる。年齢が近い先輩や同僚が抜擢されるのは嬉しいものだ。一方で、抜擢人事は組織に緊張感をもたらすこともあるし、ときにはモチベーションダウンにつながることもある。若い管理職が誕生すると、上の世代は自分のポジションや、先行きについて不安を感じてしまうものである。
人事は経営からのメッセージである。今後、どのような企業にしたいのか、どんな人材を評価するのかを人事に込めているものである。
一方、人事といえば、このような大抜擢や、逆に左遷や更迭、冷遇ばかりに注目が集まる。そういえば、今回の閣僚人事においても石破派からの登用がゼロだった。このこと自体、あまり話題にもならなかったようだが。
しかし、人事は全体のバランスでみるべきである。よく見ると、安定感のある、経営者が信頼している人物を要職においていたりする。今回の閣僚人事もそうだった。
中長期視点が肝心
ウォッチするべき点は、中長期の視点と、副作用である。人間はもれなく歳を取る。経営陣や管理職もそれぞれ5年、10年と歳を重ねる。さて、その頃の組織はどうなっているだろうか?
特に抜擢人事をすると、良い意味では若返りをはかることができるのだが、そこで飛ばされてしまった年次の人たちにチャンスがまわってこなくなる。抜擢された人は経験をつむことができるし、次世代のスターになるかもしれないし、組織も活性化する。ただ、トータルでみると、マイナスになることもある。
抜擢された人にとっても、プラスになるとは限らない。若いうちに積み重ねるべき経験をスルーして、昇進・昇格するとむしろその後に苦労する。
国民にとって良いことなのか?
先日、自民党の地方議員と会食する機会があった。その際に話題になったのは、まさにこの「小泉進次郎の抜擢は、本人にとっても、自民党にとっても、国民にとっても良いことなのか?」だった。小泉進次郎は政務官の経験はあるし、党内の青年局長、農林部会長、筆頭副幹事長、厚生労働部会長などを歴任している。ただ、副大臣の経験などはない。組織を動かした経験が乏しい。もちろん、抜擢により倍速で経験を重ねていくという見方もできる。ただ、混乱や組織全体の力の低下というリスクも認識しておきたい。
抜擢人事は良いことだらけとは限らない。もっとも、これにより混乱した際に自分なりにどう貢献するかを考えておきたい。
さて、貴社の「小泉進次郎」は良い活躍をしているだろうか。激しく傍観しつつ、まずは自分の目の前の仕事に向き合いつつ、自分が会社と社会に対してできることを考えよう。
【働き方ラボ】は働き方評論家の常見陽平さんが「仕事・キャリア」をテーマに、上昇志向のビジネスパーソンが今の時代を生き抜くために必要な知識やテクニックを紹介する連載コラムです。更新は原則隔週木曜日。アーカイブはこちら