「現代の奴隷労働だ」 中国・学生に違法就労を強いるアマゾン機器工場の罪

 
米アマゾン・ドット・コムのスマートスピーカー「アマゾン・エコー」。中国の工場では製造に、学生が違法就労を強いられていた…=2019年8月8日(ロイター)

 さて、今回ご紹介するエンターテインメントは、中国とIT(情報技術)関連のお話です。

 産経ニュース2016年12月16日の本コラム「中国iPhone工場、米トランプ政権に潰される? 世界最強ブラック企業『フォックスコン』恐々…多発する横流し、工員の自殺」で、ご紹介したように、米アップルのスマートフォン「iPhone(アイフォーン)」をはじめ、グーグルやアマゾンといった米のIT(情報技術)系企業の電子部品などを受託生産する「フォックスコン・テクノロジー・グループ」(富士康科技集団、本社・台湾)の中国の工場では、従業員の自殺が相次ぐなどなどの労働環境や、自社製品の横流しといったモラルの崩壊を欧米メディアが暴露し、非難を浴びていたのですが、結局、何ら変わっていないことが明らかになったのです…。

◇   ◇

 超ブラック企業…時給150円、16歳の夜間・残業が常態化

 中国の中南部、湖南省(こなんしょう)の衡陽市(こうようし)にあるフォックスコンの工場が、近郊に住む10代の学生をインターンとして大量に雇用し、米アマゾン・ドット・コムのスマートスピーカー「アマゾン・エコー」や「エコー・ドット」、電子書籍端末「キンドル」などの製造に従事させていたのですが、学生たちは違法な残業などを強いられていたうえ、身体的・精神的に虐待されていたことが明らかになったのです。

 米ニューヨークにある労働権利団体「中国労工観察(チャイナ・レイバー・ウオッチ=CLW)」の調査報告書を英紙ガーディアンが入手し、8月8日付(電子版)でスクープ。その後、翌9日付の米経済誌フォーブスや同月12日付の米CBSニュース(いずれも電子版)など欧米主要メディアが一斉に後追いしました。

 CLWの報告書によると、工場がある衡陽市と、その周辺にあるさまざまな技術系の学校などから16~18歳の学生計1581人が、今年7月26日の時点でインターンとして働いていました。

 月給は基本給が1750元(248ドル=約2万6千円)、時給(基本給)は約10元(1ドル42セント=約150円)。残業代や手当などを含めると時給は16.54元(2ドル34セント=約248円)となりますが、経験豊富な派遣労働者の時給20.18元(2ドル86セント=約300円)より低く抑えられています。勤務は1日10時間(うち残業2時間)で週6日だといいます。

 日本的感覚だと「時給安過ぎるで」といった感想になると思うのですが、問題はそこではありません。

 中国の工場では、16歳以上の学生の雇用は法律で認められていますが、夜間勤務や残業は認められていないのです。ところがこの工場では、16~18歳の学生インターンの夜間勤務や残業が常態化していたのでした。

 ガーディアン紙によると、コンピューター計算について学ぶ17歳の女子学生、シャオ・ファンさんは、7月から「アマゾン・エコー」の生産ラインで働いています。連日、3000個の「エコー・ドット」に防護フィルムを張るのが仕事です。

 そんな彼女は「当初、学校で先生から、勤務は1日8時間で週5日と言われていたのに、いつの間にか1日10時間(2時間の残業を含む)で週6日に変わっていたんです」と内幕を暴露し、こう憤慨しました。「最初、私は工場で働くことにあまり慣れていませんでしたが、1カ月働いて、何とか慣れました。でも1日10時間、毎日働くのはとても疲れます。職場の照明も明る過ぎるので、すごく暑いんです」

 「『残業は嫌だ』とラインの責任者に言うと、その責任者は私の学校の先生に報告しました。先生は、私が残業を拒否すれば、フォックスコンでインターンができなくなるうえ、卒業や奨学金の申請に悪影響が出ると言いました。選択の余地はありませんでした。耐えるしかなかったのです」

 そもそも、なぜ学生インターンを大量に採用するのでしょうか。答えは、安価な労働力をコキ使って生産目標を達成するためです。

 CLWが入手した内部文書にはこう書かれていました。「労働力不足を解消し、労働者の募集にかかるコストを削減するため、地元の学校と協力し、学生インターンを募集したいと考えています。人件費が安く、一度に大量の労働者を雇うことができるうえ、追加の労働者を他のポジションに再配置しやすくなることで、新たな事柄を学ぶ能力が高くなります」

 さらに、こんな文言まであったのです。「夜勤のラインのリーダーは、学生インターンや教師に対し、仕事が上手くいっているかどうかを頻繁(ひんぱん)に報告せねばならない。そして、異常な状況は報告し、教師は生徒に夜勤や残業をするよう説得する必要があります」。つまり、工場と学校がグルになって、学生インターンを安価で違法就労させていたわけです。CLWは報告書で「学校と工場は協力体制を取り、学校側は多数の学生インターンを工場に派遣したが、工場側が彼らに残業や夜間勤務を強いているという事実を無視した」と厳しく批判。

 そして「工場側は3か月間で、学校側に対し、学生インターン1人当り、1時間3元(42セント=約45円)という追加の補助金を支払った」とまで暴露しました。

 まだあります。CLWの報告書によると、問題の工場には計7435人の従業員が働いており、うち、学生インターンは1581人です。割合で言えば全体の21.3%ですが、これは「職業訓練校の学生インターンシップに関する行政上の規定」の第9条に違反しているのです。規定では「学生インターンの数は全従業員数の10%を超えてはならない」と定められているのです。

 CLWの報告書を読むと、もっと衝撃的な事が書かれていました。CLWは、この工場で今年の7月25日に開かれた学生インターン採用に関する会議のメモを極秘入手したのですが、それによると、大量の学生インターンに頼らねば、「アマゾン・エコー」などアマゾンのスマートスピーカー関連商品の生産目標が達成できない可能性があると判明したのです。

 このメモでは、学生は一般的な派遣労働者よりも安価で雇われ、彼らは普通の労働者の代わりに、労働者が足りなくなる生産期間のピークをカバーする存在である、などと書かれていたのでした。

◇   ◇

 実は、このフォックスコンの衡陽工場では昨年6月、「アマゾン・エコー」などアマゾンのスマートスピーカー関連商品の生産期間のピーク時に、人件費を削減するため、法令で定められている以上の派遣社員を雇用し、多くの従業員に法令が定める月36時間をはるかに超える残業を強いていたことが判明したのです。アマゾン側はこの事実を認め、フォックスコン側に監視強化を含む再発防止を徹底させるとともに、派遣社員への依存体質を改め、彼らが正社員になるための門戸を開かせました。

 ところが、またもやアマゾンの同じ製品の生産ラインで、こうした不祥事が発覚したことになります。今回の不祥事について、アマゾン側の広報担当者は「違反を発見した場合、フォックスコン側ら対し、直ちに是正措置を求める適切な措置を講じる」との声明を発表。調査のための専門チームをこの工場に派遣したと説明しましたが、CLWの報告書は、アマゾン側は昨年6月の一件ととともに、今回の件も最初から知っていた可能性があるなどと、厳しく断罪しています。

 この一件を報じた8月9日付の英紙デーリー・メール(電子版)の読者投稿欄には「中国製品を購入するということは、こうした安価な労働力を酷使する中国の労働形態を支持することと同じだ」「現代の奴隷労働だ」「なぜこんなに値段が安いのか考えるべきだ。社会にモラルを問い直す時だ」といった意見が並んでいます。

(岡田敏一)

 【プロフィル】岡田敏一(おかだ・としかず) 1988年入社。社会部、経済部、京都総局、ロサンゼルス支局長、東京文化部、編集企画室SANKEI EXPRESS(サンケイエクスプレス)担当を経て大阪文化部編集委員。ロック音楽とハリウッド映画の専門家、産経ニュースで【エンタメよもやま話】など連載中。京都市在住。

      ◇

 ■ご意見、ご要望、応援、苦情は toshikazu.okada@sankei.co.jp までどうぞ。