【ブランドウォッチング】渋野日向子も着ている! ビームスがゴルフを楽しくする

 
ギャラリーの声援に笑顔で応える渋野日向子(撮影・戸加里真司)
決勝ラウンドで着用していたポロシャツは完売(BEAMS公式HPより)
ビームス ゴルフ軽井沢・プリンスショッピングプラザ店外観(BEAMS公式HPより)
ビームス ゴルフ軽井沢・プリンスショッピングプラザ店店内(BEAMS公式HPより)

 女子ゴルフのAIG全英女子オープンでの渋野日向子選手の優勝は素晴らしかったですね。日本人では42年ぶり2人目のメジャー制覇という快挙。彼女の素直で明るいキャラクターも世界から歓迎され、日本人としては誇らしいばかりでした。そして、彼女から伝わってくるゴルフの爽快感があらためて世の中のゴルフ気分を盛り上げているようで、ゴルフ好きの読者の方もうれしい状況ではないでしょうか。(筆者ももちろんです)

 尽きることがないゴルフの魅力

 ゴルフの魅力は多面的でまさに尽きることがありません。繊細でありながらダイナミックなスポーツとしての魅力、自然環境を満喫できるプレースタイル、世界各地の風土を反映したユニークなゴルフコースやクラブハウス。クラブ、ボールなど凝ろうと思えばいくらでも凝れるギアの世界。しかもスポーツを楽しみながら、同伴競技者と一日中楽しいコミュニケーションも図れてしまいます。多忙を極める名だたる経営者や政治家が、貴重な休日をなるべくゴルフのスケジュールで埋めようと一生懸命なのも納得なのです。

 ゴルフの世界にファッションがやってきた

 そんなゴルフの世界に、ファッションの楽しみが加わったのはいつ頃からでしょうか。

 かつて日本のゴルフ場は、いわゆる「接待」利用を前提にしたゴルフ場が多く、名門であればあるほど、ゴルフ場での装いもビジネススーツに準じるスラックスに地味な開襟シャツをもって良しとされてきました。しかし時代は流れ、企業の交際費の使い方も変化し、いわゆる経費族の巣窟としてのゴルフ場経営は成り立たなくなり、プライベート利用の予約が否が応でも多くなってきました。最近では、ネットを活用した「一人予約」なども活発で、メンバーでなくともゴルフ愛好家同士が集まってラウンドできるなど、プレーを主眼とした運営に変化してきました。

 また、クールビズやIT業界を先頭にする職場でのドレスコードのカジュアル化などの潮流も受け、年々ゴルフウエアに対する自由度も上がってきており、いまやよほどの名門でもない限り、厳格なドレスコードでとやかく言うコースに出会うことは少なくなりました。

 そんな流れは、トッププロ自身が牽引してもいます。特に日本に限らず女子プロならではの華やかで個性的なファッションは、かつてはゴルフ場で見かけることがありえなかったタンクトップや蛍光色など、自らが率先してゴルフファッションのタブーを打ち壊す先兵となっている様相です。最近では、EVENなどゴルフをファッションやライフスタイルの切り口で紹介する雑誌なども人気で、ゴルフの楽しみの中でファッションが占める割合は確実に増えていると言えるでしょう。また、ストレッチやドライ、クール、ヒートなどの繊維素材革命もゴルフプレーのファッショナブル化に一役買っています。

 そう近年ゴルフはファッションを楽しむスポーツにもなったのです。そんな潮流にセレクトショップの老舗BEAMSは早々に着目しました。

 「オシャレなのにリアルクローズ」絶妙な中庸感  

 そもそも、服というのは体を視覚的・物理的に守り、体温調整などの機能を果たすことがその基本的な役割でしょうが、人間が社会的な生き物である限り、自己表現や社会的立場のアピールという自己演出の要素を抜きに語れないものです。そして、これがいわゆるファッションです。

 1980年代、セレクトショップが人気になる以前は、デザイナーズブランドの全盛期でした。日本でもDCブランドに代表される、デザイナーの先鋭的な個性を前面に出したアーティスティックなファッションに生活者は惹かれました。しかし、他者との差別化に力点を置くデザイナーファッションは、ともすると日常的には違和感があったり、凝った作りゆえにとても高価なものでした。

 そんなデザイナーズブランド疲れの空気感の中で、海外のセンスの良い、日常使いもしやすいリアルクローズを輸入し紹介したのが、当初は原宿の小さな路面店から始まったBEAMSなのです。背景としては総じて為替が円高方向であったことも、輸入ファッションや雑貨人気の後押しとなったと思います。そしてBEAMSをはじめとするセレクトショップは、自らが企画製造するオリジナル商品も着々と充実させて、日本の生活者のニーズにあった死角のない商品構成でファッションビジネスのメインストリームとなっていったのです。当たり前のリアルクローズだけではあきたらないファッション性の尖った部分は、海外の高価なインポートモノでアピールしながら、値ごろ感もあり実際に普段使いしやすいオリジナル商品も豊富にラインナップするというイノベーションがセレクトショップなのです。

 セレクトショップの持ち味をゴルフの世界に 

 そんなファッション性と日常性の高度なバランス感覚というセレクトショップの持ち味をゴルフの世界に持ち込んだ『BEAMS GOLF』は、ファッション感度の高いゴルファー、特に若い世代に早々歓迎されました。勿論、各スポーツブランドも近年飛躍的にファッショナブルな製品ラインナップとなりましたが、多くのビジネス街のゴルフショップはまだまだビジネスゴルフ時代のアンチファッション文化から抜け出せていないように見受けられます(最近はプレミアムセレクトショップ開設の動きもあるようですが)。そんな中で絶妙な空白ポジションにBEAMS GOLFは異業種から参入し、あっという間に収まったというわけです。

 原点の等身大を感じさせる、シンプルなブランディング

 ブランディングの視点でみると、まったくの正攻法。BEAMSのもつオシャレの太鼓判感、中庸感を裏切らずにBEAMS GOLFとして展開しており効率的、説得力抜群のアプローチと言う他ありません。ファッション性を追求すれば先鋭的な方向に行きやすいものですが、人と競い合うような差別化は時代の空気ではありません。あくまで周囲と調和しながら、自分も仲間も楽しめるオシャレ。そんな簡単なようで簡単じゃない塩梅に長けたBEAMSのやり過ぎないブランディングは絶妙だと思います。

 ロゴのデザインなどもシンプルなものです。原宿のインポートショップ時代の等身大感を感じさせてくれるお店作りと相まって、ならではの世界観を構築しています。

 5月にウエア契約を結んだばかりの渋野選手が、わずか3カ月後のAIG全英女子オープンのメジャー大会を制覇するというラッキーもブランドの輝きに花を添えました。そもそも渋野選手という明るく素敵なキャラクターを見抜きいち早く契約できたのは、常に自ブランドの世界観を定義できているがゆえの然るべきマーケティング的成果でしょう。

 渋野選手はご褒美でBEAMSブランドの洋服100万円分の特別ボーナスをプレゼントされたとのことですが、ファッションを楽しむアスリートという新たな世界観をBEAMS GOLFとぜひ築き、ますますゴルフを楽しく盛り上げて欲しいと期待しています。

【プロフィール】秋月涼佑(あきづき・りょうすけ)

ブランドプロデューサー

大手広告代理店で様々なクライアントを担当。商品開発(コンセプト、パッケージデザイン、ネーミング等の開発)に多く関わる。現在、独立してブランドプロデューサーとして活躍中。ライフスタイルからマーケティング、ビジネス、政治経済まで硬軟幅の広い執筆活動にも注力中。
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【ブランドウォッチング】は秋月涼佑さんが話題の商品の市場背景や開発意図について専門家の視点で解説する連載コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら