【社長を目指す方程式】言動から「相手の癖」を分析 上司に薦める部下・取引先との関係改善術

 

 こんにちは、経営者JPの井上です。前回、できる社長は「相手によってコミュニケーションスタイルを使い分ける」というスキルについてお話ししました。天性のセンスで使い分けをしている社長も多いですが、これを誰もが学び身につけることができる方法論として、動機欲求に基づく行動パターンをもとに人を4タイプに分ける「DiSC理論」を紹介いたしました。

※画像はイメージです(Getty Images)

 この行動特性分析「DiSC理論」に似たもので、「Social Style(ソーシャルスタイル)理論」があります。今回はこれをご紹介してみたいと思います。前号記事と比較しながらお読み頂きますと、より面白く理解、吸収いただけると思います。

 4つの性格の特徴

 「Social Style(ソーシャルスタイル)」とは、1968年にアメリカの産業心理学者であるデビッド・メリル氏が提唱したコミュニケーションの理論です。人の言動を4つのスタイルに分けて分析し、相手が望ましいと感じる対応を探し、選択する方法として活用されています。

 少し噛み砕いて言えば、外から見えるその人の態度を4つのタイプに分類したものです。

 例えば、同じ部下からの提案を聞いたとしても、読者である上司の皆さんの反応は様々ですよね。「いいねー!」が口癖の人もいれば、「で、結論は?」とくる人もいるでしょう。あるいは「そうだね、どうかな…」と煮え切らない人、または「ふーん、別に」とスルーする人もいるかもしれません。

 これ、全て皆さんのコミュニケーション態度の癖なのです。

今回の社長を目指す法則・方程式:

デビッド・メリル「Social Style(ソーシャルスタイル)理論」

 「DiSC理論」の軸は「外交的・能動的・実行型か、内向的・受動的・消極的か」と「タスク・問題重視型か、人間関係重視型か」の二軸による4象限でしたが、「SocialStyle(ソーシャルスタイル)理論」では「意見を主張するか、訊く側に回るか」と「感情が表に出やすいか、感情を抑える傾向が強いか」の二軸で4象限が切られます。

■「DiSC理論」
■「Social Style(ソーシャルスタイル)理論」

 4タイプを具体的に見てみましょう。

 「意見を主張×感情を出す」=Expressive(エクスプレッシブ)<主の価値観=注目されることが大事>

 みんなから注目されることを好むスタイルです。明るくて表情も豊か、一般的に友人が多いタイプですね。ノリが良く、新しいことやトレンドに敏感で、いつも積極的に何かにチャレンジしている人です。

 「意見を主張×感情を抑える」=Driving(ドライビング)<主の価値観=勝利することが大事>

 合理的に仕事を進める目標達成型タイプです。感情表現は大きくなく、合理的に物事を達成していくスタイルの人。一般的には口数が少ない人が多いのが特徴でしょうか。行動が早く、負けず嫌い。プロセスよりも結果を重視するので、「達成するなら何でも良い」、手段は問わない傾向もあります。

 「意見を訊く×感情を出す」=Amiable(エミアブル)<主の価値観=みんなの気持ちが大事>

 みんなの気持ちをくみ取る調停役タイプ。自分が話すよりも相手の話を聞くスタイルの人ですね。周囲の気持ちに敏感で、自分が注目されるよりも全体の調和を重視する傾向にあります。感情は表情に表れがちで、明るい、いわゆる“いい人”です。

 「意見を訊く×感情を抑える」=Analytical(アナリティカル)<主の価値観=理論・理屈が大事>

 観察を好む分析型タイプです。理論派、データを重視して分析することを好みます。感情は表情に表れず、自分が話すよりも相手の話を聞くことが多い。自分独自の見解を持つ人が多いのがこのタイプの特徴です。

 どうでしょう? あなたの部下はどのタイプですか? あなた自身はどのタイプでしょう?

今回の社長を目指す法則・方程式:

デビッド・メリル「Social Style(ソーシャルスタイル)理論」

 商談で、組織マネジメントで、4つの性格にどう対応するか

 さてでは前回同様 、上司の皆さんとして実際にこれを商談で、あるいは組織マネジメントでどう使うかについて見てみましょうか。

 まず、エクスプレッシブタイプとのコミュニケーションですが、エクスプレッシブは発言内容が直観的に変わる傾向にあるところが要注意です。これは必ずしも性格がいい加減という訳ではなく、新しいことに関心があるため意見が変わりやすいのです。とは言え、こちらとしてはコロコロ意見や判断を変えられても困りますよね。重要な方針などは変わる前に言質をとっておき文書化する、契約など重要なことは気が変わらないうちに済ませるというような工夫をするとうまくいくでしょう。

 また、話を聞いてもらいたいスタイルなので、聞くことに集中しましょう。「ガッとやってさ」「ドーンと行こう」など、擬態語が多く理解に困ることもあるでしょう。ニュアンスを受け取ってあげられるときはまあいいですが、確認が必要なときには「具体的には?」「分かりました。こういうことですか?」と確認しましょう。気持ち重視で付き合ってあげられるときには、ノリで対応するのが良いでしょうね。

 次にドライビングタイプとのコミュニケーション。ドライビングは感情を抑える傾向があります。このスタイルには同じく、こちらも感情を抑えた対応が好まれます。合理的な考えの持ち主なので、会話は論理的に進めること。結論から先に伝え、そのあと理由、具体例といったように順序立てて話していくのが良いでしょう。

 ドライビングにはアイスブレークなど一切不要。無用な前口上を話し始めると、「時間がないので、手短に説明してよ」と言ってくるでしょう(苦笑)。端的に、結論から会話することです。具体的に、背景・理由も添えて話すこと。

 打ち合わせや商談などで望ましい結論が出そうにないと、「もう、いいよ」と打ち切り、突き放すのもドライビングの特徴。このとき一度で折れて撤収してはもったいないです。相手は言い方がストレートなだけで、必ずしも言ってるほどNOでもなかったりします。「もう一度チャンスをください」など、リベンジ魂を示すと結構見込むのもドライビングの面白いところで、負けん気を高く評価する傾向がある人ですから、諦めないで!

今回の社長を目指す法則・方程式:

デビッド・メリル「Social Style(ソーシャルスタイル)理論」

 エミアブルタイプとのコミュニケーションは、周囲の気持ちをくみ取ってくれる傾向にあり、人付き合いしやすいスタイルだと言えます。しかし、やや優柔不断なところがあり、決断に時間がかかってしまうのが難でしょうか。このときに決断を無理にせまればエミアブルは多大なストレスを感じてしまいます。決断ができない場面では、「一緒に考えませんか」など、相手に共感を持って接すると良いでしょう。

 「分かった」と言いながら、返事を先延ばしにするのもエミアブルの特徴の一つ。このとき、相手の心の中に、なんらかの言いにくい懸念材料、懸案事項があるケースが多いです。(「ルーズ、優柔不断だな」)とイラつく前に、まずは具体的な問題を粘りつよくそれとなく聞いてあげると糸口が見つかることも少なくないでしょう。

 最後にアナリティカルとのコミュニケーションですが、無口で感情を抑えるアナリティカルは「何を考えているのか、想像が難しい」といわれがちなタイプです。だからこそ、アナリティカルに対して感情的な対応は絶対にNG。このスタイルには相手は悪気がないことを認識して、辛抱強く対処するのがベストです。

 なかなか決断してくれず時間がかかり、無口なので何を考えているのか分からないのがアナリティカル。打ち合わせや商談においては、実際に頭の中で整理しているだけですから、アナリティカル相手に限っては、沈黙のままで無問題。「また、考えた上で電話する」と言われても、通常は信用できませんが、アナリティカルの場合は信用してOKです。ただし回答までに時間がかかることが多いですから、お互いが合意するデッドラインを決めておくことが重要ですね。またデータを重視しますから、仕事で決断を求めるようなケースでは根拠となるデータを提示するといった工夫も有効です。

 いかがでしたか? 部下や上司、あるいは取引先相手とのコミュニケーションにおいては、自分の「言い方の癖」を知り自覚することも非常に大事ですが、何よりも、自分と異なる相手のコミュニケーションの癖を知ること、自分と相手は異なるのだという自覚が第一歩。

 その上で、相手の「言い方、訊き方」に合わせてコミュニケーションできることもリーダーとしての社会対応力の基盤となります。

 自分と異なるタイプというのはストレスのかかるものですが、「異なるのだ」「どう異なるのか」というところを具体的に知っていれば、そのストレスもだいぶ軽減されるものです。

 この理論の活用はリクルートグループ(リクルートマネジメントソリューションズ社)が「STAR研修」として対人スキル向上研修を提供しています。私も20代の頃に所属部門で受講させて頂き、その後長らく大変役立っています。

 まずは今回の記事を熟読頂き、ぜひ周囲の部下たち、上司たち、取引先など(やご家族にも)に使ってみましょう。これまで難しく感じていた人がいらっしゃったら、これを契機に相手の反応、相手との関係性がガラッと改善するかもしれませんよ。

▼“社長を目指す方程式”さらに詳しい答えはこちらから

【プロフィール】井上和幸(いのうえ・かずゆき)

株式会社経営者JP代表取締役社長・CEO

1966年群馬県生まれ。早稲田大学卒業後、株式会社リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職後、株式会社リクルート・エックス(現・リクルートエグゼクティブエージェント)のマネージングディレクターを経て、2010年に株式会社 経営者JPを設立。企業の経営人材採用支援・転職支援、経営組織コンサルティング、経営人材育成プログラムを提供。著書に『ずるいマネジメント 頑張らなくても、すごい成果がついてくる!』(SBクリエイティブ)、『社長になる人の条件』(日本実業出版社)、『ビジネスモデル×仕事術』(共著、日本実業出版社)、『5年後も会社から求められる人、捨てられる人』(遊タイム出版)、『「社長のヘッドハンター」が教える成功法則』(サンマーク出版)など。
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【社長を目指す方程式】は井上和幸さんがトップへとキャリアアップしていくために必要な仕事術を伝授する連載コラムです。更新は原則隔週月曜日。アーカイブはこちら