「ユダヤの商法」半世紀ぶり復刊 日本マクドナルド創業者の金言
日本マクドナルド創業者で大阪出身の藤田田(ふじたでん)さん(1926~2004年)が、ユダヤ商人の教えを説いた昭和47年刊行のベストセラー『ユダヤの商法』(KKベストセラーズ)が、およそ半世紀ぶりに復刊され話題を呼んでいる。若き日のソフトバンク社長、孫正義氏ら多くの経営者に影響を与えたビジネス書のバイブルが、先行き不透明な時代の指南書となりそうだ。(横山由紀子)
藤田さんは東大在学中、連合国軍総司令部(GHQ)で通訳のアルバイトをしながら学費や生活費を稼ぎ、そこで出会ったユダヤ人から学んだ商法をもとに起業、46年の日本マクドナルド創業など企業経営に生かしてきた。
「商売は女を狙え、口を狙え」「暗算を得意とすべし」「必ずメモを取れ」「雑学を積むべし」「未決の書類は商人の恥」「休息は必ず取れ」…。
ビジネス感覚に優れた民族として名高いユダヤの商人の教えをまとめた本書は刊行当時、82万7千部の大ベストセラーに。孫氏をはじめ、ファーストリテイリング会長兼社長の柳井正氏ら日本を代表する実業家が、青年期に読みビジネスの本質を学んだという。昭和の終わり頃に絶版となったが、古本市場で2万円近くの高値で取引されるほどで、版元のKKベストセラーズには読者から復刊リクエストが寄せられていた。
そんな幻の名著は、元号が令和に変わる直前の今年4月に復刊。インターネットを中心に「あのユダヤの商法が復刊」と話題となり、即重版されて5万部を上積みした。特に藤田さんの故郷、大阪での売れ行きが好調だという。
編集者の山崎実さんは、「終身雇用の崩壊や非正規雇用の拡大など激変した労働環境を生きる若者に、稼いで勝ち抜く力を与えたい。その答えが商法の中にある」と復刊の狙いを語る。
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半世紀ほど前のビジネス書が、なぜ注目されるのか。現在、投資ビジネスや情報産業などがもてはやされる対し、「ハンバーガーで日本の食文化を変えた藤田さんの商売は、目に見える実体経済。経験値で語る生の言葉が響くのでしょう」と山崎さん。
財布を握る女性を相手にした商売や、食品店や飲食業など口に入れるものを扱う商売はもうかると説く「女を狙え、口を狙え」の教えは、「手垢にまみれているけど、揺るぎない真理ですよね」。タイムマネジメントの大切さを説いた「時間も商品」「不意の客は泥棒と思え」や、「契約は必ず守れ」「商売に『きれいな金』『きたない金』はない」など、商売の定石が書かれていることが大きな特徴だ。
また、「金銭教育は小さいときから行うべし」、日本式の薄利多売の商法より、富裕層が好む商品に目を付け高く売る「金持ちからもうけさせてもらう」というユダヤ商人ならではの手法もちりばめられている。
現在の日本は、長時間労働の見直しなど働き方が問われる時代だが、「社会で働くなら、ひとつ事を成すくらいの意気込みや勇気を若者には持ってほしい。そのアイデアと実行力のヒントが本書にはあります」と山崎さん。自分も何かができるんじゃないかと、その気にさせるパワーがある。そんな読後の高揚感も魅力的だ。
藤田田(ふじた・でん) 大正15年、大阪市生まれ。東大法学部在学中に、GHQの通訳を務めたことがきっかけで「藤田商店」を設立し輸入業を手がける。昭和46年、日本マクドナルドを創業し、東京・銀座に1号店をオープンさせ、日本にハンバーガーの食文化を定着させた。