【ブランドウォッチング】進化する「道の駅」はインフラのヒット商品 日本だからこそできた大発明

 
「道の駅いちかわ」。売店も並ぶ(市川市のHPより)
「道の駅いちかわ」の外観(市川市のHPより)
いちCafe珈琲焙煎処(「道の駅いちかわ」のHPより)
野菜も売られている(「道の駅いちかわ」のHPより)
カルチャースクールの様子(「道の駅いちかわ」のHPより)

 仕事でタイのバンコクに行きました。20数年ぶりの訪問で、巨大なスワナプーム国際空港からしてかつては存在しなかった巨大インフラに目を見張るものがありました。

 市内への高速道路も整備され、発展を肌で感じるなあ。などと呑気に考えていたら、どうも乗っていたタクシーがホテルに近い出口を通り過ぎてしまったようで、手元のスマホのグーグルマップがどんどんホテルから遠ざかっていきます。「ノーノー。Uターン、Uターン!」と運転手さんに言ったものの延々降りられる出口がない。日本であれば、インターチェンジの2、3やサービスエリアの一つでもありそうな距離、つまり結構な距離をキドキしながら迂回するはめになりました。そもそも、案内表示も少ない上に見づらく、高速道路の作り自体があまりに不親切な印象です。

 その後も繁華街から少し離れた住宅地を徒歩で散策したのですが、歩道が埃っぽい上にデコボコで歩きにくいのです。何より致命的と感じたのが、ちょっと路地に入るとどの道もすぐに行き止まりになってしまう。これでは道路としての機能は半分もなく、不便なことこの上ありません。

 タイ政府もインフラ整備に余念がないのでしょうが、まだまだ一点豪華主義な投資がやっとでネットワークとしてのインフラの蓄積は十分でなく、本来期待する経済基盤となる水準まで道のりは遠いことを実感せざるをえませんでした。

 一方で、いかに日本の道路インフラが高級で便利なものか、あらためて痛感させられました。

 すでに1160駅整備されている「道の駅」

 塩野七生さんの大著『ローマ人の歴史』にも余すところなく書かれているように、ローマ帝国の繁栄は「ローマ街道」を筆頭にインフラ整備が不可分なものでした。現代の日本でも整備された道路インフラが今の我々の生活を支えていることに疑いはありません。

 そんな、日本が誇る道路に「道の駅」と呼ばれる施設があることをご存知の方も多いかと思います。

 安全で快適に一般道路を利用するための道路交通環境の提供や、地域の文化・特産品の紹介など地域振興を目的とした施設で、「地域とともにつくる個性豊かなにぎわいの場」を基本コンセプトにしているそうです。

 実感としては、旅行で出かけた先などでチラホラと発見するようになって何年ぐらいでしょうか? なんと、北は北海道「わっかない駅」から、南は沖縄県「いとまん駅」まで、すでに1160駅(2019年6月現在)も整備されていました。

 発祥は、1990年1月に広島市で行われた「中国・地域づくり交流会」の会合での提案だったとのことです。その後、1991年10月から翌年7月にかけて山口県、岐阜県、栃木県の計12カ所に「道の駅」制度の社会実験が行われ、1993年4月に全国103カ所が正式登録されたところからスタートしています。すでに25年以上の実績があるわけです。

 停めやすさ、キレイなトイレも基本スペック

 実際に利用して嬉しいポイントは多々あります。なんと言っても一番ありがたいのが、当たり前ですが、ドライバーにとって停めやすい駐車場が整備されていることです。しかも、何時間でも停め放題(車中泊などは禁止しているところもある)。出先では往々、駐車場に困ります。大きなショッピングセンターも確かに便利ですが、制限時間を超えると結構なお金がかかったり、そもそも入れるのに難しい複雑な構造で困ることも多々あります。

 その点、大型バスやトラックの駐車も考慮されている「道の駅」は、フラットで見晴らしも良くとにかく停めやすい。また、時間を気にせず利用できることが運転者をリラックスさせてくれます。実際、大きなダンプなども多く停まっていたりで、長距離を走るトラックドライバーの方などにも大変助かる施設ではないでしょうか。その点でも道路の安全に大いに貢献している施設と言えます。

 そして、トイレ。ドライブをしていて、清潔で快適なトイレがいかに助かる施設かは言わずもがなですよね。私は、往々日本の未来は、トイレ立国にありと考えている一人です。世界のどんな国よりも、衛生的で先進的な日本のトイレ事情。「道の駅」はそれぞれにメンテナンスにも工夫がこらされていて、まさに日本の良さを再認識させてくれる施設ではないでしょうか。

 地元の空気を感じさせてくれる、ありそうでなかった場

 もちろん地元の特産品や名物料理が楽しめるのも楽しみのひとつ。駅ごとに地域の特色があり、ついついいろいろと試食してみたり、お土産に買って帰りたくなります。私としては「道の駅」で働いていらっしゃる地元の方々の、ちょっとしたやり取りがその土地の空気感を感じさせてくれることが何よりうれしいところだったりします。ついつい、カフェやレストランで長居してしまうのも、楽しいがゆえというところです。

 最近では防災拠点機能やカルチャースクールなどを併設して地域振興を図る場としての機能にも注目されるなど、いつもは公共的な施設に懐疑的な筆者も、この素晴らしいコンセプトとそれを日々実現している企画や運営に関わる皆さんへの賛辞を惜しみません。

 日本人の「駅」への信頼感を生かした秀逸なネーミング

 本連載「ブランドウオッチング」の視点で言えば、何より「道の駅」というネーミングがブラボーです。私自身、初めて「道の駅」を知ったのは、旅先のどこかで予備知識なしのことだったのですが、近隣の道路標識に表示されているのを見た瞬間に、どのような施設であるか完全に理解することができました。しかも、「道」と「駅」という本来相容れない?要素を掛け合わせることで、ありきたりでないワクワクまで感じさせてくれます。

 考えてみると「駅」に対する日本人の信頼感というのはすごいものがありますよね。何はなくとも「駅」に集まりたい、「駅」を起点に生活を営むことが自然な生活感とでも言うのでしょうか。こんなにも「駅」がさかえ、「駅」を中心に市街が形成されている国を私は知りません。そんな、日本人の心情にナチュラルに寄り沿う「道の駅」というネーミング。もしこれが「認定道路休憩施設」なんていう名前だったら、これほど全国には普及していなかったに違いありません。

 都市に一番近い「道の駅いちかわ」で感じたポテンシャル

 今回本原稿執筆のため、東京への通勤圏である千葉県市川市に外環道の整備とあわせて設置された「道の駅いちかわ」に立ち寄りました。

 入口のショップでは地元で収穫された野菜や名産品がずらりと並び、思わず目移りしてしまいます。地元のコーヒー店が運営するカフェでは、カルチャースクール帰りの近所とおぼしきママさんたちが休憩中のドライバーの横で談笑中です。マッサージチェアでリラックス中の方は、外に停まっている超大型トレーラーの運転手さんでしょうか。

 こんな都市部と言っても良い場所でも、十分「道の駅」はニーズがありそうです。

 夏休みも近づいてきました。家族でドライブ旅行に出かけたときは、ぜひ「道の駅」に立ち寄ってその地域の良さを味わってみてはいかがでしょうか。

【プロフィール】秋月涼佑(あきづき・りょうすけ)

ブランドプロデューサー

大手広告代理店で様々なクライアントを担当。商品開発(コンセプト、パッケージデザイン、ネーミング等の開発)に多く関わる。現在、独立してブランドプロデューサーとして活躍中。ライフスタイルからマーケティング、ビジネス、政治経済まで硬軟幅の広い執筆活動にも注力中。
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【ブランドウォッチング】は秋月涼佑さんが話題の商品の市場背景や開発意図について専門家の視点で解説する連載コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら