元受付嬢CEOの視線

受付嬢が自動受付をつくる 私は自分の仕事を自ら奪ってしまったのか

橋本真里子
橋本真里子

 SankeiBizで連載を持たせていただき2年が経とうとしています。今回で40回目を迎えました。読んでくださる方がいるのは本当に幸せなことだと思って書かせていただいております。そんな読者のみなさまは「私が受付嬢だった」ということはご存知かと思います。しかし、実際にどんな会社を経営しているのかは知らないという方は少なくないのではないでしょうか。

 というのは、起業して3年経った今でも、「受付嬢を派遣している会社だよね」とか、私がシステム開発をしている姿が想像つかないのか「美容系のサービスだよね」といった質問を受けることがあるからです。

 この辺りで改めて私が立ち上げた会社が何をしているのかについて触れさせていただきます。

「自分の仕事をなくすサービスを作っているの?」

 弊社はクラウド受付システム「RECEPTIONIST(レセプショニスト)」というサービスを開発・運営・提供しております。ビジネス分野で申し上げますと、B向けのSaaSと言われる領域です。法人向けにソフトウェアを開発し、提供しています。iPadアプリや、Webで使えるサービスを作っています。

 一般的に企業の入り口に置いてある内線電話の代わりにiPadを置き、そのiPadから弊社のアプリを使って来客が担当者を直接呼び出すサービスです。「無人受付システム」と表現されることもあります。

 無人!? 無人で使えるということは、受付嬢が不要になるということ? といった印象をもつ方が多いようですね。そのため、私はよく「自分の仕事をなくすサービスを作っているの?」と聞かれます。しかし答えは「NO!」です。

 今回はなぜその答えが「NO」なのか、私が作ったクラウド受付システムが何をなくしているのかについてお話しします。また、これに絡めて、AIやシステムが人から仕事を奪うことはあるのか、様々な受付が今後どうなっていくのかについても触れたいと思います。 

新たに登場してきたいろんな受付の姿

 少し前、H.I.SホテルHDが経営する「変なホテル」が、ロボットが働くホテルとして話題になりました。あれはまさに新しい受付のスタイルだと思います。ソフトバンクのヒューマノイドロボット「Pepper(ペッパー)」君もそうですね。

 この2つに共通することは、「受付におけるエンターテイメント性」だと思います。例えば、ペッパー君が企業受付にいる場合は、受付には内線電話が併設されていることがほとんどです。となると、ロボットが受付をしているわけではなく、「受付に花を添えている」と表現するほうが正しいかと思います。

 変なホテルのような受付もエンターテイメントとして体験してみたいと思います。しかし、接客のプロであるスタッフに隅々まで行き届いたサービスを期待するようなホテルではまずあのような受付は広がることはないと思います。それは人が「おもてなし」という見えないものに価値を感じてお金を払うからです。

 企業受付にも同じことが言えると思います。私は受付嬢をやりながら、将来自分の仕事がなくなると感じたことはありませんでした。数は少なくなることは確実だと思いましたが、全くなくなるとは今も思っていません。

 「でも、受付システムって受付嬢の仕事を奪うツールじゃないの!?」という質問が聞こえてきます。それはこの後にお話しさせていただきます。

私たちの会社が本当になくしているものとは…

 私が受付システムを作ることでなくそうとしたもの、それはズバリ「ビジネス上の非効率なコミュニケーション」です。

 私が受付嬢だった時、やはり内線電話で来客の取次を行なっていました。来客のたびに担当者に電話をかけ、しかしアポが多い人ほど忙しくて席にいない。となると、近くの席に座っている人が代理対応で内線に出て、担当者を探し回る。せっかく集中していたのに、来客の取次の内線に出るたびに業務を中断し、5分~10分奪われてしまう。これってとても非効率だと思いませんか?

 一方、私たち受付嬢はどうだったかというと、取次業務があるためにカウンターを離れることができなかったのです。受付嬢は取次以外にも実は様々な業務を担っています。おもてなしするという意味で、本当は人が対応したほうがいい「ご案内」「お茶出し」「会議室の整理整頓・予約調整」また、「社員の対応」にもっと時間を使いたいと思っていました。しかし私たち受付嬢が席を外してしまうとお客様は受付ができない状況になってしまいます。取次に関しては、システムで自動化してくれたほうが受付嬢の仕事の幅や質は上あげられると常々思っていました。さらに来社された方の履歴も自動で蓄積することが可能になります。

 現場にいながらこのような不便さを感じていたので、それを解決すべく起業し、サービスを作ったのです。私が作ったサービスが広がれば、受付嬢はもっと輝ける。今、私たちが削っているのは、受付嬢の価値ではなく「非効率な取次業務」なのです。

自分の仕事がAIに奪われるかも!?

 今、あなたが担当している業務は近い将来、AIなどに奪われると感じたことありますか?

 もし感じたことがあるのであれば、今すぐにでも転職なのか、職種を変えるのか、それか働き方を変えることをおすすめします。そう感じているということはおそらく、そう遠くない将来、本当に仕事を奪われてしまう可能性が高いからです。AIが代われる仕事であれば、AIに任せたほうが時間もコストも圧倒的に削減でき、働き方改革が叫ばれるこのご時世には最適です。しかし、あえてそう言った仕事を人に任せる意味をあなたが見出し、付加価値を提供できればきっと仕事は奪われません。そういうスタンスで仕事に向き合えているかが自分の仕事を奪われるか否かにつながると思います。

 「今すぐに」と表現したのは、早いほうが選択肢も選択する時間も潤沢に持つことができ、結果的に自分の人生を豊かにできると思うからです。

報酬に見合った価値を提供する

 先ほどご説明したように、私が受付嬢をやめたのは、自分の仕事がなくなると感じたからではありません。しかし、有人の受付は減っていくと思っていましたし、年齢的なことも考え、このまま受付を続けることは自分のキャリアを狭めていくとは思っていました。自分のキャリアを客観視しつつも、業務に対してはいつも様々な視点をもち、向き合ってきたつもりです。それが起業につながったと思います。

 誰がやっても同じ成果物―。それではAIの進化に関わらず、他の人間に奪われるだけです。自分にしか提供できない価値を提供できるからこそ、会社はあなたに仕事をお願いし、報酬を支払うわけです。それは業務面だけに限られたことではないと思います。会社にとってとても重要な文化作りに貢献できるかなどの存在価値の提供も、自分にしかできない仕事のひとつといえます。

 会社は人間で構成されています。企業で働くことを通じて様々な人間関係や感情が生まれます。「この人と一緒に仕事をしたい」。そう思われるようになれば、どんな仕事でもAIや機械に奪われることはないでしょう。特別なスキルや資格がなくとも提供できる価値はあると思います。今より少し「付加価値」を意識してお仕事に取り組んでみると、あなたも会社も変わっていくかもしれませんね。

橋本真里子(はしもと・まりこ) ディライテッド株式会社代表取締役CEO
1981年生まれ。三重県鈴鹿市出身。武蔵野女子大学(現・武蔵野大学)英語英米文学科卒業。2005年より、トランスコスモスにて受付のキャリアをスタート。その後USEN、ミクシィやGMOインターネットなど、上場企業5社の受付に従事。受付嬢として11年、のべ120万人以上の接客を担当。長年の受付業務経験を生かしながら、受付の効率化を目指し、16年にディライテッドを設立。17年に、クラウド型受付システム「RECEPTIONIST」をリリース。

【元受付嬢CEOの視線】は受付嬢から起業家に転身した橋本真里子さんが“受付と企業の裏側”を紹介する連載コラムです。更新は隔週木曜日。アーカイブはこちら