シリコンバレーベンチャー 目を見張る創業者の行動力
先日、ある米シリコンバレーのベンチャー企業のオーナーとディナーをする機会があった。日本で本格的にビジネスをすることを決意して、スタート準備を相談するためだった。これまでのシリコンバレーのベンチャーは、中国市場に関心を示していて、日本市場は「COOLでない」という評価が強かったが、最近急速に日本市場の魅力が増しているとのこと。(旭川大学客員教授・増山壽一)
創業者の顔触れは、インド人、イスラエル人、ロシア人そしてアメリカ人。共通点は、夢と実行力がある若者であること、そしてMBA(経営学修士)という共通の教育を受け、共通の思考回路をもっていることだ。何時間か話していると、創業者のビジネス行動を垣間見ることができた。
彼らのビジネスの基本は、人物中心の人間関係。その人物をまず知っているか。そして信用できるか。また知的か。そして広がりがあるか否か、それが基本という。
その食事中、東京本社をまだどこにするか決まっていないにもかかわらず、多少日本語が話せるロシア人が日本で働くことが皆の総意で決まっていた。今から大至急ビザ(査証)を取って、住まいを準備して、会社登記をしなければと次々に心配事が出てくる中、彼らにとってはそんなことは全く意に介していない。専門の優秀な弁護士事務所にお金を払って、すぐに進めたい。大事なことは時間だと。
そして、私に「でも住まいは、とっても大事。豪華な住まいは全く必要ない。日本人の若き創業者と同じような質素で、便利で、安全で、快適な住まいを用意してくれ。その代わりに自分の車のキーを君に贈りたい」と言って、鍵を差し出してくれた。私も少し酔っていたせいか、もうびっくり。
その車は、米テスラ・モーターズの最高級車で公道での自動運転可能なスーパーカーだった。後で気づいたが、この車は全てスマートフォンで操作が可能で、鍵は必ずしも必要ではない。しかも車がある場所はシリコンバレー。いったい彼は、何人に鍵を渡しているのかしらとも思ったが、非常に印象的な出会いだった。
スピード、人間関係、信頼、ジョークなど新たなビジネスを起こすときに必要な要素だ。日本の中小企業にも共通する要素ではないか。今もあるもの、失われつつあるものそれぞれだなと実感した。
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【プロフィル】増山壽一
ますやま・としかず 東大法卒。1985年通産省(現・経産省)入省。産業政策、エネルギー政策、通商政策、地域政策などのポストを経て、2012年北海道経産局長。14年中小企業基盤整備機構筆頭理事。旭川大学客員教授。京都先端科学大客員教授。日本経済を強くしなやかにする会代表。環境省特別参与。56歳。