社長を目指す方程式

社長になる人は動機付けがうまい 社員のやる気を引き出す「5つの特性」

井上和幸
井上和幸

 こんにちは、経営者JPの井上です。新年度も3カ月が過ぎ、GWもいまや昔という感じではないでしょうか。改元ブームも一段落、一方ではそろそろ夏休みに何をするかも気になり始める今日この頃。ともすると中だるみにもなりがちなこの時期、仕事のやる気に再度火をつけたいものです。今回は、上司の皆さんにとっての、自分自身がやる気になれる仕事の得かた、部下がやる気を出す仕事の与え方の心理学をご紹介します。

 モチベーションを引き出す方程式

 社長になる人は、動機付けがうまい。自分自身のモチベーションを上げるのもうまいし、何よりも社員たちの動機付け力に長けています。

 動機付け、モチベーションは、心理学でもかねてより関心高く人気のテーマでもあり、様々な研究者が研究、理論発表をしています。

 今回はその中から、心理学者J・リチャード・ハックマン(J. Richard Hackman)と経営学者グレッグ・R・オルダム(Greg R.Oldham)が研究・理論化した「職務特性モデル」(Job-Characteristics-Model)をご紹介しましょう。

 この職務特性モデルでは、職務における「5つの特性」がモチベーションを左右する要因だといいます。

  •  【1】技能多様性(Skill variety)
  •  【2】タスク完結性(Task identity)
  •  【3】タスク重要性(Task significance)
  •  【4】自律性(Autonomy)
  •  【5】フィードバック(Feedback)

 以上の「5つの特性」を満たすことによって「有意味感」や「責任感」などの心理状態が発生し、モチベーションがUP。それが仕事の成果につながっていくと考えられるのです。

 興味深いのは、ハックマン=オルダムがこの5つの特性を数式化していることです。

MPS(Motivating Potential Score)=(【1】技能多様性+【2】タスク完結性+【3】タスク重要性)/3 × 【4】自律性 × 【5】フィードバック

 MPSとは「モチベーションが引き出されるスコア」のことで、「【1】技能多様性」「【2】タスク完結性」「【3】タスク重要性」が基本因子、「【4】自律性」と「【5】フィードバック」がレバレッジ因子となっています。

今回の社長を目指す法則・方程式:

ハックマン=オルダムの職務特性モデル「モチベーションが上がる仕事の5つの特性」

 【1】技能多様性【2】タスク完結性

 我が社ごとで恐縮ですが、経営者JPでは社員の業務担当の仕方を「仕事の流れ、関連性を重視したマルチタスク型」にしています。

 例えば、Aさんはセミナー事業と会員事業、広報業務を兼務しています。こうすることで、外部向けセミナーの企画をすることと、それを発信すること、そこから顧客が流入してくるプロセスの管理、実際のセミナー運営までを担当することで、一連の全体の流れを見て、自分の責任と裁量で試行錯誤することができます。実際の顧客にも開催セミナーの場で触れるため、そこで得たリアルなFBをまた次のセミナーの企画内容や広報の仕方にも反映していく。

 その過程を通じてAさんは、さまざまな職務スキルを身につけていきます。

 「5つの特性」のうち、「【1】技能多様性」と「【2】タスク完結性」を満たしているわけです。

 仕事はなるべく「大きく」切り取って担当しよう(させよう)、ということです。全体が見られて、様々な技を繰り出せるほうが、仕事に意味とやりがいを見出せると考えています。

 【3】タスク重要性

 昔、某ベンチャー時代に、ある幹部の行動が問題になっていたことがありました。女性社員たちから私に、「ちょっと**さんに言ってくださいよ(怒)」とクレームの嵐が…。

 事の顛末は、ある日の夕方、幹部のBくんがサポートスタッフのCさんに「これ、明日の朝までにやっておいて。お客さんに持っていくから」。Cさんは、(「えー、今から? これからやったらかなり残業することになるのに…」)。しかしBくんが明日お客様の所に持参するということで、Bくんの対顧客満足のために頑張ろうとかなり宵越しまで時間をかけて資料を作成しました。

 翌朝、CさんがBくんの机の上を見ると、その資料が置かれたままではないですか。Bくんはお客様の所に出かけています。「あれ?? 資料忘れてる!!!」、慌ててCさんはBくんの携帯に連絡。するとBくんは、「あ、忘れてた。いいよいいよ、たいした資料じゃないから」。これでCさんは完全にキレたことは、言うまでもないでしょう。

 せっかくの仕事が「意味ない」と言われたり感じさせられたら、やっている当人は虚しいばかりですよね。

今回の社長を目指す法則・方程式:

ハックマン=オルダムの職務特性モデル「モチベーションが上がる仕事の5つの特性」

 逆に例えば非常に単純な作業であったとしても、それがいかに大事なことを仕上げるのに必要なプロセスなのかなどをしっかり理解させてくれて取り組めれば、やる気も起きるものです。

 「この仕事、意味ある? 意義ある?」という疑問に上司としてしっかり答えましょう。せっかくやっても、意味がなければつまりませんしやってられません。

 できる上司のあなたなら「【3】タスク重要性」をしっかり満たし、メンバーに自分が「重要な仕事をしているのだ」と思わせてあげていることでしょう。そのときメンバーの「自己重要感」が満たされて、モチベーションが上がっているのです。

 【4】自律性【5】フィードバック

 当社ではまた、自分が担当していることには、基本的に自己裁量権・意思決定権があります。決定を仰ぐ事項も、上から指図されたり、「ああしろ」「こうしろ」と先に言われるのではなく、担当者が「こうしたいですが、良いですか」というコミュニケーションを取ります。

 やりがいを持って仕事をするには、自分が創意工夫できることが大事です(「【4】自律性」)。同じことをやっていても、人から指図された仕事はいまひとつのらないし、自分が試行錯誤したものは面白いですよね。

今回の社長を目指す法則・方程式:

ハックマン=オルダムの職務特性モデル「モチベーションが上がる仕事の5つの特性」

 自分がする仕事に意思決定権があると「自律性」が確保され、モチベーションに好影響を与えます。自分のやり方で仕事を進められ、上司からああだ、こうだと細かいことを指図されず、仕事を任せられている状態を作ってあげることが大事です。自分のすることは自分で決める「自己決定権」を与えられることは、やる気を引き出す大きな要因です。

 私の出身会社であるリクルートは、江副さんが創業した当初から現在に至るまで、とにかく称賛する・褒める機会をオフィシャル・アンオフィシャルに作ることを徹底してきた会社です。

 皆さんも聞いたことがあると思いますが、私が入社した当時などは、オフィスのあちらこちらに受注や目標達成のお祝い垂れ幕が垂れ下がっており、太鼓がなったり、本社では目標達成速報の館内放送が流れたりしていました。社内報などもものすごい種類が発行されており、それぞれの中でいい仕事が取り上げられていたり、イベントなども全社や各事業部で開催されそこでも必ず表彰プログラムが組み入れられています。

 とにかくあらゆる機会で良い仕事、業績を認め、称賛するというDNAが構築されている。それもリクルートの強さ、業績の高さの秘訣だと思います。

 人は認められたり称賛されるから、更に頑張るものです。「【5】フィードバック(Feedback)」の仕組み、仕掛けがあるか否かも、やる気を大きく左右します。

 また、そもそも自分が行った仕事に対してフィードバックがあり、手ごたえを確認できるか否かはモチベーションを左右します。

今回の社長を目指す法則・方程式:

ハックマン=オルダムの職務特性モデル「モチベーションが上がる仕事の5つの特性」

 業績達成の可視化のみならず、上司の定性的な評価やお客様からの感謝の言葉など、自分が行った仕事に対して何らかの結論、評価、反響を知ることが大切です。

 サポートスタッフも同様ですね。先のBくんとCさんの話などでも、上司に提出した書類が、どういった使われ方をして、どう役に立ったのかについて、Bくんからフィードバックがあり、「よくできていたよ。お客様に褒められた、ありがとう!」といった話であれば、Cさんにはとても大きな達成感が生まれますし、あるいは「もう少し、こんな風に作ってもらえるとよかったな」というものであったとしても、失敗とわかれば反省し次の行動につなげようという気が沸きます。いずれの結果内容であっても、フィードバックはやる気の重要な要素です。

 MPS(Motivating Potential Score)の公式を参考に「5つの特性」を自分の仕事にあてはめて考えてみれば、それぞれが自身のモチベーションに関連していることは腑に落ちるかと思います。

 そもそも、上司が微に入り細を穿ちで指示命令をするマイクロマネジメント型だと、社員は「うざいなぁ」と思いつつ、同時に上に依存する体質となってしまいます。「うるさい」「指示が納得できない」などと言う癖に、上からの指示がなければ行動できない人材に。これほど最悪の状態はありません。モチベーションは低く、社員たちの自立心は劣化、組織力は低下する一方です。

 リーダーシップとは「他人をしてことを成す」ことですが、それはつまり、組織の目標を達成するための良好な対人影響力のことを表しています。

 リーダーがよい影響力を与えている状態とは、部下のモチベーションを維持できている状態を指します。

 社長になる人は、「5つの特性」が満たされる状況状態を創出しキープできるように自社、自組織の仕事を設計し配分する。

 上司の皆さんも、「自分の仕事がそうなっているか? 部下の仕事をそうしてあげられているか?」、ぜひチェックしてみてください。

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井上和幸(いのうえ・かずゆき) 株式会社経営者JP代表取締役社長・CEO
1966年群馬県生まれ。早稲田大学卒業後、株式会社リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職後、株式会社リクルート・エックス(現・リクルートエグゼクティブエージェント)のマネージングディレクターを経て、2010年に株式会社 経営者JPを設立。企業の経営人材採用支援・転職支援、経営組織コンサルティング、経営人材育成プログラムを提供。著書に『ずるいマネジメント 頑張らなくても、すごい成果がついてくる!』(SBクリエイティブ)、『社長になる人の条件』(日本実業出版社)、『ビジネスモデル×仕事術』(共著、日本実業出版社)、『5年後も会社から求められる人、捨てられる人』(遊タイム出版)、『「社長のヘッドハンター」が教える成功法則』(サンマーク出版)など。
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【社長を目指す方程式】は井上和幸さんがトップへとキャリアアップしていくために必要な仕事術を伝授する連載コラムです。更新は原則隔週月曜日。アーカイブはこちら