東京商工リサーチ特別レポート

「赤字全部出しちゃえ」…ライザップ社長が激白 去った“恩師”への思い

東京商工リサーチ

 前期(2019年3月期)決算を5月15日に発表したRIZAPグループ(以下ライザップG)。瀬戸健・代表取締役社長が『ウミ出し期間』と表現した前期は、最終赤字(連結)が193億9300万円に膨らんだ。

 発表翌日の16日、瀬戸社長は東京商工リサーチの単独インタビューに応じた。半年の間にライザップGの会社売却や店舗撤退などの構造改革に相次いで踏み切った瀬戸社長。6月に取締役を退任する松本晃氏(プロ経営者として知られる前カルビー会長兼CEO)への思い入れや今後の方針を語った。

――決算発表を振り返って

 「出すもの(赤字)を全部出して気持ちはすっきりしている。どこが良い事業で、どこが良くないのか、明確にお知らせした。今回は、現場も 『(赤字を)全部出しちゃえ』という風向きだった。赤字を1回ですませよう、と。黒字の店舗でも2年後には閉店したいところもある。そういう店もこのタイミングで引当を積んだ。会社としては、これで次のステップに行けるという明るい気持ちだ」

――第3四半期で(グループの)上場8社が黒字予想だったが、4社が営業赤字に終わった

 「SDエンターテイメントは売却時期が映画、エンタメ関連が書き入れ時を迎える正月前だったことも影響した。また、秋の胆振東部地震で1億(円)の赤字も出た。アパレル会社では棚卸資産の評価損を(売上)原価に計上したのが響いた」

――もともと、大規模な店舗閉鎖は19年3月期に行う予定だったのか

 「流れ的に『この際だからやってしまおう』ということになった。うちの場合、IFRS(国際会計基準)なので減損処理も本体ですべてマイナスとなる。店舗閉鎖もすべて営業損失だ」

 「例えば、さらに今期(20年3月期)も(グループ会社の)店舗閉鎖をやってしまうと、10億、20億は簡単に消えてしまう。それはやりたくない。今期は黒字を何としても確保したい。一方で、IFRSの場合、営業損失を出したくないばかりに店舗閉鎖や撤退に躊躇が生じやすい傾向にある。20年3月期で赤字を出さないためにも、19年3月期で大きい所を処理した」

――ジャパンゲートウェイ、タツミプランニングの2社で70億円以上の赤字が出た。原因は?

 「ジャパンゲートウェイは売却損もあるが、(18年)4~7月の広告宣伝費用だけで15億円かかった。かなりの額を投資しながら、ほとんど回収できなかった。タツミはのれん分けもあるが、太陽光関連も大きかった。(国からの)補助金が減額され、とうとうカバーできなくなった。早く(太陽光から)撤退していればこんな大きな赤字を出さずに済んだ」

――今後、グループ企業の売却は予定しているか?

 「前期は、非継続事業として赤字を大きく出したジャパンゲートウェイとタツミプランニング2社の損失が喫緊の問題だった。また、継続事業のワンダーコーポレーションも赤字店舗を中心に構造転換として閉鎖、引当をした。大きな塊で赤字が明確だった。2019年3月期で緊急的に大量出血していた部分を取り除いた」

 「他のグループ会社はそれほど緊急じゃない。(売却の)扉は開いておく。『この事業が欲しい』という話を頂いた場合は、検討する。でも、何から何まで売るとはまったく思っていない。言葉は悪いが、前期は“足元を見られやすい”状態だった。憶測で『RIZAPがこの会社を売りたがっている』と、あらぬ売却に関する情報が拡散された。仲介会社も、とりあえず(買収先に)話を持って行って、(買収を)やるって言ったらこちらに初めて売却話をすることもあった。売却を考えていない会社であっても、そういうことがあった」

――松本晃取締役とグループ会社の再編を行ってきた。招へいして良かったことは?

 「自分で見落としていたもの、“そこを突かれたら痛いな”という部分を言ってもらった。例えば、特定分野に詳しい幹部に任せる領域が大きくなってしまい、本来の責任が不明確になったこともあった。そして、あいまいな責任が発端で損失も増えていた。松本さんの助言で役職の兼務を禁止にする新たな施策もできた。そういったエピソードは少なくない」

――松本晃取締役を呼ばなかったらライザップGはどうなっていたか?

 「こんな質問は初めてだ(笑)。正直言って、松本さんが来なかった場合をできるだけ考えないようにしている。戻りようもなく、検証したところで今は今なので。線路の方向は(松本さんが来て)変わった。今後も方向の変わった線路の上で未来を造るしかない。良いことも含めて“あの時、こうなってなかったら”ということは考えていない」

――昨年8月のインタビューで医療関連のM&Aを検討していたが、今はどうか?

 「非常に興味はあるが、明確には決まっていない。だが、糖尿病の疾患を持っている人に訴求できる取り組みをすでに医療機関と行っている。今、糖尿病を扱う医療機関120か所以上とすでに提携している。糖尿病の患者さんの薬の投与量の減少を目指し、RIZAPのトレーニングを医療機関と連携してやっていく。(人工)透析は、国の方でも莫大な医療費を気にしている。予防活動は、社会的にも価値があると思っている」

――海外展開は?

 「ロサンゼルスは、マネジメント不備で出店から半年で撤退した。現在、台湾、上海、シンガポールなどに出店、元プロスポーツ選手や芸能人などを広告に起用し、順調に伸びている。今後もアジア地域で出店を増やす。アジアは糖尿病の方も多い。サウジアラビアも炭水化物をとる人が多く、糖尿病は多い傾向にある」

――東証鞍替えの思いは変わらない?

 「2021年3月期に中計をバージョンアップするが、そのタイミングが良いだろうと思う。2020年3月期の本決算発表の時期に、何かしらアナウンスできるよう進めていきたい」

◇ ◇

 ライザップGは2018年10月以降、グループ会社の売却や事業統合、店舗の統廃合などの構造改革に着手。瀬戸社長は、「赤字は2回出せない。損失を出し切る」と語り、グループ各社は思い切った構造改革の実施で当初予想より営業減益となった企業が大半を占めた。

 ライザップGの1社と取引のある企業は、今回の構造改革に一定の理解を示した上で、「事業の見直しや店舗のリニューアルをした直後は業績が好転する。この業績を維持できるかが重要だ」と引き続き動向を注視する。

 ライザップGは、構造改革による赤字計上は「一過性」としているが、今後も改善した業績を維持できるか注目される。

東京商工リサーチ特別レポート】は大手信用調査会社の東京商工リサーチが、「いますぐ役立つ最新ビジネス情報」として、注目の業界や企業をテーマに取材し独自の視点に立った分析をまとめた特別レポート。随時掲載します。アーカイブはこちら