【ビジネストラブル撃退道】粗末な仕事依頼で著名人を怒らせた…親書をネットに晒されたときの対処法

 
※画像はイメージです(Getty Images)

 コラムニストの中森明夫氏が、同氏の元に届いたツイッターのDMに不快感を表明した。フジテレビ系『Mr.サンデー』のスタッフを名乗る人物(K氏)からのDMだが、まず「中村様」から始まる。アイドル評論家の立場として、NGT48・山口真帆の最終公演について意見してほしい、という依頼内容だ。この名前を間違えたことと、ギャラの提示がなかったことを同氏は問題視し協力を拒否。「こういういい加減な依頼に応じたら、山口真帆さんに申し訳ない」と締めた。

 中森氏のこの対応についてはK氏の対応を批判する声もネットには多数書き込まれたが、「DMをわざわざ晒さなくても」「特段失礼ではないのでは」「ギャラを提示せずとも自分なら仕事はする」といった意見も筆者の周囲では見られた。ただ、同様の依頼を受ける立場としては中森氏の不快感も理解できる。また、DMを送ってきたスタッフの「当番組5月19日(日)の放送に向けて動いていまして。」という一言はもしかしたら中森氏をイラつかせたかもしれない。

 「放送に向けて動いていまして。」ではなく、「放送に向けて動いております。」だったらイラッとしない。もしかして「まして」が敬語だと思っているのかもしれない。今回のビジネストラブルに関する対応は、コレである。

 「こうした内部文書(親書)を実力者からネットに晒された場合の対処法」

 当初、もしかしたら中森氏は「フジテレビ『Mr.サンデー』のKと申します。中森様のご意見を伺いたく、一旦フォローの上、DMでやり取りをさせていただけませんでしょうか」という昨今の若い制作会社がやりがちな仕事の依頼に腹が立ったのかと思った。実は私は「ツイッターでフォローを求めるテレビ局の人間」は無視することにしているからである。

 「あのよ、オレの連絡先なんて分かるヤツはいくらでもいるだろうよ? 少しは努力しろ。なんでオレにフォローを求めるんだ。お前なんてフォローしたくない。あと、公開の場で仕事の依頼をするってどーなの? お前らがやりたいネタをライバル会社が予想できちゃうだろ?」

 こう思うのである。もちろん、こうした連絡の手法は合理的ではある。制作会社の人間がツイッターで連絡を取ろうとしてくるのも分かる。だが、これは生理的にイヤなのである、としか言えない。多分、古参のスタッフや正社員であれば、ツイッターのDMという手段を使わず、なんとかツテのある人物を介してメールアドレスか電話番号を探り当て、その人に「○○テレビのスタッフに連絡先教えてあげていい?」と聞くものである。

 とはいっても、これは中森氏の怒りの理由とは異なるかもしれない。中森氏は、フォロワー以外でもDMを送ることができる設定にしている。となれば、そこは問題ではなく、「名前を間違えた」「ギャラの提示がなかった」ことに加え、もしかしたら「いまして。」という口調が逆鱗に触れたかもしれない。

 恐らく、中森氏のこの暴露ツイートを見たフジテレビの社員や制作会社の上司は慌てたことだろう。勝手にK氏が制作会社の若者、という話にしているが、この手のツイッターで連絡を求めるテレビの制作スタッフの多くは制作会社勤務の若者である。

 彼らからの問い合わせは私個人にも、そして自身がかかわるメディアにも頻繁にやってくるが、多くはバカである。いや、まだ若い方が多く、未熟、といった方が正しいかもしれない。だが、呆れるような問い合わせが少なくない。

 テレビの場合、まだ最強メディアとしての驕りから来る「テレビで紹介してあげるんだよ」的な態度が問い合わせのメッセージに含まれていることが案外多い。正直、私自身は名前を間違えられようがギャラの提示がなかろうが仕事を断る理由にはならないが、人の怒りのポイントというものはよく分からないので、こうした著名人等に仕事の依頼をする場合は、以下を心掛けておいた方が無難である。

知り合いのツテから依頼をする。

とにかく対外的な依頼をする者には、日本語を勉強させる。尊敬語と謙譲語の違いを理解させ、無礼だと感じられる物言いが混じっていたらそこを改善させる。

過去に面倒臭い発言をするような専門家がいたら、その情報は共有しておくべき。著名な芸能人や経営者、スポーツ選手を除き、全分野に代替の「面倒臭くない専門家」は存在するもの。そうした面倒臭くない人々とのネットワーク構築を心掛ける。

 そして、ネットに晒されてしまった場合はどうすべきか?

 もう、これは「スルー」でOKである。「親書晒し」をした大物に対しては「本当にひどいですね」「許せませんね」「○○さんのことを軽く見過ぎています」といった信者からの擁護コメントが殺到する。これらを見たご本人は、よりお山の大将化が加速し、いたいけな若者叩きを扇動する流れになるかもしれない。

 こうなったら、その依頼をした者(今回の場合はK氏)が、ますます「なんでオレは名前を間違えたんだ…」と落ち込むことだろう。そうなった場合は、上司なり同僚は「まぁ、しょうがないよ。今後はもっと丁寧に仕事を依頼しような。もう、××さんはオレらに怒ってるから仕事を受けてくれないと思うけど、別に他の専門家もいるから、無理して詫びる必要はない」と言い、むしろその若者の成長を期待する、というのが生産的である。「親書晒し」は、若干後ろめたさはあってしかるべきである。

 ただし、本当に失礼過ぎる依頼をしたのであれば、当人に会い、誠心誠意謝罪すべきである。それは当然のこととして、今回はまぁ、「この程度のバカは目をつぶってあげても良かったのでは。当人に言うだけで、晒す必要はなかったのでは」とは思った。

【プロフィール】中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)

ネットニュース編集者
PRプランナー

1973年東京都生まれ。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『謝罪大国ニッポン』『バカざんまい』など多数。

【ビジネストラブル撃退道】は中川淳一郎さんが、職場の人間関係や取引先、出張時などあらゆるビジネスシーンで想定される様々なトラブルの正しい解決法を、ときにユーモアを交えながら伝授するコラムです。更新は原則第4水曜日。アーカイブはこちら